引き出し

 悲しくなったときとか、なにか耽りたい気分のときは、僕の心の引き出しからいろいろなことを取り出そう。思い出っていうのは、「あるだけで嬉しい」というようなお花畑的な側面も、もちろんあると思うけれど、何より、常に自分の心に寄り添ってくれて潜在的に自分を助けてくれるという実用的な側面もきっとあると思うんだ。潜在的な思い出だけじゃしんどくなったときには、ひとつひとつの個性が強いとびきりの思い出を自分の心から取り出してきて、自分を助けてあげよう。魔法をかけてあげるんだよ。


 最近は、勉強時間が前の10分の1くらいになったということもあって、自由な時間が多い。まあそのせいでクラスではなかなか笑えていない日々が続いているわけだけれど。(半分くらいは冗談です。)まあ言えば、少しだったとしても僕の中から「勉強」というのが消えたわけだ。平日では学校が終わってから5時間くらい、休日に至っては10時間くらいは当然のようにしていたから、なかなか不思議な感じだ。本当にいろいろなことをするようになった。気になっていた小説を読んだり、何もしないで過ごしたりとか。一日というのはあっという間で、すぐ過ぎるから、時間がいっぱいできたと言っても宿題をし終わったら、実はあまり時間が残っていないんだけど。


 この連載『蒼昊』の主題として、「自分について考える」というのがあった気がする。今ではそこから外れて、結局好きなことを書いている。まあ、できた時間をそれに最優先で使おうということだ。ふわふわしている僕の足が少しでも地に着けばいいな、ということだ。



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「ねえ、そっちに行ったら危ないよ。」


 彼女は聞く耳を持たずに、どんどんと進んでいってしまう。彼女もここは二日目のはずなのに、なんでこんなに道を知っているんだろう。


 鹿の鳴き声が聞こえたときは、流石に彼女も一瞬驚いた。ただ、やはり止まってはくれない。仕方ないのでついていく。後で先生に叱られるときには僕が罪を被ろう。ホテルに戻れたら、の話だけれど。


 急に振り向いて、言う。

「あと少しだから、ね? ふふっ」


 道はずっと平坦なところを歩いているが、急に舗装が途切れた。僕はこのまま食べられるんじゃないかなんて、馬鹿馬鹿しいことを考えながらもついていく。


 「着いた!」


 そこは真っ暗でなにもないように見えた。街灯だけのところを30分くらい歩いているから目はだいぶ暗いところに慣れているはずなんだけれど、それでも暗かった。


 わっ


 とふたりで驚く。彼女が携帯のライトを付けて初めて、そこになにがあるかわかった。そこには小川があって、左右に雪が積もっていた。端的にいえば、それだけしかなかった。


 スマホのライトひとつでここまで明るくなるものか、と驚いたものだ。雪の一粒が、横の一粒に反射して、を繰り返すことで僕と彼女を包み込む5メートルの正方形くらいは真っ白に見えた。今は深夜1時。



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 「スターライトパレード」を聞いていたら、どうしても書きたくなりました。今、心から引き出してきた思い出。彼女はスマホで一番近い川を調べて向かっただけで、他にはなにも考えていなかったそうです。修学旅行のとある夜のお話。

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