第29話 決断。
ひとまず家にいても何があるかわからないから自衛隊の住まいを借りた。
これは小夏と相談をしておばちゃんを守る意味でも大切だと判断をした。
だがそこもある種の地獄だった。
聖ジジイの仲間、旧人類でジジイを敬っていた奴は俺を歓迎しなかった。
油断させて基地ごと破壊するつもりだろうと疑ってくる。
俺だけなら慣れて居るし覚悟もあるがそれを小夏やおばちゃんにやるのは耐えられなかった。
治療中のおばちゃんは待合室で順番を飛ばされて8時間待たされて、それに気づいた家族に能力者がいる連中がおばちゃんを助ける事で保険代わりに恩を売ってきた。
小夏も普通に挨拶をしたらかなり悪く言われ、そこに助けにきた奴が至上委員会に行きたい奴で代理戦争みたいになって小夏は心を痛めた。
夜になると「ここも辛いね」と言って小夏は泣く。
俺は夢野勇太に談判をしたが日影さんが居なくなり、多数の能力者が裏切ってしまいそれどころではない夢野勇太からは「耐えてください」しか言われなかった。
俺の中にはこのまま自衛隊に居るか、それとも至上委員会に行くかの気持ちがあって揺れていた。
夜、今晩も泣く小夏を抱きしめる。
小夏は「私達は誰の敵でもないのに」と泣く。
今日はこの前小夏やおばちゃんを助けた連中からいつ至上委員会に行くのかを聞かれてその予定が無いと言うと恨み節を聞かされて罵倒されていたと言う。
近くで見守る坂佐間舞は役に立つ事なく本当に見守る…否、見て居るだけだった。
ここも限界だ。
俺は一つの決断をする事にした。
「小夏」
「冬音?」
「この先もさ、俺といてくれないかな?」
「居るよ。どうしたの?」
「とりあえず至上委員会に行くか?」
「冬音が行きたければいいよ。お母さんと行けるよね?」
「そうだな」
俺の歯切れの悪さに小夏は「冬音?」と聞いてくる。
「今、少しだけ考えていることがあってさ…。少し大変な事なんだ」
「何?」
「ちなみにそれをすると旧人類からも新人類からも疎まれるかも知れない。それでも…ずっと…俺といてくれないかな?」
俺の言葉に優しく微笑んだ小夏は「居るよ。私は冬音が好き」と言ってキスをしてくれる。
「こんなの終わって平和になったら赤ちゃんに来てもらおうよ」
それは…、それをすると言う事で、考えるだけで緊張してしまう。
「いいのか?今ならまだ…子供…出来たら」
「だから一緒に居るって言ったよ?」
「きっとこの部屋は盗聴されてるから大慌てだな」
「でも確証ないし、疑わしきは罰するかな?」
「別に、ここの連中には何も出来ないよ。俺に飯を食わさなきゃそう遠くない未来に電力は枯渇する。除染した大地で育てる野菜もまた汚染される。でもさ、盗聴してるなら言ってやるかな」
俺はニヤリと笑ってから「坂佐間舞は小夏が虐められても見てるだけ、小夏のおばちゃんが病院で嫌がらせを受けても知らんぷり。夢野勇太も耐えろとしか言わない。こうなった原因はアイツらだよな」と声を張る。
そして…。
「後は聖ジジイの国葬は出たかったけど無理そうなのが残念だよな。ヤなジジイだったけど仲良くなれてたしな。俺と小夏の子供にも真剣に意味とか考えて名前を付けてくれたかもな」
俺は一度深呼吸をしてから「ジジイ、俺は俺でやる。でも俺は英雄なんかじゃない。だから好き勝手生きてやる」と言って小夏を抱きかかえてベッドに連れて行く。
布団を頭から被って母さんに「接触してくれ。でも保護を求めるだけ、電力供給なんかは手伝う。でも旧人類とは戦わない。俺と小夏、小夏の母さんをまずは保護してくれ。多分盗聴されてるから監視が強化される。大変だけどよろしく」と送るとすぐに「余裕よ。任せなさい」と帰ってきた。
翌日、あからさまに護衛(笑)の人数は増えたし、SPのフリをしておばちゃんを俺達から分断しようとする輩が増えた。
泣き腫らした坂佐間舞と落ち込んだ夢野勇太が接触を試みてきたが敢えて言えば手遅れ。
聞こえるように「手遅れ」と言い、護衛の奴にも「あれ?至上委員会の人?もう来てくれたの?」と声をかけるとどよめきと共に疑心暗鬼が加速して俺どころではなくなる。
だがここに居る以上仕事はする。
仕事ぶりだけ見ていれば出て行くなんて夢のまた夢だろう。
昼ごはんは弁当が配給された。
ここに来て小夏は夕飯しか作れなくなっていた。
幕の内弁当とミックスフライ弁当と海苔弁。
3つ食べないと土壌除染は満足に出来ない。
幕の内を食べると米の下から「3日後、奥様のお母様を通院後の帰宅途中に保護します。お待ちしますから仕事が終わった後で北ゲートから出てください」と書かれたメモが出てきた。
俺はおばちゃんにそれを伝えるとおばちゃんは「ありがとう。ごめんなさいね」と言ってくれた。
俺は忘れた事を一つやる事にした。
除染の帰りにジジイのロッカーに寄って詰め込んだ汚染土を除染して代わりにその土でジジイの胸像を作ってやって帰った。
コピー用紙に「ニッポンよ一丸となって立ち上がれ!」とジジイなら言いそうな言葉を書いて吹き出しのように付けたら少しだけ気分が上向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます