第21話 福島の日々。
福島の生活はサイコーの一言だった。
部屋は夢のようなマンション暮らし。
街の人たちは俺と小夏を知っていて「東北を助けにきてくれてありがとう」と皆が言って迎え入れてくれる。
ただ小さい子供の「英雄のお兄ちゃん」だけは嫌で「俺は英雄じゃない」と言ったら小夏に怒られた。
嘘ついてないもん。
困ったのは大神茜プロデュースの新居は赤だのピンク基調の家具とか怪しいお香とか焚かれていて、日影さんに見せたら「あー…、なんかアロマ師とかインテリアコーディネートの資格を大急ぎで取ったりしてたよ…、これか」と呆れ返り、ベットルームにあった俺たちの年齢では買えないfor adults onlyのグッズの山は日影さんに持ち帰らせた。
小夏、興味深そうに見るな。
名残惜しそうにするな。
あんな履く意味のなさそうなパンツを履かれてたまるか。
発電所や焼却炉など、だいたい同じ距離にあるマンションなので毎日行く場所が違うだけで大体3時には仕事は終わる。
助かるよと言ってくれる技術者達には「でも俺腹減るから燃費悪いっすよ」と言うが「よく言うよ、喜多方ラーメンで蓄電池満タンなんて高コスパだよ」と言いながらチャーシューメンをくれたりする。
福島飯うまいな。
小夏も街を歩けば皆優しいし、八百屋なんかでは季節の野菜を使ったおすすめレシピを教えてくれる。
スーパーなんかでよく会う仲良くなったおばちゃんたちから帰らないでよと言われて困ってしまったと言っていた。
3時に終わって帰宅をした後は散歩なんかをしたりする。
なんとなく東京では外を歩きにくかったが福島は気兼ねなく歩けるし、汚染された山は紫色の霧が出たり、危険な化け物の鳴き声なんかがしていて色々と毒々しかったが除染の日に「家から見えてテンション下がるからやっていい?でも腹減るんだよね」と言ったらネギで食べる蕎麦をくれた。
そして散歩に出れば感謝をされた。
年寄りの爺さん婆さんはご先祖様の墓が山の中にあったらしくてこれでお墓参りが出来ると喜ばれた。
俺たちの夜はこれ以上無いほどの新婚生活だった。小夏のご飯を食べて2人で今日の出来事を話し合う。
そして綺麗な星空を見ながら眠りにつく。
バカでかいベッドで月明かりや星明かりに照らされながら眠ると奥手な俺でも一歩先に踏み出しても良いかなと思えてしまった。
何回か大神茜の妨害という名の…否、アシストと言う名の妨害があったがそれでもうまく行った。
スケスケレースの寝間着とか要らん!
小夏はもっとこう可愛らしい奴が似合うんだよ!セクシー系は邪魔!
3ヶ月の任務はあっという間に終わる。
最後には送別会まであった。
東京に帰る日の朝、出迎えにはまさかの聖ジジイが居た。
「あれ?どうしたの?」
「すまない、東京帰りは少し待って欲しい」
顔つきが気になった俺は「何?」と聞くと「異常事態だ。また魔物の発生だ。今回はかなり厳しいが無理をしてもらいたい」と返ってくる。
何をするか聞けば観測された発生地点に向かって化け物退治をして関東や東北、中部に行かないようにして貰いたいというもので、「これ以上復興が後退するのは困る」と言われた上に「減らしてくれさえすれば撃ち漏らしは各地の能力者達が責任を持って倒す」と言われた。
本当に聖ジジイはお国の為に頑張っている。
この姿を見ると付き合うしかなくなる。
「んー…仕方ないかな、開始して4時間後に日影さんがヘリで迎えにくるって可能?」
「可能だがどうする?」
「限界まで戦ったらヘリに乗って撤退。帰りのエネルギーまで気にしなくて済む」
「やれるか?」
「やるしか無いって、どうしても俺には小夏が必要だし帰りが危ないからさ」
「わかった。手配しよう」
聖ジジイに聞くと化け物どもは何故か集会のように集まってから行動をするからある程度の準備が可能で、こうやってタイミングさえ合えば移動や迎撃、先制攻撃なんかも可能だという。
化け物どもが来た話はすぐにバレるのでヘリが降り立った学校の校庭にはたくさんの人たちが集まって子供達が「街を助けて!」「英雄のお兄ちゃん!」「英雄のお姉ちゃん!」と言ったり大人達が「すまない!」「頑張って」と声をかけてくれる。
気恥ずかしいが俺はそれでも「俺は英雄じゃない」とだけ言ってヘリに乗り込んだ。
ヘリの中では現場まで同行をする聖ジジイとヘリの免許を持って操縦している日影一太郎。
後は俺の燃料…食事の山があった。
「ここから1時間で着く」と言った聖ジジイは「英雄呼びは嫌いか?」と聞いてくる。
「ああ、嫌だよ。英雄じゃなくていいから俺は生きたい。長生きをしたい。死んでこいと送り出されたく無い」
俺のこの言葉に「すまない。資料は読ませて貰った」と言った後で「謝らせてくれ、能力を隠したがった事も旧人類として学校に行きたかったことも資料を見たら納得をした。それなのに高校行きを妨げてしまって済まなかった」と聖ジジイは頭を下げてきた。
「どうしたんだよ急に…」
「いや、どうしても資料を見た時に学校行きを取り消して能力者にしたことを申し訳なく思って一度謝りたかったのだ」
神妙な顔で謝る聖ジジイに俺が照れながら「…いいってもう。それに決戦前に謝ると死ぬぜ?」と言うと聖ジジイは「違いない。だが危険な戦場に追いやって私は日影と除染された空の上だ。無事に違いない」と言って笑う。
その笑顔を見て少しだけ心が晴れた俺は「なら俺も謝るよ。ロッカーに汚染土を詰め込んでごめんなさい」と言ってキチンと頭を下げた。
聖ジジイは嬉しそうに笑った後で「あれには参ったぞ?」と言う。
「あれどうしたの?」
「あのまま放置だ」
「なら帰ったら除染して片付けるよ」
「助かる」
俺と聖ジジイが和解したことが嬉しかったのだろう小夏はニコニコと俺と聖ジジイを見ていた。
ヘリはあっという間に化け物どもの集会所に着いた。少し離れた所に俺と小夏を下ろして日影さんと聖ジジイは一度退避をした。
「万一に備えて食糧を補給してくる!好みはあるか!?」
「ソースカツ丼と田楽!」
「任された!日影よ飛び立つのだ!」
この言葉でヘリは飛び立っていった。
俺は飛び立つヘリを見て「日影さん、なんか今日は静かだったな」と思った事を言うと小夏は「緊張してるのかもね」と言う。
「それな。でも福島はいい街だったから守らなきゃな」
「本当だよね。私たちの家があるから東京には帰るけど福島は第二の故郷だね」
俺達は笑い合ってから見つめあってキスをした。
明るいうちからするキスは初めてで照れたが小夏は愛らしく微笑んでくれて高校生にはなれなかったがこれはこれで良いと思えた。
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