第32話 会見。

真っ白い部屋に入るとカメラやらなんやらが俺の方を向いている。

俺は若干16歳を口にして座席を用意させた。

立っての会見なんてなんか嫌すぎる。

足はガクブルだ。


カメラマンの他に機械操作の人達も居たが中には昨日の銘菓君達も居て手を振ってくれるので俺は少し落ち着けた。ちなみに母さんと平定も来たが3人目は来なかった。



キチンとスーツに身を包んだ日影一太郎は「本日は我々能力者至上委員会に新たなる同志が加わった事を伝える為にこの映像を用意した」と言い始めた。


この場の台本は前もって貰っていた。

大まかな流れだけだが、日影さんの後に俺に焦点が当てられて俺はなんで至上委員会に来たのかを俺の言葉で話す事になっている。


そして証人のように昨日の3人が出てきて頑張って力を合わせて逃げ出した話をする事になっているのだがここで日影一太郎は暴走をした。


「私の名は日影一太郎。能力を持たない旧人類だが能力者至上委員会は私を受け入れてくれた。それは何故か?私には花子という妹が居た。能力者だったが除染作業の果てに汚染物質と過労によって殺された。だから能力者は至上委員会で保護をされるべきだ!」


名を名乗り自分の言葉を語る日影一太郎。その予定外の行動に俺や銘菓君達はどよめきを起こすが母さんと平定はやれやれとやって困りながらもどこかに連絡を取ってGOサインを出した。

恐らく3人目の許可を得たのだろう。


「我々は昨日、至上委員会に招待して保護をしたが旧人類を捨てられないと多少の茨の道でもと我らが元を去った同志を再度保護をした」


日影は手でカメラマンに俺を撮れと指示を出す。


カメラは俺を向いてその横に見えるテレビには俺が映し出された。


モザイク無しかよ。

もう、俺の顔全国区。


あ…行方不明の時に全国区か…。


「彼の名は日向 冬音!皆も知っている自衛隊希望の星…旧人類の英雄だった男だ!」


俺は即座に「英雄じゃない!」と言おうとしたが母さんがカンペとかいう紙を見せてきて「耐えて」と書かれていて我慢する事にした。


「彼は能力者として殺された両親の事もあり、能力をひた隠してきた。だが友達の為にと立ち上がると国家の連中は彼の高校行きを取り下げて能力者として扱った。そして大切な友人を守る為に特例法を使わされて15の身空で結婚をした!何もかもを取り上げて働かせてきた!それなのに彼は旧人類の為にと言って、能力者の風当たりが強いのに旧人類の元へと帰って行った。そんな彼が昨日帰還した!その言葉をぜひ聞いてほしい!」


日影一太郎が黙って俺を見て微笑む。

その目はお前が司会に選んだからだと言っているように見えた。


だからって名前まで出すかコノヤロウ…。

まあ全国区だけど…。


「はじめまして。日向 冬音です。俺は昨日至上委員会に保護をしてもらいました。帰った理由は日影さんが言った通り、俺には妻が居て妻にもお母さんが居て俺達には友達がいるから。その人達を色んな危険から守りたかったから。だけど俺達は歓迎されなかった。妻のお母さんは俺の義理の親だからと石を投げられて怪我をした。そして自衛隊の病院でも平等に扱われず虐げられた。妻は毎日至上委員会に取り入りたい奴と家族に能力者が居ない、至上委員会に入れない人間からの嫌がらせに泣いていた。

遂には俺の家に火が放たれた。

半焼だったが俺たちは限界だった。

本来、俺達を守ってくれる筈だった日影さんは自衛隊ではなく至上委員会の人だったから別の人が来たけどこの騒ぎと人不足もあって言葉通り見ている事しか出来なかった。

だから俺は家族を守る為に至上委員会に身を寄せた」


せめてもの仕返し。

日影さんが自衛隊を裏切った事が遠因だと伝える。


日影さんは小さく「怖いけど楽しいね」と言った。


そして自分にカメラを向けさせると「そう!私は妹を殺し我々の英雄に牙を向けた旧人類を許せなかった。彼の父母は化け物達から街を守る為に死んでくれと言われた。まだ2歳の彼を残して死ぬわけにはいかなかった両親に街の連中は彼の面倒は見るから戦えと言いながら言葉通り見ただけで助けようとしなかった!街ぐるみで隠蔽をし、国からの配給すら体裁が悪いからと勝手に断っていた。15歳の彼は1日一食でなんとか食いつなぐ日々!妻になってくれた彼女からのお弁当を楽しみに待つ日々だった。彼は母の知人が毎月入金してくれたお金も最低限しか使わずに耐え忍んだ!」と言った。


ん?あの入金?


俺は慌てて母さんを見ると母さんのカンペにはMはMOTHERのMよと書かれていた。


死んでると思ったから気付きませんわー。


「そして能力者だと明かしたら更に状況は悪化した。八百屋も魚屋も肉屋も彼にクズしか売らなくなった。そんな街なのに彼は守りたいと我々の元を去って絶望をした!」


絶望までしてねぇよ。

人間なんてあんなもんだっての。


そしてまたカメラが俺に向く。

呆れ顔になってなくて良かった。


「半焼して家を離れたら俺達の家が完璧に焼かれた。昨日、その動画を見せて貰った。だから俺はここに来た」

「だが自衛隊は彼を謀殺しようと我々のバスを戦闘ヘリで攻撃をした」

ここに銘菓君達が登場してドライブレコーダーの映像と共にどうやって逃げたかを説明していく。


俺の指示出し入りで忌々しい事に小夏の名前と姿まで入っていた。


だがこうなってしまうとある程度は仕方ないと割り切る事にした。


ここまでが予定、台本の話。


「我々能力者至上委員会はこのような行動をする旧人類を許さない!虐げられる能力者達よ!我らの元に来てくれ!」

日影一太郎の熱演で映像が終わろうとする時、俺は手を挙げた。


どよめきを感じるが知らない。


「台本から外れたのは日影さんのせいだよ」

そう小さく呟くと俺はカメラに向かって「俺は敵ではない。キチンと仕事としてコッチに依頼をくれれば関東と東北と中部の一部だけど蓄電池に充電にも行く。日影さん達が困窮させようとしても俺は正当な報酬が出ればキチンと行く。俺が抜けたからと使い潰される能力者が出ないように俺は週5、1日移動時間込みで8時間まで働く。だから皆の生活はそう変わらないはず。後は日影さんと自衛隊の交渉次第だから頑張って貰って」と言った。


母さんと平定を見ると平定の顔は怒っていない。

むしろ喜んでいる。

母さんの表情はわからないが怒っていないのは伝わってくる。


映像が終わってないのに銘菓君達が「危ないって!アイツらの前に出たら何されるかわからないよ!」と言ってくれる。

カメラは引いて俺と銘菓君達が映るように撮っている。


「平気だよ。俺が生きてる限り全面戦争なんてさせない。だから銘菓君も水源の除染とか一緒に行こうよ。まずは立場抜きで日本をよくしよう」

この言葉に銘菓君はため息をついた後で「わかったよ」と言ってくれた。


そこまで放送された後で日影一太郎は俺を見て「怖いなぁ」と言って笑った。


「日影さん程じゃないよ」

「そうかい?」



なんとなくだが確信があった。


日影一太郎は俺の敵になる。

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