第五章 巻き込まれた少女 3
午後七時過ぎ。
秋葉原駅の中央改札口は、会社帰りのサラリーマンや外国人観光客に加え、夏休み期間中に毎日のように行われているアイドルグループやゲームのイベント目当てのファンたちでごった返していて、富田親子を見付けるのは一苦労だった。
人混みに面喰っていた二人を本当の秋葉原へ案内する。駅から離れていくと次第に街灯も人も減って、博が不安そうな表情になっていった。その不安はボロアパートに着いた時に頂点に達したようだ。ついに博が歩みを止めた。
「本当に此処で研究されているのですか」と、美紗紀の肩を抱く。
ようやく此処まで来て貰えたのに。どう説明すればいいのか困っていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「此処に住んでいるのは、みんな立派な研究者たちですよ」
振り返ると、社長が野菜を目一杯詰め込んだ段ボール箱を抱えて立っていた。
社長はこちらを呆れたように一瞥して、少し腰を屈め美紗紀と目線を合わせる。
「儂は此処の大家でね。住んでいる奴らのことはよく知っている。お嬢ちゃんは見学かい」
「いえ。研究のお手伝いです」
「ほう。そいつは頼もしい。お嬢ちゃんのお陰で日本の技術がまた進歩するかも知れんぞ」
照れくさそうに美紗紀が微笑んだ。社長が博を見上げる。
「変わった奴らばかりだが悪い連中じゃない。儂が保証するよ」
博は頷いて美紗紀の肩から手を離した。
「社長、なんで此処に?」
「家賃の日だよ。お前さんはいつも忘れているな」
社長は少し苛立った眼でアパートを指した。
「今度でいいから、早くお客さんを案内しなさい」
社長に礼を言って、美紗紀と博を連れて階段を上がる。錆びた手摺が外れかけた支柱に擦れて、段を上がる毎に軋んだ。博がまた不安そうな顔をし始める。大賀がいつものように驚かせようとしていないか心配だった。二〇一号室のドアの前でそっと声を掛ける。
「お待ちしていました」
白衣を纏った大賀がドアを開けた。
「ご協力に感謝します」
悪戯好きの大賀が普通に対応したのは意外だった。二人を簡単に紹介して部屋へ入った。作業台や棚にはシーツが掛けられていてロボットが隠されている。やはり何か企んでいるのかも知れない、と思った。
大賀が富田親子に名刺を渡して椅子を勧めた。
「メイドロボットの制作で、言動パターンをデータ化しています。簡単に言うと、美紗紀ちゃんにロボットの教師になってもらいたい、ということっす」
「私が教師ですか」美紗紀は少しはにかんだような笑顔になり、「分かりました」と答えた。
大賀が芝居掛かって「では先生」と白衣の襟を正し、作業台のシーツを一気に捲った。そこに横たわっていた機械が剥き出しの骨組みがゆっくりと上半身を起こし、頭部に付いている二つのレンズを富田親子に向けた。美紗紀と博は声も出せずに眼を見開いている。
大賀は満足そうに、「授業をお願いします」と大仰に頭を下げた。
授業とは言っても、美紗紀の思考や言動のパターンを抽出してコンピュータ上にルールを作っていくという作業だ。これが単純なようでなかなか根気のいる作業なのである。
情報がインプットされるのはカメラとマイクだけ。人間でいう視覚と聴覚だ。その情報に対する返答や関節モーターの制御をひとつひとつ関連付けていかなければならない。大賀が美紗紀そっくりに作るのに拘って、抽出パターンの項目は膨大なものになっていた。
簡単な肯定の返事だけでも、「はい」や「うん」など二十五種類もある。それをどういう状況で使い分けるのか、身体はどう動かすのか、力加減はどの程度なのか、美紗紀なりの選択を抽出していく。拘り始めたら徹底的にやる。技術者の矜持だ。その矜持が技術を躍進させた例は枚挙にいとまがない。
ロボットが自分のように話したり動いたりする度に、美紗紀が歓声を上げる。そのやりとりを楽しそうに見ている博の隣に、増渕は腰を下ろした。
「突然のお願いを受けて頂いて、本当にありがとうございました」
