第16話 我慢だらけの新婚生活。

俺と小夏が結婚をした話は瞬く間に街を駆け巡る。

不愉快なのは一部界隈では、化け物の襲来から助けて発電所まで乗り込んだ俺が小夏に無理強いしたとかそんな話になっている。


どれだけ俺を悪く言うんだ?

下手したら化け物が生まれるのも全部日向冬音が悪いとでも言い出すんじゃないか?


小夏はあの日ハートフルカンパニーにいた大神茜さんとか言うお姉さんが結婚アドバイザーとか言ってアレコレサポートしてくれる話になったと言っていた。


だがあのねーちゃんはどう見ても独身だ。

モテオーラを感じない。

なのにアドバイザー?


人選がヤバい。


とりあえず夫婦になった俺達に夫婦茶碗とペアルックが届くのはマジでヤバい。


そして小夏だけにとなんか頼んでもない事をし始めた。


小夏は寝間着のスウェットが大神茜から貰ったものになっていて「優しくしてね」「お待ちしております」「今日はゴメンね」等が胸にデカデカとプリントされていて毎晩「今日はこれ」と言って見せてくる。

ちなみに「今日はゴメンね」を着た所はまだ見ていない。


いくら俺でも意味ぐらいわかる。

食に乏しい時代なら「それより飯だ弁当だ小夏!」となるが3食食べられると俺の頭でも自然とそっちにシフトする。


風呂場で冷水を浴びて煩悩退散と呟いてから何もせずに寝るが、それが1週間後にはとんでもない事になる。


小夏がおばちゃんと大神茜に泣きついた。


「魅力が欲しい!」

「冬音が何もしてくれない!」

「私達夫婦なのに!」


日影さん経由で今まさに小夏が泣きついているライブ映像を見せてもらった俺は吐きそうになった。


吐く事だけは胃が拒む。

これは俺の食事だとばかりに自己主張してきて吐かせてくれない。


俺は小夏とは別で呼び出しを受けてコレでもかと説教を喰らうが「我慢してるんだ」と言う一言に大神茜はニヤニヤとした後で「あらいいじゃない。お姉さんそう言うの好きだわ」と言って俺を釈放した。


家に帰ると小夏は風呂に入っていて、風呂上がりのスウェットは新作の「キスから始めよう」になっていた。


あの人のセンスはやはりヤバい。


普段は向かい合わせに座っての食事なのに小夏は横に座ると密着してきて「あのね…。冬音、我慢してくれてありがとう」と言う。


見てたか聞いたか知らないが小夏はニコニコと真っ赤になってハートマークが描かれたオムライスをスプーンですくうと俺の口に運んでくる。


小夏は味付けに関しては完全に俺好みに作ってくれている。

多分、他の人には物足りなくても俺には美味いと思えた。


とりあえず夕飯の後で少しだけ話して、慌てて何かをするのではなくまずは布団を共にする話で落ち着いた。


「なあ、おばちゃんとか大神さんにチクるのやめようぜ?」

「アドバイザーさんだよ?」


「…知られてると思うと何にもできなくなるし」

「…それはダメだね!わかったよ冬音!」



なんてやり取りがあって今や小夏は俺と同衾している。

キスはまあ…、うん。

夫婦だからOKだろう。


とりあえず小夏が一日中嬉しそうにしていておばちゃんには即バレしていた。


その翌日にはYES NO枕とか言う遺物が届いた。

枕の向きがYESであれば何をしてもいいらしい。


だから大神さんはセンスが古いんだよなぁ。




今は夢野勇太が手を回して新婚さんには正当な休暇だと言う事で休ませてくれている。


当然クソジジイ自衛官は小夏を使って俺を苦しめられない悔しさに唸って「このまま終われると思うなよ小僧!」と言っていたと日影さんが教えてくれた。


その熱意を別のところに向けろ。



休み明け、嫌がらせのように発電所に呼び出された俺は順番待ちのように並べられた蓄電池に呆れる。


「わっはっは!来たなクソガキ!お前の為に蓄電池を関東中から集めてやったわ!キッチリ夕方まで休みなく充電して貰うぞ!」

蓄電池の前では聖ジジイが高笑いしている。


俺はジジイを軽く無視して日影さんに「お昼休憩くれないなら帰るよ?後はアレだけあると腹減ってダメなんだけど」と聞くと日影さんは経費は貰っているからと宅配イーツでご飯を呼んでくれる。


「今日は你好のご飯だよ」

「你好ってここまで持ってきてくれんの!?炒飯?え?麻婆豆腐!?やるやる!」


俺は你好が届くと早速充電を始める。

それまでに確認係の技師達に聞いたら本当に関東中の蓄電池を可能な限り片っ端から集めたらしい。


ジジイ、だからその熱意は他に向けろ。


技師達は次々と片付く蓄電池に目を丸くする。

俺は段々と面倒になって、部屋で待つのではなく俺から蓄電池に向かって歩くと3時間で終わる。


「日影さん、終わったー」

「…120基もあったんだよ」


「1基いくらだっけ?」

俺は正式に発表されたレートを聞くと蓄電池は1基50万だった。


「6000万?いいの?」

「…正当な報酬だからね。もう終われると思うけど、你好ご飯の残りを食べて愛妻弁当食べたら帰るかい?」


「帰っていいの?」

「うん。一人で千人以上の仕事をしてくれたからね」


後ろではジジイが「くそっ、関東じゃダメだ!中部や東北の蓄電池も…日本中だ!なんとかクソガキに一泡吹かせてやる」と言っていて技師達が「危険ですし移送費が高くつきます!」と怒鳴っていた。


…ちなみに俺はお前のせいで高校生活が消えて結婚生活が決まって一泡ならとっくに吹いてるよ。

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