第25話 軟禁生活。

俺は日影一太郎の本気を見た。

俺の好みを熟知していて小夏には着ぐるみ風のルームウェアを用意してきた。


「冬音!猫だよ猫!」と言って着飾った小夏は可愛かった。

そして猫のように懐いてきて「可愛がってニャ」と言われてきた時には思わず飛びかかって抱きかかえるとベッドの上に連れて行って猫可愛がりしてしまった。


小夏は日影さんに感謝の手紙を書いたら返事には「明日も新しい服だよ」と書かれていて俺まで脱出の気を削がれる。


そして俺の飯は仲間になるまではとローカロリーのダイエット食を与えられた。

食事だけは配給の担当といった人が監視になって張り付く。


担当が日影さんの日に「美味しいけど冬音に味見をさせてはダメですか?」と小夏は聞くが日影さんがダメ出しをする。


だが、小夏は半分演技で食後に甘えた声で俺を求めてきてキスをした。

それは今までのキスではないベロベロとしたキスで息継ぎの合間に「冬音、口の周りに付いてる少しの栄養でも摂って」と言われて俺は感謝と共に小夏にキスをした。



夜中になると小夏は聖ジジイを思って泣いていた。

そう、これが聖ジジイを殺さずに俺たちをここに連れてきていたら何もかも違っていたかも知れない。


だが聖ジジイを殺した日影さんは許せないし、ジジイの遺体を叩いた奴をもっと許せなかった。


そうは言っても栄養が戻るとしたらこの生活を数ヶ月続ける必要がある。


3日目に母さんが家まで来た。

「ねえ、母さんが総統?」

「ふふ、そうよ。でも違うのよね」


母さんはそう言いながらトコロテンとお茶を用意して「本当はお母さんの得意料理は豊さんが喜んでくれたカレーハンバーグだけどカロリーが高いから今度ね」と言いながら並べてくれてお茶をした。


「総統は私を含めて3人よ」

「3人?」


母さんは怖い声で「ええ、暴走しない為。1人でやってたら私も他の総統達も暴走して終わりだもの」と言う。

この瞬間は親子という感じが一切なくなる。



「暴走ね。準備段階で東京に攻め込むとか?」

「当たりよ。さあ食べましょう?」


俺たちは3人でトコロテンを食べると家族感が出てくる。


母さんも親子の空気感、家族の空気感を察して「仲間になるかしら?」と聞いてくるが俺は「聖ジジイが生きてたらね。でもジジイは日影さんが殺したからそれはないよ」とバッサリと切り捨てる。


「あら、でも小夏さんはこの生活も悪くないわよね?それにやる事は変わらないわ、日本の皆の為に能力をフル活用する。何がダメなの?」

母さんの問いに小夏は「…この服とか、冬音の好みで喜んでくれるからここに居るのも…」と返すが俺はそれを無視して「気分が乗らない」と返すと母さんほ「あらあら…」と言って困っていた。




翌日、俺たちの元に日影さんと男が来た。

この男が総統の1人だった。


「こんにちは」

男はニコニコと笑顔で挨拶をしてきた。


怪しさ満点。

俺は笑顔で迫る奴を信用しない。


男は自身をヒラサダと名乗った。

「あだ名?」

「いや、名字さ。ヘイテイ書いて平定だよ」


「へえ」

「おや、薄い反応だね。これでも夢さんの元彼なんだよ僕」


これには少し驚いたが母さんだって何年も1人なら彼氏の1人くらい居てもおかしくない。


まあ趣味は悪いと思う。

元カレ宣言をしても反応の薄い俺を見て「もしかしたら君のパパだったんだよ?」と言ってくるが俺は呆れ顔で「パス。好みじゃない。俺は直感で生きるから第一印象悪いと打ち解けるのに時間がかかるんだよ」と言ってやった。


俺の挑発的な態度にヒラサダは何も言わずにニコニコと受け止めて「能力は物凄いね。君みたいなタイプは居ないから仲間になって欲しいから挨拶にきたよ」と言う。


「へえ」

「だが…」


「何?」

「どの分野も、我々能力者至上委員会のその道のプロフェッショナルには及ばないね」


そりゃそうだ。

俺の能力はコピーやイメージ。

火一つにしても本質は理解していない。


「そうだよ」

「おや、悔しがらないね?自覚していたのかい?」


ここで日影さんが「てっきり冬音君は周りにプロフェッショナルが居ないから最強だと自認しているかと思っていたよ」と口を挟む。


「まさか、俺は目立ちたくないんだ。それこそそのプロフェッショナルさん達が活躍してくれていたら俺は高校生になれてたかもね」

「確かに、でもそうしたら小夏さんと結婚できていなかったかもね」


なんとなく日影さんの距離感とか顔が気に食わない俺は頭にきて小夏の肩を持って引き寄せると「するさ。俺と小夏は結婚するって決まってたからね」と言う。


「ふふふ。楽しいね。ただ10日もこの部屋だけでは飽きてしまうよね?僕から友好の印に部屋の外への外出を認めるよ。皆には話してあるからトラブルにはならないし、離れた所に護衛を用意するからこの場所を歩いて我々をよく知ってほしい」

ヒラサダはそう言って日影さんに鍵を用意させる。


これまたうまいのがペアになっているヒヨコのキーホルダーで新婚感が溢れ出ていた。


「そりゃどうも。でも母さんは許可しなさそうだけど?もう1人の総統さんのお許しが出たの?」

「そうだね。2対1、この案件は僕の思った通りになったよ」


「もう1人の総統さんは?」

「アレは恥ずかしがり屋だから君の前には出てこないし、ある程度のメンバーでないと存在すら知らないよ」


ヒラサダは言うだけ言うと小夏を見て「猫も可愛いけど犬も似合いそうだね。日影に用意をさせるから存分に仲睦まじく暮らしてね」と言って帰って行った。


静かになった部屋で小夏が不安げな顔で俺を見て「冬音…」と声をかける。

俺は頷くと「なんとか帰らないとな。ここの暮らしは普通すぎて狂いそうになるから外に出て確かめよう」と言うと小夏はこれまた可愛らしい服装に着替える。


…小夏の扱いだけなら大神茜とは大違いなんだよな…ここ。

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