第7話 更なる隠し玉。
まさかの3度目の襲来を知らせる連絡に俺は言葉を失った。
「…小夏」
「…冬音、やっぱり疲れたしこれ以上は戦えないよね」
「…コーラがもうない。フライドチキンも食べちゃった。久しぶりの揚げ物は胸焼けを誘発するみたい…」
「え?」
「デザート…」
「はい?」
俺は言いたい事がうまく伝わっていない小夏を見ながら「もうダメだよな。食べ過ぎだよな……。小夏を守る為なら立ち上がれてもなぁ……」と言う。
「冬音?」
「ここで残りの敵を倒してもお腹減るとなぁ…、家帰ってから辛いんだよ…。でも小夏と小夏のおばちゃんにはかなりおごって貰ったからやるしかないよなぁ…」
肩を落として話す俺に小夏は「え?化け物の襲来より倒した後のお腹具合を心配してるの?」と聞き返し、俺は「うん。だって能力使うとこんなに腹が減るなんて知らなかったんだよ…」と返事をしながら腹の虫は久しぶりの高カロリー食料に歓喜しておかわりを要求してくる。
小夏はお財布を見て「…うん。ちょっとお小遣い厳しいかも」と言ってくる。
さらに肩を落とす俺に小夏は慌てるように「オレンジジュース飲む!?無理して買っちゃうよ!」と励ましてくれるがオレンジジュースじゃ俺は餓死してしまう。
これには子供の無事を確認に来ていた親連中がそれぞれの子供から俺の活躍を聞き、このままうまくいけば子供が無事で帰ってくる事に気づくとまず最初におにぎり君のお母様が「日向君」と声をかけてきた。
「はい?」
「ラーメンはお好きかしら?」
「ラーメン?勿論ですよ…。給食でたまに食べますがあの温くても美味いラーメン……サイコーです。………あぁ、思い出したらお腹空いてきた……」
「この後おばさんが公園前の你好でご馳走するって言ったら戦えたりするのかしら?」
それは嬉しい。耳を疑ったがおにぎり母は「你好よ」と再度言った。
「…やる気は出るしやれるんですけど…」
「けど?」
「途中で燃料切れになるかも…」
俺の言葉に今度はトンカツさんのオヤジさんが「…プリンは好きかい?」と聞いてきた。
「給食で出た時は涙を流して食べてますよ」
「今すぐに家内に買ってこさせるから娘の代わりに化け物退治を頼めないかな?」
「トンカツさんには既に肉のサイトウでトンカツとイカフライとアジフライをもらう約束ですよ?」
「娘の命に比べたら安いものさ!なんならヨーグルトも付けるしタピオカドリンクは飲んだことあるかい?」
タピオカドリンク。
学校帰りに買い食いしてる不届き物の手元を見た事がある。
あの黒い鉛玉みたいな奴。
美味いのか?と思ったら「オイシー」とか聞こえてきて殺意を覚えたのを思い出した。
「…今飲めますか?夢で見たんですが飲んだことが無いので味がわからずにあの朝は泣きました」
「…勿論だとも。ご馳走するよ」
…
……
………
ここは極楽か?
なんと今晩は你好のラーメンとこれからプリンとヨーグルトにタピオカドリンクが約束されてしまった。
しかもおにぎり君の親は金持ちなのか餃子までご馳走してくれる事になる。
俺は震えながら小夏を見て「こ…小夏…」と呼ぶ。
「どうしたの?」
「これは夢か?卒業式が退屈すぎて見ている夢か?」
「現実だよ冬音!しっかりして!」
「でも…沢山チキンを食べたのにプリンとヨーグルトにタピオカドリンク、そして你好のラーメンと餃子だぞ!?これが現実!?」
困惑する俺の耳にはおにぎり母の「ラーメンなんてケチ臭い!叉焼麺よ!」と聞こえてくる始末。
「うっは!?叉焼麺!?」と言ってトリップする俺に小夏が「帰ってきて冬音!今は化け物退治だよ!やらないと食べられないよ!」と、声をかけてガタガタと揺さぶってくる。
「おっとしまった」
そんな話の間にトンカツさんのおばちゃんは近くのコンビニでタピオカドリンクとプリンとヨーグルト、そしてクソ高くて量の少ない金持ちしか飲めなそうなコーヒードリンクまでくれた。
「これで化け物は倒せるんだね?」
「…よ…余裕です」
ここで嫌な予感がした俺が「あ!?余裕だと食べさせないとか無いですよね!?」と慌てると「是非とも頼むよ」と言いながらタピオカドリンクにストローを刺すトンカツさんのオヤジさん。
なんだこの太いストロー?
俺は一口飲んで小踊りしてしまい小夏に「スゴいこれ!飲み物なのに腹にたまる!小夏は飲んだことあるのか!?」と聞いてしまったら申し訳なさそうに「うん、一時期ハマってお小遣い使っちゃって冬音のお弁当作れなくてゴメン」と言われてしまった。
…そういえば春先に1ヶ月半くらい放置されてたな俺。
ちょっとタピオカを睨んでいたら小夏が小さく「ごめんね」と謝ってくれた。
いや、小夏のお小遣いだからいいんだ。
うん。
あの時辛かったのもいい思い出ですよ。うん。
俺はデザートに心躍りながら化物を待つ。
出来高制度なので倒さなければ叉焼麺も何もない。
もしかしたら活躍をしたらデザートすら期待できるかも知れない。
そう思っていると土埃が見えてくる。
第三波がやってきた。
思いの外、化物どもの数が多くて面倒になるが俺の横には小夏が居てくれる。
小夏は胃袋の友達達が用意してくれた補給物資達を袋に入れて「食べたいのを言ってね」と言ってくれる。
今、袋からは震えるような匂いがしている。
これはコロッケくんのご両親が良かったらと言って用意してくれたハンバーガーセットとチーズバーガーセットだ。
「でも冬音、胸焼けしたんだよね?ハンバーガー食べられるの?」
心配するように俺を見つめる小夏だが甘い。俺はそんな小夏に「…今日の俺に限界はない。食い溜めだ」と言うと、小夏は俺と食べ物を見て「はぁ…、卒業式の冬音格好良かったのに」とため息をつく。
格好よさで腹は膨れないんだ小夏。
「小夏!セットのオニオンフライとオレンジジュースを持ってくれ!」
「うん!」
小夏が持ったことを確認した俺は「晩飯の為に消え去れ化物!火炎放射と暴風!」と言って両手から大火災を起こすと化け物の群れは火に撒かれ倒れていく。
湧き上がる歓声と背後から口惜しそうに聞こえてくるクソ自衛官ジジイの「ぐぬぬぬぬ」と言う声。
アイツ、敵なんじゃないか?
そう思ったがそんな事より腹が鳴る。
「小夏、腹減った。食わせて」
「えぇ!?皆が見てるよ?」
「手が使えないから頼む!」
俺の願いに呼応するように鳴く腹に小夏は「もう!」と言ってオニオンフライを口に入れてくれる。
…何これ美味い。
そしてオレンジジュースの甘味と酸味に涙が出てきた。
「そんなに美味しいの?」
「美味すぎだよ!コロッケくんのご両親に感謝だ」
今回も火に耐性のある化け物が出てきたので風の刃を放って見たがあまり効果はない。
「バカめ!そいつはチタンダンゴムシ!雷タイプの攻撃しか効かんわ!ひっこんでいろクソガキが!」
何故か背後から勝ち名乗りが聞こえてきてムカつく。
その声に小夏が「…わた…し、……っ…やってみるよ冬音!」と言い出し、震える声で俺のご飯達を地面に置こうとする。
ダメだ小夏。下の土壌は汚染されていてハンバーガー様達が穢れてしまう。
あー…、やだなぁ。
これも隠し球なんだけどなぁ…。
雷タイプはバラしたくなかったんだけどなぁ。
「小夏、ハンバーガー下ろさないで。持ってて」
「冬音?」
小夏はどこか驚きつつもなんとなく展開が読めていたかのように俺の顔を見る。
俺はコソッと「…雷出せたら驚く?」と聞くと小夏もコソッと「出せるの?」と聞き返してくる。
この後は幼馴染のひそひそ話になる。
「出したくないけど」
「…本当?何したら出してくれるの?」
「コロッケくんたちとの約束の後はまたひもじくなるからお弁当作ってくれる?」
「食べてくれるの?」
聞き返す小夏に再度「作ってくれる?」と聞くと小夏は「勿論だよ」と言ってくれた。
「小夏!チーズバーガーを構えて待ってろ!」
俺は一気に前に出てチタンダンゴムシの群れの前で「電撃!!」と言って目が眩むほどの電撃を一気に放電してダンゴムシが動かなくなったことを確認してから小夏の元に戻ってチーズバーガーを頬張った。
チーズバーガーを食べながら「戦うと腹減るわ」と俺は言う。
「…食べた分を全部攻撃に使うの?」
「わかんない。全部初めて使ったし」
「初めてなの?」
「うん。とりあえずいいじゃん。今晩は你好で叉焼麺だ!!」
俺は小躍りしながらおにぎり君に「ラーメン!你好!」と挨拶をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます