第17話 ジジイの仕事。

帰ろうとした俺の元にすっ飛んできたのは、大神茜とおにぎり君の母ちゃんだった。

出入り口の大神茜とおにぎり母を見て「何あの組み合わせ?」と言うと日影さんが「良くないニュースでしょうね」と相槌を打つ。


話を聞けば夕飯の買い出しに出た小夏とおばちゃんは魚屋の前でため息をつくおにぎり母に会う。


おにぎり君は氷系で市場なんかに卸す氷を多数生み出す仕事がメインらしい。

どうしても電気の配分が足りないと氷で冷やすからとこれまた過酷な現場らしい。


おにぎり母は小夏を見て羨ましそうにため息をつくと「トンカツさんとコロッケくんも俺に助けられて元気になったと聞いていたが息子は氷」と言いながら魚屋の氷を見てため息をつく。


もうお分かりだろう。

小夏は「私の冬音は氷も出せるよ!」と言い出した。その後で「でも配給も止められていてひもじい中を頑張って生きてきたから人が信じられないの!それなのに私達のことは助けてくれたんです!でも悪い噂のせいでお肉屋さんも八百屋さんもお魚屋さんも冬音に意地悪してお金を払うと言っても品物を売ってくれなかったんだよ!」と魚屋の軒先で言う。


嘘はついていないが魚屋は軒先でやられてこの世の終わりを見ただろう。

現に周りのおばちゃん連中は魚屋を白い目で見ていたとおにぎり母が教えてくれた。


おにぎり母も「聞いたわ!私達は知ってる!皆知ってるわ!」と言い、聞いていた魚屋は皆知っているの部分「皆」に泡吹いて倒れたかっただろう。



もうこの先も既定路線だ。

小夏が謝ってと言えばおにぎり母が謝ると言う。


発電所にはきたくない小夏は大神茜を呼び寄せておにぎり母と大神茜はやってきた。


おにぎり母は俺に会うなり周りに人が居ようがお構いなしに土下座をしてくる。


「ごめんなさい!お願い!真を助けて!」


ドン引きする俺に大神茜が手紙を渡してくると差出人は小夏で「山田 真君のお母さんは謝ってくれたよ!これでいいよね?山田君を助けてあげて!」と書かれている。


小夏ぅぅぅぅっ!!


「おにぎり母は手切れキャラメルの人だからなぁ…」と呟くと「ごめんなさい!本当にごめんなさい!日向君はカレーは好き?図書館前のナマステでカレーをご馳走させて!」と縋りついてきた。


カレー…。

小夏のカレーもおばちゃんカレーも美味かったから別にいらないな。


断ろうとする俺に「本格派のインドカレーなのよ!?世界が崩壊して飛行機が飛ばせないから高級になったけど真の為ならご馳走させて!」と言うおにぎり母。


本格派?

少し心が動いた。


「…小夏は?」

「結婚したのよね!勿論よ!ご家族で来て!」


「んー…」と悩む俺におにぎり母は「ナンもたくさん食べて!」と言う。


「ナン?」

「インドカレーはナンっていう専用のカマドで焼くパンがあるのよ!出来立てのナンにつけるインドカレーは美味しいのよ!チャイは飲むわよね!甘くて美味しいのよ!」


食べてみたい。

だが今の俺は3食きちんと食べているからそこまでではない。

しかしまあ食べられるチャンスには飛びつくことにする。


「…なんか食べ物に釣られたみたいに見られそうだけど行くよ。やるよ」

「ありがとう日向君!」


このやり取りを聞いていたジジイは蓄電池のショックから息を吹き返すと「ふはっ!水産市場横の氷倉庫だな!」と言っている。


「日影さん?」

「…もうお分かりだろうけど聖さんは365日、24時間国のために能力者達を鼓舞する仕事なんだ。だから勿論氷能力者の山田 真君の所にも…」


頭おかCー!

何それ?


もう一度言うけど頭おかCよ!



簡単に言えばおにぎり君は以下同文だった。ジジイの無茶振り、過酷な労働、戻らないベテラン達。


「助けてくれるの?」と言った謙虚さがおにぎり君らしくて良かった。


そこに現れたジジイは「氷能力を隠していたと言うことは苦手だと言うことだ!ならばこの倉庫いっぱいに全力の氷を生み出してみせい!」と言いやがった。


「言ったなジジイ」

そのやりとりに真っ青になる日影さんが「全力はダメだよ日向君!」と言ったが手遅れだ。


「おにぎり君のお母さん。俺、冷凍庫の寒さに触れてたらお茶と肉まんの気分ッス。さっさと終わらせて帰りましょう。おにぎり君もノルマ代わるから早帰りしようぜ」


この言葉にニコニコと肉まんを買ってきてくれるおにぎり母。

小夏の代わりをおにぎり君に任せて倉庫をなかなか溶けない氷でパンパンにしてやってジジイ以外を出すと俺は扉を普通に凍り付かせた。


日影さんが青くなっていたので「扉は普通だから平気ですよ。氷はまあ…すげぇカチコチだからなかなか溶けないかも」と説明して帰る。


結局切り分けることすら難しい地獄の氷が出来上がったのでさっさとおにぎり君を連れ帰り、俺は後日ナマステのカレーを腹一杯食べさせて貰った。


ナンってすげぇ美味かった。

小夏が「冬音、釜戸を土の能力で作って火の能力で加熱してくれたら私がナンを焼くよ!」というくらいハマっていた。


ジジイ?

俺を挑発したせいで中々切れない氷に囲まれて、新しい氷が置けない事にキレた職員達に怒られて必死に言い訳をする中、大神茜さんに「聖さん、始末書ですからね?」と言われて悔しがっていたらしい。


ザマアミロ。

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