玉うさぎ

 やけに、鉄錆臭い水だなと思った。こんなの飲めないが、小学校のときに、水筒の水を飲み切ってしまったときは仕方なく屋外の水道を飲んでいたのを鮮明に思い出した。手洗い用の洗剤が、やけに泡立ちが良くてなんか嬉しかった。洗面所にもともと付いているような、手のひらを押し当てて石けん液を出すようなやつは、低学年が遊んじゃいけないから液体を入れていなくて、市販のやつを横においている。


 

 時間は、ちょうど日付が変わるくらい。最近は食べすぎたなと思いつつ、走りに出た。しばらく走っていて、不意に水が飲みたくなり、母校の小学校の水道を借りることにした。そう、そこで飲んだ水が鉄の匂いが強すぎたというわけだ。ふと、小学校のころの生活を思い出した。”生活科”なんていうのもあったな、と思う。


 今でも、小学校の校歌は歌える。父も言っていたが、おそらく一生覚えているのだろう。中学校の校歌も歌えるが、高校のは歌えない。あの当時は、当たり前に登校している校舎に、こんなに行かないものだとは想像していなかった。卒業してから小学校の校舎に入ったのなんて一回しかない。中学校でも三回くらい。深夜、勝手に運動場を走ったり、桜を見たり、チューリップを見たり、ということはあったけれど。


 かつて、心を浮き立たせていた「夜の学校」というのも、行ってみると本当にたいしたことはない。ただ暗いだけ。僕の感受性はどこに行ってしまったの、なんて嘆きたくもなる。


 一通り、遊具で遊んでみた。だいたいは僕がいたころのままであったが、すべり台だけが変わっていた。1メートルくらい低くなっていたのは、だれか怪我でもしたのだろうか。ジャングルジムとか、昔は怖くてできなかった、一番上に二本足で立つこととか、卒なくできる。そうだ、なんでもできるんだ。僕がかつて欲しかったのは、こういう感情じゃないのかな。真夜中の運動場に落書きをしたりだとか、5,6年生にしか認められていない「立ち漕ぎ」をやったりだとか。かつて見た夢が叶っている。小さなことだけどね。


 


 小学校の同級生なんて、会っていない人がほとんどなんだけど、みんな元気でやっているのかな。

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