運命の3月。
第4話 卒業式の暴露。
最悪の卒業式を迎える。
旧人類と新人類は見た目から変えさせられる。
旧人類は高校で着させられる安物の制服、新人類は派手で金糸をふんだんに使った新人類だけの制服で卒業式を迎える。
校長達の祝辞もメインは新人類に向けてで「我々無能力者の命を背負う君達を頼らせてほしい」なんて言われていて小夏以外の能力者達は希望に顔を輝かせている。
能力者は小夏を含めて7人程居た。
学校では馬鹿な奴が神セブンなんて呼んでいた。
俺からしたら7人の生贄だ。
平均的な人数だが、希少種である雷タイプの小夏が居て学校側としてはホクホクだろう。
価値が違いすぎる。
愚かな人類は脱電気が出来ずにいる。
卒業式には親達もきていて親達もこれみよがしに区別…差別をされる。
新人類の親の椅子は暖房前に置かれた豪華な特等席でそれ以外は寒々しい場所のパイプ椅子だったりする。
テイのいい洗脳教育。
これを見れば家から新人類を排出したいと思える程だ。
だが我先に殺されて、我先に裏切られる。
大事な家族が使い捨てられて初めて気付いても手遅れだ。
俺はその事をよく知っている。
代表スピーチは小夏だった。
爺さん先生の「青海 小夏君」の声で壇上に上がった小夏。
顔は必死に嬉しくなさを悟られないようにしている。
特等席でそれを見る小夏の母さんはハンカチで目を押さえてずっと泣いている。
それは喜びの涙ではない。
家族を失った経験のある人間が流す悲しみの涙だった。
原稿でもあるのか、納得いくまで何回も書き直させるのか、嘘くさいスピーチを読まされる小夏。
見ていられないと思っていると突然体育館の扉は開け放たれた。
開けた奴、それは自衛隊の連中だった。
「能力者達!化け物達が暴れ始めた!至急招集が入った!来るんだ!」
そう。有事の際には化け物どもと戦闘すらさせられる。
起こるどよめき。
先程まで顔を輝かせていた小夏以外の連中は真っ青な顔をする。
バカが。
まあ大概なら大人達が退けて終わり。
だが万一がある。
用心深く聞いていると爺さん先生が「大人達は?」と確認を取る。
「第一波は辛うじて退けた。だが今回は13年前の再来。第二波が来る。大人達は皆疲弊してしまった!」
この言葉の衝撃に俺は言葉を失う。
どこかの保護者が「今回は英雄も居ない」と言った。人間とはつくづく浅ましい。
そんな言葉に悲鳴が上がる中、「頼むぞ神セブン!」と言った声が隣のクラスから聞こえてくると旧人類の保護者達からも「任せたからな!」「頼りにしてるわ!」と聞こえてくる。
特等席を見ると小夏の母さんはショックで倒れている。
中には「安心してくれ!家族のことは任せろ!」なんて奴も居た。
大嘘つきが。
面倒を見るじゃなくて、一度でも様子を見て「見た」と言うだけだろう。
そんな中、校長が壇上で小夏の手を掴んで「これは栄えある任務です。皆さんの活躍に期待しています」と言いやがって拍手喝采の中、金糸ふんだんの一丁羅で花道を歩かされる小夏達。
最早花道は死刑台への階段で、豪華な服は死装束に見えてくる。
歩いている小夏は俺を見て「ごめんね。あの約束は忘れて。あと冬音はお母さんを助けてくれないかな?」と言って泣きながら小さく手を振ってきた。
俺の心臓は強く鼓動を打った。
ここで見送る事が正しい事か?
確かに両親はコイツらに殺されたも同然で俺はひもじい思いをした。
だがここで拍手喝采の奴らと並ぶ事は同じ所に堕ちて居るんじゃないだろうか?
小夏は街の連中が俺を見殺しにしても飯を食わせてくれた。
一瞬小夏の母さんを見ると気が付いて小夏の方に手を伸ばして首を横に振って泣いている。
周りから聞こえてくる「英雄万歳!」という、その言葉が1番イラつく。
ここで行かされる小夏達は英雄なんかじゃない。
俺は立ち上がって小夏の手を取ると、周りはどよめきを起こす。
「冬音…?」
「小夏、今小遣い持ってる?」
「え?」
「小遣い」
俺の言葉に目を丸くする小夏だが、「う…うん」と返事をしたので俺は「とりあえず外の自販機でコンポタ買って。後は腹減り過ぎてこのままじゃすぐに倒れるからコンビニダッシュしてよ」と言う。
「冬音?」
「小夏が死ぬと俺も餓死するから代わる」
「え?冬音?え?」
慌てる小夏を無視して俺は小夏の母さんにも「おばちゃん!腹減った!小夏とご飯買ってきてよ!レジ横のチキン食べたい!」と声を張る。
周りからは何言ってんだとブーイング。
中には親の才能を食い潰したゴミカス呼ばわりまでする大人がいる。
そこに自衛官がやってきて「貴様!今は有事だ!旧人類の我々は大人しく新人類に助けてもらうんだ!」と俺の腕を掴んで怒鳴りつけてくる。
旧人類?
大人しく?
「アンタとりあえずうるさい」
俺は腕に火を発して自衛官を離れさせると「俺がやればいいんだろ?」と言って前に出る。
後ろからは「どうして?」「検査じゃ…適正なし」「5回も検査」とか聞こえてくる。
知った事じゃない。
「小夏!コンポタ!」
俺の声に小夏は顔を輝かせて「コーラも飲む!?」と聞いてくる。
「勿論だ!遠慮なく小遣いの限り買ってくれ!おばちゃん!コーラがキンキンの間にチキン!唐揚げ!コロッケも!俺が食べた事なさそうな奴も!端から端まで買い占めて!」
俺の言葉に小夏の母さんは喜んで角のコンビニまでかけて行く。
嫌だけどやるしかない。
あー…やだやだ。
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