第19話 蘇るジジイ。
まあまあまあまあよくもまあこんな方法を思いつくものだ。
追い出してやった聖ジジイは不死鳥の如くゾンビもびっくりの勢いで蘇ってきた。
[特別戦闘訓練指導官兼任指揮官]
ようするに法に守られた小夏すら徴用可能な戦闘時には現場に出て指揮を取るといいだした。
「えー?日影さん、アイツの仕事ぶり見たよね?俺が倒せなそうな敵に喜んでたよ?」
「…それを言ったんだけど、周りの人達は危険な化け物達の前に意気揚々と乗り込んでいく聖さんを適任だと言っていてね」
まあ要するに前線に行きたくない連中と前線に行きたい聖ジジイの利害が一致してしまいこの話になっていた。
こうして毎月第一金曜日には奴の顔を拝む羽目になる。
家に帰れる日々のお陰か多少丸くなったが憎たらしい顔は変わらない。
だが奴は今までと違っていた。
何というかパワハラモラハラは変わらないがそれだけで悪意は消えていた。
体育の準備運動だけで1時間くらいかかる基礎訓練を行った後でそれぞれの能力に合わせた訓練や連携を指導官達が行う。
怒号の飛びかわない現場に目を丸くする俺をジジイは別の所に呼ぶ。
「日向 冬音、貴様には特別な訓練を与える」
そう言われて嫌な顔をしてしまったが「能力は火、風、土、草、氷、水、雷でいいな?」と聞かれ頷くと「貴様には可能な限り戦場では動き回ってもらい適宜最適な場所で能力を駆使してもらう必要がある」と言われた。
まあ言うことはまともでごもっとも。
「戦闘時はある程度任せる」
「そりゃどうも」
「だから持久力をつけて欲しい。貴様の問題は栄養不足による持久力の無さだ。とりあえず走り込みで4時間は動き続けられるようになって欲しい」
「…マジで?」
このジジイ、俺を潰す目的ではなく本気で国を守る意識で動いていて生半可な気持ちで否定できず、俺は訓練となると走り込みを行うことになる。
そして特別扱いの小夏まで特別な訓練をさせられることになった。
それは俺の奥さんとしてのサポートで確かに小夏が最適だが、この場合はおにぎり君でもトンカツさんでもコロッケくんでも構わない。
なんなら日影さんや大神茜さんでもいい。
だが周りと話し合って危険な戦場でも小夏を横に居させられることはプラスになるからと言われて小夏も走り込みを頑張ることにしてくれた。
翌月の訓練はある種地獄だった。
「日向 冬音!休むな!」
「くそ…ジジイ…横っ腹痛え」
「冬音、頑張って」
1キロダッシュさせられてジジイの「今だ!」の声に合わせて言われた通りの能力を放つ。
そして俺だけの問題、空腹に対応する為に同じく1キロダッシュをした小夏が飯を用意して「冬音!食べて!」と差し出してくる。
それを食べると即座に小夏と1キロダッシュを再開してまた能力を使って飯を食う。
しかもジジイに余念がないのがウルトラハイカロリーのテラミート&メルトチーズジャンボバーガーなんかを用意していて食べるたびに吐きそうになるが俺の胃は吐く事を忌避していて全力で拒否をして苦しめてくる。
今はまるで背脂メインの油そば大盛りを食べた。確かに麺と油の比率がいかれていたが美味い一品だった。
小夏もクソ重たい鞄を背負いながら走るので辛そうにしているが弱音は吐かない。
「冬音!次はマグマ麻婆丼でその次が富士山チャーシュー丼だよ!」
「うげぇ…、去年の俺にご馳走責めに遭うって教えてやりたい」
その返しに笑う小夏は「冬音、夜ごはんは何がいい?食べられる?」とか聞いてくる。
普通の人間ならふざけるなと怒鳴るが俺は「食べる。それは揺るがない」と返事をする。
そんなこんなで地獄の訓練は終わり俺たちは日影さんの車で家に着くと玄関で2人して倒れ込んだ。
「きっつー」
