更なる変化。

第18話 ベテラン勢の呼び戻し方。

大体3ヶ月が過ぎた。

季節はもう夏。


今日は土壌除染の日。

俺は週の半分を働く生活になっている。


預貯金はとんでもない。

だが日影さんが「来年税金でかなり持っていかれるから気をつけて」と言ってくれたので5%しか使わないようにしている。

それでも下手をしたら生まれてから使った金額に相当する。


それ以上使うのは恐ろしい、理由は下手をしたらジジイが何かやらかして破産させてくるかもしれないと俺は思っているからだ。



大概ルーティン化していて、月曜は発電所で関東中の蓄電池を充電して、火曜日は土壌除染。それで水曜日は遅れが出ている所に助っ人で呼ばれる。


この前は、ようやく溶けた氷の補填に行った。

ジジイは絡んできたそうにしていたらしいが俺の氷で困った職員達に本気で怒られて倉庫にすら近づけられないでいた。


俺もわざわざ、疲れたくないから普通の氷を生み出した。


その前の水能力も水瓶に水を貯める仕事か、水源の除染を土能力者とやる仕事で両方やったが中々大変だなと思った。


大変だなと口にすると同伴の日影さんとトンカツさんが驚いて、ジジイは狂喜乱舞したが「だって近くにコンビニ無いし、腹減ったら大変だよ」と言ったらジジイに舌が千切れるような舌打ちをされた。


日影さんは宅配イーツを水源まで手配してくれてアツアツのピザが届いた時には驚いた。そして美味かった。


まあトンカツさんは小夏の代わりに俺に食べ物を渡す係だったりする。



「小夏いいなぁ」

予定地の除染が終わるとトンカツさんがお昼を食べながら言う。


「どしたの?小夏ならウチでレシピ本見ながら飯作ってるよ?」

「だーかーら、日向のお嫁さんなら日向が能力つかってくれるから家で普通の暮らしが出来るじゃん」


もうトンカツさんはトンカツさんでも怒らないし俺を日向と呼ぶ。


「私も結婚したい!」

「ならコロッケくんに頼めば?いつも二人ペアみたいだし」


俺の言葉にコロッケくんとトンカツさんは同時に「無理!」と言う。


何が無理か聞いてみると極限状態で仕事をしているとどうにも思い通りにいかない不満やら、悪い部分が目立ってしまうようで恋愛対象にはならないらしい。


仮に地球上最後の男女だとしてもお付き合いは無理らしい。



3ヶ月が過ぎてもベテラン勢は帰ってこない。

お陰で俺は翌月から週5で働く羽目になる。


預貯金は日向家では天文学的金額になり小夏はどうやったら使い尽くせるのかを考えて知恵熱を出していた。


もう面倒なので曜日で仕事を変えた。


月曜は氷、火曜は火、水曜は水、木曜が土壌除染、金曜が発電所になった。


歩合制の俺はどんどん金額が加算されていき、元々は「正当な対価だよ」と言っていた日影さんすら「…まずいな」と漏らすようになった時、財務省から有原有子と言う女の人が談判に来た。


俺は午前中で終わった発電所の仕事の帰りにハートフルカンパニーに連れていかれる。


不機嫌な俺の前には小夏とジャンボパフェ。

小夏は俺の妻として大神茜さんに連れてこられていた。


横でスプーンを握る小夏に「小夏は何があるか聞いた?」と聞くとクリームを食べながら「聞いてない。パフェ美味しいね」と返してくる。


「確かに美味いよな」

「冬音、このチョコアイス食べなよ」


こんなやり取りをしていると有原有子は「どうか給与の減額を頼めないかしら?」とやってきた。


「あれ?正当な対価じゃないの?減るならその分しか働かないよ」

この言葉に困惑の顔をする有原有子。


間に夢野勇太が入る形になり、俺には日影さん、小夏には大神茜さんがサポートについて話をした。


有原有子は試算した結果、このペースで俺が働くと国庫がひっくり返りかねないと言い出していた。


だが俺が働く事で得られる旨味は捨て切れないのでどうにかならないかとの事だった。


「虫が良すぎるだよ。俺だって毎日あっちこっち呼ばれてるんだけど?俺に何か言う前に未だ出てこないベテラン勢に文句言いなよ」


そうは言ったが有原有子もそこは熱心に活動したのだが皆アレコレ言って戻れないと言うらしい。

まあ死にたくはないし今まで死にかけてたからベテラン勢も必死だ。


俺はとりあえず税金で持っていかれたら困るし、いつ用無しになるかわからないから稼げるだけ稼ぎたいと言うと遂には有原有子は泣いてしまった。


見かねた夢野勇太が「日向 冬音君、能力者には特別な年金制度があるから引退をしても支払われますよ?」と言ってくるが俺は即答で「ジジイがどんな嫌がらせしてくるかわかんないから信じらんない。それに言ったじゃん、状況は刻々と変わるんだよね?」と返す。


何も言い返せない夢野勇太を睨んで「それに後で何とでも言えるだろ?俺にその言葉はダメなやつだよ。俺の親は俺の面倒を見るから死んでこいって言われて殺された。だが他の奴らは面倒なんて見ないで俺を殺しかけてきた。アンタも一緒だよ。今だけを良くするために俺に我慢を強いる」と言った。


俺の完全勝利だと思ったがここには小夏がいる。


大神茜さんは小夏に「旦那さんの言っていることは間違ってないけど、奥さんとしてどうにかならないかしら?」と聞いてきた。


小夏は真剣に考えたが答えは出ずに「冬音…、どうしよう?」と聞いてきた。


有原有子も縋るように小夏を見て頷く。


仕方ない。


「俺の給料は変えない」

この言葉に起きるどよめきと日影さんのがっかりした顔。


「だから働く日数を減らす」

「でもそれだと皆困るんだよ冬音?聞いてた?」

小夏が俺の腕を掴んで聞いてくる。


「ああ、だから有原さんだっけ?ベテラン勢にアンケート取ってよ」

俺の発言の意味がわからなかった有原有子は「日向君?」と聞き返してくる。


「アンケート次第では俺は働く日数を減らせる。ベテラン勢は働きにくるって奴ですよ」


この言葉に未だに理解の追いつかない小夏は「冬音?何するの?」と聞いてくる。


「にひひ、見てろって。それにまあ先日の戦いで死んじゃった人が居るから俺の出番はあるけど格段に減るからウチの家計は安泰だぜ」



小夏達は俺のアンケートに呆れた。

呆れたが小夏は「うん。私もイエスに丸をするよ」と答えた。


そしてすぐに実施されたアンケートの集計結果は満場一致だった。


有原有子は「嘘でしょ?」と言いながらも「これなら国は救われます!」と喜ぶ。



アンケートは簡単だ。

ただ「聖ジジイが異動をして業務に携わらなくなれば職場復帰を考えますか?」と書いた。


答えはYESで、有原さんはこのエリアのベテラン勢に連絡をして意思確認をすると言うので、「ただ聖ジジイは居なくなってもノルマは常識的な量でそれを失敗すると聖ジジイがノルマ達成に向けてやってくる」と念押しして貰ったら「常識的な量なんですね!なら大丈夫!」「若い連中だけに任せておけませんよ!」「この街がダメになるかならないかなんだ、やってみる価値ありますぜ!」なんて言葉が返ってきて皆来週から職場復帰をする事となった。



「解決しちゃった…なんで?」

「何でって、あのジジイのパワハラモラハラ指導なんかに誰もついて行かないって…」


呆れる俺は「なぁ、小夏」と聞くと小夏は「うん」と言って「凄いね冬音。遂に倒しちゃったね」と言って笑った。


「アイツ…しぶといからなぁ…、ゾンビみたいに蘇りそう」

「あはは、怖いねそれ」


こうして俺の労働時間は減った。

月一くらいで人不足の現場に行って調整に参加をして何とかしてしまう。


行くたびに皆伸び伸びと健康そうに働いていて「日向!アンタが聖ジジイを倒してくれたんだよね!ありがとう!」と言ってくれるようになった。


聖ジジイ?

なんか定年退職した企業戦士のように抜け殻になって「家…なにもないから……帰りたくない。仮眠室が…家…」と言っていたらしいが毎月の目標値に届くどの現場にも口出しが出来ずに遂には溜まりに溜まった有給まで取らされて拷問の日々を生きているらしい。


あ、そういえば忘れた頃にハートフルカンパニーに手紙が届いた。


封筒の中には更に封筒が入っていて、その宛先が俺だった。

危険物の可能性を考慮して夢野勇太が検閲をしたら、差出人は東北エリアの能力者とその家族だった。


手紙の内容はお礼。

なんでも全国の能力者を監督していた聖ジジイみたいな連中は皆聖ジジイの教え子らしく、俺に言わせると量産型の聖ジジイが全国で猛威を奮っていた。


この能力者の人は雷タイプで親の死に目にも妻の出産にも行かせてもらえずに遂には過労で倒れてしまい、医師達が一丸となって守ってくれていたらしいが量産型の聖ジジイは毎日病院まで行って退院させろと談判をし、子供の幼稚園にまでいってアイツの父ちゃんは非国民だと触れ回っていたらしい。


だが俺のアンケートを使った各都道府県で蹴落とされた量産型聖ジジイが居なくなって職場が明るいものに変わると生活が一変して皆で食卓を囲むようになったと言う。


中には量産型の聖ジジイだろう。

それを倒す俺の絵が描かれていた。

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