じゅうよん 

 今日はずっと雨が降っていた。音は聞こえるが、もう少し桃源郷へ行きたくなって、窓を開ける。かみが濡れた。


 ろう下を歩いていて、ふと立ち止まる。目の前を一匹の蚊が通り過ぎた。なぜ彼らは雨に打たれ、飛べるのだろうか。しばらくそうしているうちに、私は勢いよく振り返った。また、何度も。歩き音にしか聞こえないようである。


 どうやらこの家にはししおどしがあるらしい。先ほどから、驚かされているばかりなのは私だ。体感でも、鳴る感覚が大して変わっていないのを聞くと、小一時間、雨量の変化はないのだろう。


 この時期に降る雨を、「桜流し」というんだよ、最近やけに雲が多いのは、「花曇り」だからだよ、大切なことはたくさん教えてくれた。僕はもっと君のことを聞きたかった。


 どちらも相当な歳だが、おばけは苦手なようである。勝手にできた緑のトンネルを歩いていたとき、きゃあおばけと言って君はこけた。それはおばけではなくただの木だ。気になっていた空き家に入って和室で見かけたのは間違いなくおばけだった。とっさに、君は携帯を投げつけたけれど、そのせいでさらに奥へ行かなきゃいけなくなったんだ。


 どこで覚えたのか知らないが、君は桜の樹の下には死体が埋まっているという。僕も負けじと、言い、半日かけて掘り起こした。ほらね、僕が正しかっただろう。互いに贈りあった月と太陽のキーホルダーを落としていくことにする。ここが、僕らの場所だよ。


 合わなくなって久しい。僕はあれから名前を一度も出したことはないけれど、思い出さなかったことも一度もない。



 今、僕は、君は、そして月と太陽は、もう見つからない。

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