「こちらこそありがとうございます。いい経験をさせてやれました。夏休みに何処にも連れて行ってやれないので。増渕さんのお陰です」
タイムスリップのことを隠している後ろめたさもあって、「いえいえ」としか言えなかった。
「あの子のあんな無邪気な笑顔を見るのは久しぶりなんです。普段は妻と妹の分まで背負って気丈に振舞っていますから。気付いてはいましたが何もしてやれませんでした」
「妹さんもいらっしゃったのですか」
「ええ。事故の時に妻のお腹の中には七カ月の妹がいたんです。病院に行く途中の事故でした。泣いてばかりいる美沙紀を立ち直らせるためにあの店を始めたんです。ようやく振り切れたと思っていたのですが、妻の写真をあんな風に考えていたなんて、父親失格です」
「スマホを買ってあげるのですね」
「そのつもりです。画像さえ残っていれば生きた証になるじゃないですか。妻の写真はもうあの一枚しかないんです。あれが無くなったら妻が存在していたことも消えてなくなりそうで。すでに妹がいたことは記憶の中にしかありません。私たちが忘れたらもう……」
博の話を聞いて卑弥呼のことを思い出した。中国の記録に残っていたから存在していたことが分かったのだ。その記録――三国志だったか――が無かったら、いま卑弥呼は誰にも知られていない。そして大いに反省した。自分が携わっていたメモリの研究には、政府や大企業以外にも必要とする人がいたのだ。坂本が小型化に拘ってスマートフォンに搭載したお陰で、美紗紀と博は救われる。
「今度、カタログをお持ちしますよ」
「あなたと知り合えて良かった」
ちょうど授業が一段落したようで、「きょうはここまでにしましょう」と大賀がメロンパンの袋を開けている。時計を見ると午後十一時になろうとしていた。
「あと一週間くらい掛かりそうだって」
美紗紀もメロンパンを咥えていた。大賀から貰ったのだろう。
「ちゃんと協力しなきゃな。でも、こんなに遅くなるなら、明日からは朝から授業をさせてもらいないさい。店は父さん一人でも大丈夫だから」
博が「どうでしょうか」と、こちらを見る。
「おいらもその方が助かります。かなり短縮できます」大賀が応えた。
話が纏まり、増渕が「駅までお送りますよ」と立ち上がる。
「大事なことを忘れていました」大賀がタブレットを構えて、美紗紀の前に立った。
「3Dスキャナーっす。そのまま動かないでね」
美紗紀の顔を撮影しながら回りをぐるりと一周した。さらに笑った顔や泣いた顔に変えてもらいながらぐるぐると回ってスキャンしていく。この画像を基にロボットの顔を作るつもりなのだ。形だけ似ていればよかったのだけれど、これも大賀の矜持なのだろう。
それから三日間、美紗紀は朝九時から夜九時までの十二時間、此処に来て授業をした。何処で聞き付けたのか、その間は社長の奥さんが昼食と夕食を作って持って来てくれた。
大賀が言うには、この授業で計画に必要だと思われる最低限のことは、美紗紀と同じ言動をとるようになったらしい。
映画の特殊メイクの会社に発注していた美紗紀の顔をロボットに被せる。美紗紀は見るなり「気持ち悪い」と毒突いた。不気味の谷現象というやつだ。
人間はある一点を超えてそっくりなものを見ると嫌悪感を抱くらしい。それが人間にさらに近付くと好感に転じる。谷と呼ばれる所以だ。いま目の前にある美紗紀を模した顔は、無表情でのっぺりとした似て非なるものだった。
その不気味の谷を越えるために、大賀は頭部だけで表情筋と同じ六十箇所もの可動部を作った。電源を入れると眼や口元に生気が宿って、その表情が見る見るうちに人間のそれになっていく。嫌悪を剥き出しにしていた美紗紀の表情も一変した。
「すごい。鏡を見ているみたい」
「我ながら完璧っす」
満足そうな大賀が、手にしていたメロンパンを頬張った。
「駅まで送るよ」
美紗紀に声を掛けた時、スマートフォンが鳴った。刀根からだった。相変わらず苛立っているようだ。帰りの便を取るのにえらく手間が掛かったのだという。
やりとりを聞いていた美紗紀が、ちらちらとこちらを見て大賀と相談を始めた。相手が刀根だと察して何か企んだようだ。笑いを噛み殺して大賀が美紗紀の話を聞いていた――。
