第14話 険悪な交渉。

更に険悪な空気が流れる。

撫然と睨む俺とあの一瞬以外ニコニコと笑顔を崩さない夢野勇太。


「困ったなぁ…、どちらか選んでお給料を貰ってハッピーにならないかい?」

「どちらも選ばずに正当な労働対価を払って俺をハッピーにしてくれよ」


「おやおや、だが君が無収入だと青海 小夏さんが働くしかないね。雷タイプの能力者だから…」


そう言ってニコニコしながら目は笑っていない夢野勇太は小夏を見る。

小夏はあの日々を思い出してしまったのだろう。息を呑んで青くなって震えてしまった。


「おい!日影さんと約束したぞ?」

「おやおや。そうだね。我々から無理強いはしない。だが無収入なら仕方ないよね。きっと青海 小夏さんは働きに出ると言うね。そして何故か発電所の管理者が聖 善人になる」


この野郎、どこまで行ってもやらかす気だ。

同じ風を使うものとして封じることさえ出来れば勝てるからどうやって倒すかを考える。

俺の目つきを見て夢野勇太は「君は英雄だね」と言う。


「あ?」

「血も涙もない人間ならここで小夏さんを見捨てられるのにそれをしない。だから英雄だと言ったのだよ」


嫌いな言葉に俺は怒りに染まる目で夢野勇太を見て「俺は英雄なんかじゃない」と再度言った。


「では何故だい?」

「周りが俺を見殺しにしようとしても小夏とおばちゃんは飯を食わせてくれたからだ」


「シンプルで素晴らしい。さて、私はここでもう一つのカードを切ろう」

「カード?」


「青海 小夏さんを発電所に行かせなくて済むための手立てだね」

「なんだそれ!?」


「今、聖 善人は私の権限すら通用しない特別徴収権を行使しようとしている。それを使えば旧人類を守る為に強制的に発電所に青海 小夏さんを呼ぶ事が出来てしまう。そして君の危険性を上進していて君を発電所に近づけないようにしている」


俺の危険性。

恐らく超高額な蓄電池を破壊した事を言っているのだろう。


「おい?話が違うだろ?」

「この前までなら出来た事で状況は刻一刻と変わっているんだよ」


俺が小夏を見ると小夏は目に涙を浮かべて震えながら「冬音」と言ってくる。


「小夏の雷なんて弱々なのにそこまでするのは俺への仕返しだろ?」

「そうなるね。まあ君が青海さんを大切にしていることはバレているから今更距離を置いても手遅れだね」


「他の連中は?大怪我とか言ってもそろそろ退院する奴らもいるだろ?」

「有休も残っているし休業補償も出て蓄えもあるんだ。過酷な現場に我先に戻る者は居ないよ」


「過酷ね。わかってんなら改善しろよ」

「常々上進しているが圧倒的に余剰が足りなくてね」


「アンタだって風能力ならさっさと街外れで風吹かせて街を守ればいい」

「やってるさ、やりながらここにいるのさ」


まさかこんな偉い立場の人まで駆り出されていたとは思わずにいた俺は呆れてしまう。そんな俺にもう一度微笑んだ夢野勇太は「さあ、どうする?」と聞いてきた。


「能力を見せる。それでいいだろ?」

「素晴らしい選択だね。ありがとう。まあ想像はついているよ」


俺は「なら聞くなよ」と言いながら手のひらに水の球を出してぐるぐると回して見せた。


「これ、やると腹減るんだぜ?」

「らしいね。君特有だよね」


そう言って日影さんに指示をすると日影さんは「茶菓子だよ」と言ってカステラを出してくれた。


黄金色に輝くカステラ様を見て俺が「小夏、カステラだ!よ…四切れもある!」と喜ぶと小夏は困り顔で「…冬音の場合、食べ物に釣られそうで怖いよぉ」と言っている。

だが本当にテンション上がるんだから仕方がない。


俺と小夏のやり取りを見た夢野勇太は「ふふふ」と笑うと「さて私は約束を守ろう。だが一つ提案があってね」と言った。


「は?」

「基本の給与は皆と同じにして代わりに働く度に歩合を支払う事でどうかな?」


「歩合?」

「そう、この前の土壌除染なら一回200万とか、蓄電池なら一回30万とかかな?」


「メリットは?」

「よほどでなければ断れるのと、蓄電池で言えばこの前のペースでやれば1ヶ月で旧人類の生涯年収くらい楽に稼げるよ?」


「成程、後言うなら俺は残業なんてしないよ」

「それは結果さえ出せば問題ない。君係の日影が問題無しと判断すれば早上がりも可能だよ」


夢野勇太が指差すとニコニコと微笑んでくる日影さん。

なんかなぁ…。


やはり笑顔は信用できない。

俺はジト目で日影さんを見て「日影さんは敵?」と聞くと日影さんは肩を落として「うそだろ日向君、何も悪いことはしてないよね?」と言う。


確かに日影さんは俺の敵にはなってない。

ひとまず信じよう。

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