第22話 急展開。

俺は除染が完璧には済んでいない山道を駆けながら土能力と風能力で相手の位置を確認すると上空の化け物ごと一気に風で切り刻みながら土に飲ませてみた。


「小夏、一瞬休む。飯」

「最初は肉巻きおにぎりだよ」


俺は肉巻きおにぎりを食べながら「…美味いよなー。なんかこの前差し入れてくれた仙台牛タンとかも美味かったよな」と話す。


小夏も慣れたもので「あれ美味しかったよね!ずんだ餅も美味しかったよね!」と話してくる。


「ごちそうさまでした」と言う頃には追加の化け物達が大挙してくる訳で、次々と能力を使って倒し、名産品を食べ続ける。


「小夏、長くなりそうだから食べとけって」

「うん。ありがとう冬音!」


小夏は俺と一緒に油そばを食べて「訓練のおかげで動けるけど疲れたねー」と笑っている。

まだ笑えているだけありがたいがもう3時間。

食糧の備蓄ももうなくなる。


俺は通信機を出して「日影さん!食糧の補充よろしく!」と言うと「了解だよ」と聞こえてくる。



通信機をしまうと目の前にはゲジゲジだろう巨大な虫が大挙してきて小夏が「冬音!なんかウゾウゾしてるの来たよ!」と言い俺は「うーわ、視覚的に不味そうな奴だ」と返しながら火を放った。


ここで俺はあることに気付く。

ジジイが通信してこない。

てっきり遠くの空にアゲハ蝶がいたから電波障害を疑ったが日影さんとは繋がった。

ならジジイはなにやってんだ?



「んだよ聖ジジイは指示出ししろよったく!」

「あれ?本当だね。基地に帰ってソースカツ丼のためにカツでも揚げてるのかな?」


話しながら次々とくる化け物たち、今度は鈍い光を放つくちばしが特徴のキツツキが向かってきていた。


「クッキングジジイかよ!まあいい!あの顔は焼けば焼ける奴!火炎竜巻!」


俺の火炎竜巻で辺り一面が静かになると「日向君、この先の広場に着陸するから済まないけど死骸除去を頼めるかい?」と聞こえてくる。


「マジか、もう帰って良ければ隠し球で上まで行くよ?」

「いや…まだみたいだ。とりあえず合流して食糧補給をしよう」


俺は指示通りに開けた場所の化け物達を片付けると日影さんを呼ぶ。


「冬音、大丈夫?」

「んー…ギリギリ。まあ予備まで手を出してないから助かったよ。でもまだ居るのかよ…。なんか化け物達って一度集まってから動くから良いけど、これが断続的ならヤバかったよ」


仲良く話しているとヘリが降りてくる。


「日影さん、疲れた」

「お疲れ様、冬音君」


「あれ?日向呼びは?」

「あれはよそ行きさ」


なんか日影さんの顔が引っかかる。


そんな時、「冬音、休んでて、今補給するね!」と言って小夏がヘリのドアを開けた。

これは訓練の賜物だ。

小夏はキチンと自分の仕事をした。


この冷静さと正確さをよく聖ジジイが誉めていた。

俺も何回か「見事だ!日向小夏!」と褒められる小夏を見ている。

今もここに居れば「見事だ!日向小夏!この状況下ですぐに動ける判断力。自身も疲れているのに立派だ!」くらい言うだろうなと思ってしまう。



「きゃぁぁぁっ!!?」

突然の小夏の悲鳴に「小夏!?」と声をかけると腰を抜かした小夏はヘリの中を指差して「あ…あぁ……聖さん」と言っている。


指差す方には眉間を撃ち抜かれて座席に倒れている聖ジジイが居た。


腰こそ抜かさなかったが驚きで正常な判断の出来ずに「聖…ジジイ?」と呟く俺に日影さんが「目障りだから殺したんだ。まったく、冬音君に追い出された時に隠居したら生き永らえたのにね」と言った。


慌てて振り向く俺に「迎えに来たよ冬音君」と言ってニコニコ微笑む日影さん。


「日影さん?アンタ…」

「順を追って話すよ。とりあえず僕達は能力者至上委員会」


「能力者至上…」

「委員会?」


「うん。まあ僕は旧人類だから無能力者だけどね。とりあえず総統がお待ちだから行こうか。逃げられないよね?冬音君の能力限界はこの一年で散々見てきたし、総統は君の能力にも気付いているんだ」


俺の能力に気付く?

また厄介だな。


「信じられなければと教わったよ。冬音君は能力を使って検査に引っかからないように能力を封じたんだね」

「…正解だよ。でも俺は何が何でも小夏と逃げるかもね」


「んー…、それは僕から総統に伝えたよ。そうしたら総統は冬音君は優しい子だから化け物達を東京と福島に差し向けると言ったら着いてきてくれると言っていた。エネルギー切れの冬音君なら着いてくるしかないよね」


日影さんはニコニコとフレンドリーに話してくるが俺は笑顔で迫る人間を信用しない。

黙っていると「小夏さん、とりあえず君は福島の人達を危険には晒せないよね?夜景は楽しめないけど福島の家に負けず劣らずの上等な部屋は用意したんだ。冬音君と戦いの汗を流してのんびりしてくれないかな?」と言われて小夏は少し悩んでから「冬音…、福島の人達…」と言った。



「わかった。大人しく着いていく」

「良かった。ありがとう」


俺達はヘリコプターに乗り込むと日影さんの操縦で山の中に消えていった。

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