「あはは、ボロボロだね」
ピクリとも動けずに「お風呂…」と言う俺に「お母さんに沸かしておいて貰ったから入ろうよ」と返す小夏。
「!!?え?」
「もう無理だよ…。頭と背中洗ってよ…」
「えぇ!?」と驚いた俺は「私達夫婦だよ?」と言った小夏の圧に負けて2人で風呂に入る。
ウチの風呂は死んだ両親が俺が大きくなっても家族で入れるようにクソでかいのを用意したので問題ないが問題は俺が小夏を直視できない事と力加減がわからないことだ。
背中を洗うときは傷つけないように必死になったら「冬音、くすぐったいよぉ〜」と言われてドキドキした。
だがまあ慣れてしまえば緊張はするがなんとかなる。
湯船に浸かって大の字になる俺の上に小夏が乗って「冬音〜、お疲れ様〜、ウチのお風呂は大きくて1人だと寂しいからこれからも2人で入ろうよ〜」と言ってくる。
まあこうしていると悪い気はしないので「長風呂にならね?」と聞きながらも「小夏がいいなら」と言ってしまう。
ちょうどそこに小夏に頼まれた夕飯の買い出しから帰ってきたおばちゃんは風呂には小夏しかいないと思ったのだろう。
「小夏、冬音君居ないけどどこ行ったの?」と言いながら風呂のドアを開けてきた。
湯船で大の字になる俺の上に覆いかぶさる小夏。
流石に怒られると思って慌てる俺だったが小夏は疲れすぎていて慌てるリアクションもなく「あ〜、お母さんだ。お帰り〜。今日の訓練疲れすぎたから冬音に頭と背中洗って貰ったんだよ〜。今も溺れないようにして貰ってる〜」と言うとおばちゃんも「あらあら、良かったじゃない。私はそう言うの大歓迎よ。孫ももうすぐね〜」と言って去って行った。
…不潔とかまだ若いとか無いの?
こうして俺は同衾とキスに加えて2人でお風呂まで入る事になってしまった。
後日、「冬音、せ…背中だけじゃなくて…ま…前も洗う?私も…冬音の…洗おうか?」と聞かれた時には日影さん経由で大神茜さんに「変なこと教えるな」とクレームを入れておいた。
日影さんからは「日向君、ごめんね。大神さんはご両親が持っているHOWTO本を読破して恋愛マスターになった気で居るんだ」と教えられた。
HOWTO本?古いエロ本の間違いじゃねぇのか?
俺は出版社を焼き討ちに行きたいと言ったがダメ出しをされた。
俺はここでようやくわかった。
大神茜さんとおばちゃんの恋愛年齢が近いんだ。
多分HOWTO本はおばちゃんよりは年上の情ほ…デマの類だがその知識を持つ大神茜さんとおばちゃんは相性良くそれを小夏に教えるのだろう。
「日影さん、止まらないなら覚悟したいんだけど…。この先何が待ってるかな?」
「…あの文献はチラ見したけど…。多分大神さんの好みなら次は裸エプロンかな」
何それ?
それで料理したら火傷するよ?
天ぷらとか死ぬよ?
「は?何その意味不明なの」
「あの文献では裸にエプロンのみの着衣をした奥さんが「ご飯にする?それとも私?」と迫るとどんなクタクタな旦那さんでもイチコロらしいよ」
頭おかCー!!
俺は宅配で届いた大神茜からの荷物を受け取った小夏に「裸エプロンとかしたらもう一緒に風呂入らないから」と言ったらその場で荷物を落としていた。
後で広げた荷物の中身は色とりどりのエプロンに「ご飯にする?それともワ・タ・シ?」や「今日のデザートはあなただけの特別よ」だの「私っていうデザートは残しちゃダメよ」なんて描かれていた。
危ねぇ…止められてマジセーフ。
小夏?
泣きながら大神茜とおばちゃんに「冬音…エプロンやだって」と言いつけていたがここは譲らない。
我慢する身にもなれという話だ。
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