第3話 能力検査の結果。
小夏が帰った後の家は寒々しい。
空腹は満たされたが今度は寂しさに押しつぶされそうになる。
戸締りをしてベッドに横たわり小夏の言った旧人類になる話の再確認をするとうまくいく。世界の奴らは擦れていない。
新人類になって使い潰される事を名誉かなにかと思っている。
俺からしたらあり得ない。
年の瀬の寒さからか余計にバカなんじゃないかと思ってしまう。
腹が満ちていた俺はあっという間に眠りに着く。
普段なら腹に向かって「黙れ」と言っているが今日は大人しい。
小夏さまさまだ。
今度、旧人類として同じ学校に行くようになったら2人で料理をしてもいい。
俺が小夏に料理を教えよう。
喜んでくれるだろうか?
それとも「あー!冬音って料理できるじゃん!それなのに私の料理を食べてたの!?」とか言うかな?
検査まで後少し。
後少しの辛抱だ。
2月末。
俺は旧人類と認められて高校生になる事が決まった。
大人どもは検査結果を何度も見て愕然とした後も「計器が故障しているようだ」だの「最新型の計測器を使わせてほしい」だの「書類が紛失してしまった」だのとあの手この手で再検査をしてきて5回も呼び出されたがその全てを旧人類の結果にしてやった。
皆甘い。
甘いと言うか能力の発露が遅いからわからないだけだし、この15歳で検査をした時に能力を隠すことは難しい。
きっと何処かに俺と同じ奴が居て検査に手を下していると思う。
大体の奴らは14歳から15歳までの間に能力に目覚める。
だから能力検査は15歳の時にやる。
もし成長のピークを10とすれば目覚めたては1だ。
俺も1なら能力を隠しきれずに能力者とバレて新人類送りにされていた。
だが俺の発露はもっと昔。中学に上がってすぐの頃だった。
空腹で眩暈を起こす中、何となく人と変わった昨日までとは違う感覚に「うわ、やべぇ」と口にした。
そうして望まなくても俺の能力は日々成長を遂げていて多分周りの奴らと同じく数値化すれば計器の最大数値が10なら8くらいはある。
だからこそ能力の封印と言えばいいのだろうか、4の力で4を封殺して旧人類だと機械を誤認させた。
だがまあいい。
これで俺は小夏と同じ高校生になれた。
新人類の奴らがあくせく働く中、新人類の皆さんに感謝をしながら学校に通って料理人になる。
旧人類だとわかればダメ男として食事も思いのままだろう。
今から楽しくて仕方ない。
中学は検査結果が届く3月1日まで休みになる。
早く学校に行って落胆する連中を見たい。
俺は旧人類!お前達と同じ旧人類!
両親みたいに食い潰されてたまるか。
学校に行った俺は愕然とした。
小夏は検査で新人類になっていた。
俺はそれ以外は想定内で担任の爺さん先生は「残念な結果だがキチンと学んで家庭を持ちなさい。隔世遺伝かもしれないからご両親の素晴らしい力を絶やさないように」と言っていた。
コイツら、人の事を本気で使い潰す新人類くらいにしか思ってなかったのかよ。
小夏は泣いていた。
友達にもてはやされて期待されていた。
そして同じく能力者になっていた連中から馬鹿みたいに頑張ろうねと声をかけられて頷くことしかできずにいた。
俺は小夏を呼んで結果について聞いた。
小夏も俺と話したかったと言ってついてきた。
「小夏、能力は?」
「雷タイプ。雷能力者」
1番マズい奴だ。
給料が高い分だけ休みがない。
下手をすれば二十歳まで生きられない。
「マジかよ」
「うん。冬音から聞いてたから怖いよ」
小夏はそう言ってシクシクと泣き始めると「でもお母さんには遺せるものも出来るから頑張るね」と言う。
モヤモヤとした感情が俺の中にある。
話を少し逸らしたくて他の連中について聞くと「れいちゃんは火の能力者で、えいちゃんは風の能力者だよ、後はあーちゃんは土の能力者」と小夏は教えてくれる。
正直名前と顔は一致しない。
どっちかと言えば俺のクラスにだけ給食を山盛りにしてくれる。給食のおばちゃん達、特にパンを残しておいてくれて放課後にこっそりとくれる盛山のおばちゃんの方が名前と顔は一致している。
火と風と土。
火は火種の確保とゴミの焼却なんかがメインで、風は街に汚染物質が飛んでこないように調整する仕事がメインでどちらも人道的だ。土は若干危険が伴う土壌除染がメインで化け物に襲われる可能性もある。
だが雷能力者は群を抜いて悲惨だ。
小夏だけが過酷な発電所勤務とか笑えない。
そんな事を思っていると小夏は「ねえ、誰にも言わないから教えて」と聞いてきた。
「何を?」と聞き返す俺に小夏は覗き込むように「冬音は能力者だよね?」と聞いてきた。
俺は言葉に詰まる。
万一そうだと言って漏れて知れ渡ればせっかく掴んだ旧人類の道は閉ざされる。
だが小夏に嘘はつきたくなかった。
返事をしようとした時、小夏は「ふふ。ありがとう。私はその顔で冬音が何を言うかわかっちゃうんだ」と言って泣いた後で「高校は行けないから離れ離れだけどさ、高校で彼女ができなくて私が卒業まで生きてたら冬音のお嫁さんにしてよ」と言った。
「小夏?」
「え?やだ、私ってもしかして本当にお弁当係なの?」
俺は真っ赤になって「え!?あれって建前で、俺なんて捨てられた野良犬みたいなもので小夏は優しいから見捨てられなかっただけ…」と言うが小夏は泣きながら笑うと「バカだなぁ。頭に栄養届いてなさすぎだよ」と言って「忘れないでね」と言ってその場から立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます