第15話 小夏を守る唯一の方法。
夢野勇太は「話を戻そう」と言うと小夏を守る方法を提示してきた。
「この方法なら青海 小夏さんを特別徴収から守れるよ」
だがそれはいくらなんでもやり過ぎで、俺は肩を落として「あのさぁ…」と言う。
「だがそれ以外に手はないのは確かだよ。まあ君のお母様もその方法であの日まで身を守られていたからね」
俺の母親がそうだった事を知らずにいると表情を読んだ夢野勇太は「本当だよ。これは特例措置も認めさせないで済む。現に当時は不足していた風の能力者達だったが君のお母様はあの日まで君を育てられていたよ」と言う説明してくる。
それでも返事に悩む俺を無視して夢野勇太は小夏に「さて、青海 小夏さん。君はどうかな?嫌かな?」と聞く。
小夏は俺の方を見てから「私は冬音さえ良ければ」と言う。
まあそうなる。
俺は用心深く「でも俺たちまだ15だけど?」と聞けば夢野勇太は「それこそ特例法を使うよ」と返す。
睨みながら「どうやって?」と聞けば身振り手振りで楽しそうに「簡単さ、非協力的で有能な能力者のやる気を刺激する為に特例をお認めくださいってね」と言って天を仰ぐ。
くそっ、これはある種の人質だ。
小夏がいる以上俺はやるしかなくなる。
「悪い方に考えちゃダメだよ。良い方に、ポジティブだよ日向 冬音君」
ここで日影さんが「ほら、扶養手当とか出るよ!」と余計な事を言う。
俺が黙っていると「若くて可愛い奥さんなんてサイコーだよね!」と続けてくる。
そう、能力者の扶養家族は例え能力者だとしても世帯主の俺1人が国に尽くせば家族は免除になるらしい。
「ふむ、そもそも何が嫌なんだい?青海 小夏さ…日向 小夏さんの何が嫌なんだい?」
夢野勇太の言葉に小夏は泣きそうな顔で「冬音?」と言って俺を見る。
とりあえず小夏を日向で呼ぶな。
そして小夏は嫌がる=嫌われていると思って落ち込むからやめろ。
「は?小夏が嫌なんじゃなくて俺は村八分で金もない。こんな大変な所に来たいやつなんていないし、小夏のおばちゃんだって反対する」
この瞬間ドアが開いて「私は大歓迎よ!」と言って立ち去る小夏の母さん。
準備させてやがったのかよ…。
「おや、青海夫人の許可が出ましたね。お金で言えば先月の蓄電池と土壌除染のお礼がまだでしたね」
そう言って見せてきた給与明細をみて俺は歴史で学んだ通貨を思い出して「ジンバブエ?」と聞いてみたが「いやいや、日本円ですよ。崩壊した世界でもなくならなかった日本円、世界経済が2度吹き飛んでも平気な準備までしてある日本円ですよ」と夢野勇太は笑う。
横で俺の給与明細を見た小夏は「うっわ…、ゼロ何個?私冬音のお嫁さんなら日向夫人とか呼ばれちゃうかも」と言う。
小夏が「うわ~」「すご~い」「高いお肉でお弁当作れる~」と喜んでいると夢野勇太が「ああ、後はなんでしたっけ?」と言って日影さんを見て「村八分の悪い噂ですね。日影?」と言うと日影さんが「はい。日向君さえ良ければ即日実力行使に出ます」と恭しく答えた。
「日影さん?」
「昔の文化にナマハゲというのが居てね。ナマハゲは鬼の姿をした人が「悪い子はいないか?」と言いながら街を練り歩くらしいけど、我々は「日向 冬音君を悪く言う奴はいないか?差別する奴は居ないか?」とフル武装した特殊部隊がアサルトライフル片手に街を練り歩くよ!」
悪ノリ!!
「んー…、それでも嫌だと私の権限では国家の象徴に仲立ち人になってもらうとか結婚式を国営放送で生中継とかかな?」
夢野勇太の提案に俺は「…それ…悪意…」と言いかけたが小夏は「え!生中継!?」と言って喜ぶ。
この顔はやばい奴だ。
「おや、夫人はそう言うのがお好きですか?」
「いえ、私は苦手で恥ずかしいけど学校の友達とか街の人達に冬音の晴れ姿を見せたいかなって…。そうしたら冬音を悪く言う人も減るかと思うんです」
真剣な小夏とは違い、悪い顔をした夢野勇太と日影一太郎。
俺の背筋は凍りっぱなしだ。
「…日影」
「はい!それでは結婚式の写真集を作って限定一万冊の刻印付きで売ったりしては?」
悪ノリ!!
俺は慌てて静止すると「します」と言う。
「はい?何がですか?」
夢野勇太はニコニコと俺を見てそう言った。
この野郎。
「まだ15歳ですが日向 冬音は青海 小夏と結婚します!小夏!結婚しよう!」
俺の宣言に小夏は涙を浮かべて「冬音!ありがとう!嬉しい!」と飛びつき、夢野勇太は「大神!」と言うと、さっきお茶を持ってきたお姉さんが「はい!録画しました!」と現れた。
小夏の母さんは「おめでとう小夏!幸せになるのよ!」と喜んで、俺には「恥ずかしいならおばちゃんでいいからね」と言っていた。
…俺、どうなるの?
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