第9話 女神の今。
空腹と戦いながら寝たい訳だが、万に一つの小夏を期待して玄関ドアの鍵は開いている。
それに今は日影ホームセキュリティが居るので安全しかない。闇討ちとか焼き討ちとか止めてくれるだろう。
…日影さん、小夏を追い返したりしてないだろうな?
俺が不安に駆られた時、玄関ドアは開かれた。
来た!
小夏!!
「小夏!」と言って玄関を見ると玄関に居たのは小夏の母さんだった。
「おばちゃん?」
俺を見て泣く小夏の母さんは小夏に似ている。
俺の考えなんて無視して小夏の母さんは泣いて震えている。
「もう1週間も小夏が帰ってこないの。小夏が殺されちゃう。助けて冬音君!」
俺が言葉を理解するのに何秒かかかって「は?」と返すと「この前の襲撃でベテランの能力者達が皆負傷したからって小夏が連れて行かれたの。それでそのまま帰ってこないの」と小夏の母さんは言う。
小夏の能力者は雷タイプ。
人類は電気を捨てられなかった。
小夏は発電所で殺される。
そう考えると商店街の街灯…故障ではなく電力不足。そうなるのも頷けた。
「ごめんね。冬音君!頼れるのは冬音君だけなの!小夏からは冬音君が旧人類で長生きしてご飯屋さんをやるのが夢だから頼っちゃダメって言われてたけど小夏を助けて!私にはもうあの子しかいないの!あの人との娘を助けて!」
俺は縋りついて泣く小夏の母さんの言葉を聞きながら、小夏が俺の為に頼らないように言っていてくれた事に嬉しさと申し訳なさの複雑な感情が生まれてくる。
「おばちゃん。大丈夫。おばちゃんにはホットスナックの分のお礼が終わってないから小夏助けに行ってくるよ」
「本当?いいの?」
「いいって、でも腹ペコで力でないんだけど助けてくれない?」
小夏の母さんは涙ながらに頷いて「お弁当作ってきたの」と言って豪華な弁当を出してくれた。
「小夏に作ったおかずの余りでごめんね」なんて言われたが美味すぎて気絶するかと思った。
俺は外に出て日影さんに「俺を小夏のとこに」と言うと日影さんは「君は無能力者だろう?」と言う。
ようは認めろって事だ。
「汚ねえな、本当大人って汚ねえのな。連れて行けばいいもの見られるよ」
俺の言葉に日影さんはどこかに電話をすると俺と小夏の母さんを発電所に連れて行った。
電話先に聞こえるように「小夏に何かあってみろ。この街は跡形もなく消える事になるから」と言ったら日影さんは「日向君!」と言ってきた。
「この街は配給くれないし物売ってくれないし俺からしたら無意味だし」
そう言ったら日影さんは何も言えなくなっていた。
発電所と言っても原子力発電はしていない。
あれは禁忌の力として封印された。
管理できるほど世界は復旧していない。
街によっては火力発電が生きていて火タイプの能力者に火を起こさせてゴミ処理なんかを兼ねて発電している人道的な街もあるがここは用意された蓄電池に向かって雷タイプの能力者が放電するだけだった。
「日影さん、堂々と行かずに抜き打ちの形で歩かせてよ。いいよね?」
「………構わないよ」
道すがら蓄電池に貯められる電力について聞くと「レベル6相当で一機が満タンになる」と返ってきて、この段階でレベル1の小夏だと6人必要で、世の中は電気を捨てられない。
「三交代制どころか使い潰そうとしたね?」
俺の言葉に小夏の母さんは真っ青になって「わたし、電気を使った…電子レンジも…」と言っている。
「大丈夫、おばちゃんは悪くない。皆知らずに使ったんだ。おばちゃんと小夏だけは守るよ。おばちゃん弁当で元気いっぱいだからね」
俺の言葉に小夏の母さんは何べんも「ごめんね」と言ってくる。
少し進むと怒号が聞こえてくる。
なんか聞き覚えのある声に俺は気分を害し日影さんは困り顔で肩を落とす。
「君は能力者なんだぞ青海小夏!」
「旧人類の皆が君の電気を待っている!」
「不眠不休がなんだ!」
「甘ったれるな!」
ここで小夏の母さんは走り出す。
その先の発電施設という名の蓄電池置き場ではボロボロの小夏が涙ながらに電気を生み出していた。
小夏の母さんは「小夏!やめなさい!」と抱きついて「もういいの!もういいのよ!」と声をかけると小夏は小夏の母さんに気付くと「お…母さん?」と言った後で「辛い」「帰りたい」「死んじゃう」「殺されちゃう」と言ってワンワン泣く。
ボロボロの小夏は数日で笑顔の輝きは消えていて病人みたいになっていた。
「何を休んでいる!青海小夏!」と言って小夏を怒鳴っていたのは俺の敵。
あのクソ自衛官のジジイだった。
俺が前に出ると慌てて日影さんは間に入って「やり過ぎです!聖さん!」と言う。
ひじり?
ジジイが首に下げる通行証には「聖 善人(ひじり よしと)」とあった。どこが聖でどこが善人だよ。
名前負けどころじゃねぇぞ。
罪レベルで地獄行きだ。
日影さんに注意をされてもクソ自衛官は何も間違っていないと憤慨し小夏にさっさと立てと怒鳴る。
そして小夏の母さんになんで一般人がここに居ると怒鳴りつけた時、小夏が俺に気づいて「冬音…?」と言って更に泣き始めた。
俺は日影さんもクソジジイも無視して小夏の前に行き「1週間ろくに寝られなかったんだろ?帰らせてもらえなかったんだろ?だから旧人類が良いって言ったんだよ」と言いながら涙を拭うと小夏は「最初は皆が困ってるからって、ちょっとだけ、出来るだけで良いって言われて、ついて行ったら全部嘘だったの!」「帰りたいって言っても帰してくれない!玄関を塞ぐの!」「いいのか?それで良いのか?」「皆が困るって、お母さんやれいちゃんにあーちゃんやえいちゃんが困るって脅してくるの!!」と泣き叫んで俺に抱きついてくる。
頭きた。
俺の両親だけじゃ飽き足らず小夏まで殺そうとした連中を許したくない気持ちの俺は心のままに「日影さん、ここを破壊するよ?」と言った。
「ダメだ!日向君!」
「何が?アンタ達、小夏殺して生きて楽しいの?俺の両親殺して生きて楽しいの?」
「何を言う!新人類ならば旧人類を守るのは義務!義務なら仕方なかろう!」
「へえ、じゃあ俺が小夏の代わりに電気貯めてやったら小夏連れ帰るからな?出せよ蓄電池」
この瞬間のジジイの顔を見て俺はピンときた。
コイツ、俺を潰すのが目的だ。
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