認知する現実。

第8話 英雄のその後。

化物退治をした俺はそれから数日間は夢のような日々を過ごした。

おにぎり君は山田とか言ってたが約束通り你好の叉焼麺と餃子をご馳走してくれた。

後はコンビニおにぎりを3個もくれた。


他の連中も約束を守ってくれて花畑さんと言って小夏の言うあーちゃんだったトンカツさんは本当にトンカツ達を持ってきてくれた。


この世界の文明は壊れているくせに食は復興してくれていて俺は喜びしかない。

縁遠いはずの食文化に触れた俺はホクホクだった。



俺の周りは変わらない。

あの日、自衛隊の呼び出しをガン無視して你好に行った俺は次の日呼び出しを喰らう。

だが「今週は忙しいからパス」と言って無視をする。


悪いがおにぎり君達の約束は外せない。

なんか可哀想に俺が変な真似をしないか男の自衛官が家の外に待機していたが構わない。


翌週、飯の約束が終わり事情聴取と言うやつと再検査が待っていたが、なんで能力が使えたかの事情聴取は「知らね」「幼馴染を思う奇跡っすかね」「てかあの自衛官辞めさせた方がいいっすよ。俺を敵視してダンゴムシに喜んでましたよ?」と言って再検査は機械の全交換と技師を2人程取り替えたがうんともすんとも反応せずに諦められた。



「あ、無能力者の俺を前線投入とか辞めてくださいねー」


俺は言うだけ言うと帰ってやった。

そうしたら監視の自衛官が我が家の前に居座るようになった。


俺は春から高校生になる。

どうせ次の化け物襲来までは5~10年くらいある。

その頃には夢溢れる若者が立ち上がってくれる。



俺の生活は更に悪い意味で激変した。


化け物どもをあの手この手で撃退した事が噂になり、証明するように無傷な小夏達の姿に全ての悪意は俺に向いた。


悪意の発信源は一波を防いで怪我をしたり死んだ能力者の家族達、後はタウンニュースの記者の質問に答えたトンカツさんの話では噂で俺の活躍がバレていてもインタビューで何もしていない、全部日向冬音の活躍と話しても火炎放射はトンカツさんの活躍と言う風にされ、「皆の事を想って死力を尽くしました」と書かれたらしい。

そもそもトンカツさんは土タイプの能力者なのだが知った事ではなかったらしい。


結果、今までは英雄様の息子様として腫れ物扱いだったのが今や人の陰に隠れてコソコソする卑怯者として村八分にあっている。


これにはおにぎり父母も「ごめんなさいね。息子を助けてもらったのに立場があるの」と言って最後にキャラメルをくれるに終わった。

これは手切金と言うやつで、もう飯をたかるなという事だった。



そんな訳でまた貧困生活に戻る。


八百屋はクズ野菜しか売ってくれなくなった。

肉屋も硬くてまずいクズ肉ばかり。


それを見て監視の自衛官は眉をひそめていた。

俺からすればコイツが護衛に見られている事を知っている。


虎の子の能力者だから国が守る。

だからクズを売りつけても最後は国が何とかするだろう。

だから村八分で虐めて構わないとなる。


構うわボケナス。


この日はクズ肉すら売ってもらえなかった俺はパンの耳を買って帰る。


フラつく俺は目の前が暗くなった気がしたがそれは照明が明滅していただけだった。


この商店街は電球も交換できないのか?

なら俺にきちんと肉を売ってその金を足しにすればいいのに。


バカみたいだと呟く俺に腹の虫がそうだそうだと同調するように鳴る。


腹減った。

小夏は期待出来ないよなー。

かなり使わせちゃったもんなぁ…。



小夏、腹減った…。


あの日、左側でオニオンフライとオレンジジュースを食べさせてくれた小夏を思い出したら余計腹が減ってきた。


俺は苛立ちからついてくる自衛官に「アンタさあ、俺と同じ食生活しながら監視しなよ」と言うと「…いつもあんななのかい?」と返ってくる。


「あれ?話していいの?」

「仲良くなれればそれに越した事はないからね」


「ふーん。ちなみに俺の食生活は元々こんなもん。平日は学校給食に救われて一日1食だよ。驚いた?アンタ達は国を守っても俺の胃袋は守ってくれないんだ」


睨みながら言う俺に「…配給は不要と断られていたんだ」と自衛官は言った。


耳を疑った俺は「はぁ?」と聞き返す。



なんて事はない。


「英雄様の息子に配給なんてとんでもない」


自分達はさっさと俺を見捨てたのに俺が配給に頼れば格好悪いと言って街ぐるみ…偉い連中や学校は配給を断っていた。


「じゃあ配給出る?」

「申請するよ」


「あんがとオッサン」

「オッサンって…、僕の名前は日影一太郎って言うし、今年25歳だよ」


俺からしたら10も上。

やはりオッサンだ。


だが配給はありがたいので「あんがと日影さん」と言って家に帰った。

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