能力者至上委員会。

第23話 再会。

霧深い山の中を結構低く飛ぶ日影さん。

墜落とかを気にしたが何となく霧が人工物だと理解できた。



表情にでてしまっていたのか「そう、水能力者と火能力者、風能力者の合作だよ」と日影さんがヘリを操縦しながら話してくる。


聖ジジイがいた時と打って変わって饒舌になる日影さん。


小夏は涙を流しながら聖ジジイの亡骸、眉間の血を拭って苦悶の表情を安らいだ表情にしている。


「小夏さんは優しいね。でも甘さかな?本来なら君は帰らせて貰えずに殺されていたんだよ?」


確かにその通りだが小夏はハッキリと「それは終わった話。冬音が助けてくれたからもういいの」と言った。


「おやおや、凄い事だ。まあ新時代には君みたいな英雄の妻が居ても良いかもね」


言葉に詰まって睨みつける小夏を遮って「日影さん、英雄?俺のことなら違うって言ったよね?俺は英雄じゃない」と言うと「認めてもいいと思うけどね。着いたよ」と言ってヘリコプターは着陸をした。


ヘリから降りる俺達は拘束なんてされなかった。

代わりに「よく来た同士!」「待っていた!」と歓迎されて気持ち悪かった。


そんな時、背後から「ざまあねえな聖!」と聞こえてくる。


振り返るとヘリから降ろされたジジイの亡骸に平手打ちをした奴がいた。


「何やってんだ!?」

「おいおい同士、俺たち能力者はコイツのせいでどれだけの目に遭ったと思ってんだよ?俺の妹は雷タイプだった。どうなったかはわかるだろ?」


過労死。

使い潰された。


確かにジジイはその点では憎たらしい奴だったが殺された後も痛めつけられていい奴ではない。


「だからってやめろ!」

俺は残っていた力でジジイの亡骸を氷の箱に入れて守ると能力者達は傷ひとつ付かない氷に驚きの声を上げていた。


俺はその言葉を聞きながら意識が遠のいていく。

小夏の俺を案じる声とジジイを平手打ちした能力者の口惜しそうな声。

そして日影さんの「やはり冬音君は英雄だ。英雄にそぐわない事が嫌いみたいだね」と言う声が聞こえてきた。


英雄なんかじゃない。


そう言いたかったが俺の意識はそこで途切れた。



起きた俺は何処かの豪華な部屋にいた。

エネルギー切れで倒れた事はすぐに腹の虫が教えてくれた。


「あらあら、本当に空腹なのね」

声が聞こえた俺は起き上がるとそこには小夏と背中だけしか見えないが女の人がいた。


俺に気付いた小夏が「冬音!」と言って駆け寄ってくる。


「こ…小夏、無事か?」と声をかけると小夏は俺を見て「おかあさん、起きましたよ」と女の人に言った。


岡さん?丘亜山?

小夏の言葉を理解する前に仮面姿の女の人が俺に駆け寄ってきて抱き締めると「冬音。会いたかったわ」と言った。


突然女の人に抱きしめられて「は?え?誰?」と驚く俺に女の人は「ふふ、驚くわよね。私は青梅 夢。夫だった人の名前は日向 豊」と言った。


俺はその名前には聞き覚えがあった。


「母さん?お…俺の?」

「ええ、会いたかったわ私の冬音」

母と名乗った女性はもう一度ゆっくりと俺を抱きしめて涙を浮かべたが、真っ白い仮面から流れる涙は仮面のせいか偽物のようだった。


俺はとりあえず着席すると母さんを名乗る画面の女は「冬音はコーヒー飲めるかしら?」と聞いてキッチンに向かった。


俺が「飲めるけど」と言うと仮面の女は「ごめんなさい、お砂糖とミルクは我慢してね」と返してきた。


くそ。


この返しに小夏が「え?」と言うと「カロリーを摂られると能力を使われちゃって、ここで暴れられると困るのよ」と説明をしながら「でもこれ」と言うとゼロカロリーの砂糖を渡してくる。


用意周到だことで。


仮面の女…母さんからは今までの話を聞かせてきた。


「冬音。貴方が2歳の時…あの日化け物の行進で私と豊さんは街の人達に言われるがまま戦って…豊さんは死んだ。それは良いわね?」


俺が頷くと母さんは話を続ける。


「最後の街を覆って守った火炎竜巻、あの時に豊さんは最後の力で地下空間を作って私をそこに入れた。豊さんの火は極力私を守ってくれたけどそれでも私の体は焼けた」


そう言って母さんは仮面を脱ぐと顔の半分が火傷でただれていた。

だが火傷のない方の顔は家にある古いアルバムの母さんだった。



「なぜ戻らなかったのか?そう聞きたいはずよね」

頷く俺に母さんは「戻れば次は殺されるから」と言った。


それはわかる。

あの当時、能力者は激減した。

そこから復興する為にはベテラン能力者が不可欠だった。


「だから私はそのまま死んだことにして地下に潜り生きてきた。幸い豊さんの火力なら私は骨も残らない。それにアンダーグラウンドには同じ境遇の仲間達がいた」


俺の顔色を見て母さんを見る小夏。

小夏は俺以上に混乱しているだろう。


「それにまだその頃は国家への復讐しか考えていなかったし、冬音のことは街の皆さんが守り育ててくれた」


この言葉に俺は震えた。


「え?冬音のお母さんはずっと冬音を見守っていたんですか?」

そう聞く小夏に俺は正直困った。


母さんは首を横に振ると「街の皆さんが守ってくれると思っていたけど、すぐにその希望は打ち砕かれた。1人また1人と冬音を見捨てた」と言った母さんは小夏を見て「ありがとう小夏さん、冬音を見捨てないで助けてくれてありがとう」と言って手を握った。


小夏は「いえ!私こそ冬音にいつも助けられてます!」と言って首を振る。



穏やかになりかける空気を拒むように俺は「母さん、もしかして…」と聞くと母さんは「そうね。私の復讐対象は豊さんを殺した国家、そして約束を反故にして冬音を見捨てた連中よ」と言う。


俺は嫌な想像が当たって愕然とした。

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