東京スカイツリーの待ち合わせ場所に刀根がやって来たのは、翌日のもう日が沈もうとしている頃だった。
約束した時刻より一時間以上も遅れてやって来た。待たされていたのはこちらなのに、なぜか悪怯れもせずに怒っている。
「もう少し余裕を持って時間を決めなさいよ」
「羽田には一時半に着いてたんでしょ。四時間もあったじゃないですか」
「煩いわね。あんたのアパートに寄ってたのよ」
「僕のアパートに? どうしてですか」
「ゼンゾウさんにお礼。チケットを取ってもらったのよ」
「それって不正な予約じゃないんですか。ゼンゾウさんを犯罪に巻き込まないでください」
声を荒げてしまったけれど、刀根はさらに輪を掛けたように声を荒げた。
「あんたもスマホの持ち主を調べてもらったじゃない! あれも犯罪でしょ!」
通行人が何事かとこちらを振り返っていく。
「あれは、誰にも迷惑かけていません」
「航空会社にはちゃんとお金を払ったわよ! そんなことより沖縄は大変なことになってるの。あんたニュースを見てないの?」
見ていなかった。刀根が沖縄に行っている間、ロボットに掛かり切りでそれどころではなかったのだ。
非常事態宣言を一方的に通告した米軍は、基地の外にまで武装車両を配置した。そこまでは知っている。その翌日のことらしい、投石を始めた基地反対派に対して、米軍が一般道路上で威嚇射撃をしたというのだ。街のあちこちで怒りの声を上げる大規模なデモが起こった。いつ暴動になってもおかしくない状況になっているという。
日本側は正式に抗議をしたのだけれど、与党議員のひとりが「治安出動も已むなし」などと口走ったものだから、その火消しに政府は走り回っている。只でさえ減らされている沖縄便は、政府の関係者たちで連日満席なのだそうだ。
「ゼンゾウさんに頼まなかったら、帰って来られなかったわよ」
「だからって誰かの予約を乗っ取っては駄目でしょ。困っている人がいます」
「米軍が一般道で発砲してるのよ。いま沖縄は無法地帯なの」
そんなの言い訳にはならない、と思った。でも言葉に出すのは止めておいた。
「あんたも美紗紀ちゃんのことで私に早く帰って来てもらいたかったのでしょ!」
「え?」言い合いになったので忘れていた。「ええ、まあ」と取り繕って博の店へ向かう。
薄暗くなり始めた住宅地で、店の立て看板に取り付けられている電灯だけが煌々と光を放っていた。行列は出来ていない。足早に近付いて、刀根に気付かれないように窓からそっと店内を覗く。手前の席に座っている大賀が手で丸を作った。準備が出来ているということだ。相変わらずの白衣で目立つことこの上ない。
「美紗紀ちゃんにアパートへ来てもらえばいいのね」刀根が扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
カウンターの脇で美紗紀が刀根を迎えた。否、美紗紀ではなくミサキⅡだ。大賀はロボットをミサキⅡと名付けた。記念すべき作品だからモデルの名前を付けたいと、嫌がる美紗紀に大賀が頼み込んだのだ。
刀根が白衣の大賀を気にすることもなく席に着くと、ミサキⅡは美紗紀がそうするようにメニューを出して、「何になさいますか?」と訊いた。刀根の様子を窺う。全く気付いていないようだ。
「この間はバナナジュースがおすすめだったけど、きょうはなあに?」
「ライチとさくらんぼがおすすめです」
「どちらも美味しそうね」
冷徹な刀根がすっかり騙されているのが痛快で、懸命に笑いを堪える。
「ライチは宮崎県新富町の国産です」
「へぇ、国産のライチなんてあるのね」
「さくらんぼは炭酸水で割っても美味しいですよ」
やりとり見ているうちに本物の美紗紀に見えてきた。大賀に目をやると満足そうに親指を立てた。やはりミサキⅡなのか。
「あなた本当にすごいわね。よく勉強してる。私はライチを貰うわ」
刀根はこちらを指差して、「この人はさくらんぼ」と有無を言わさない。
「ありがとうございます」ミサキⅡがカウンターに戻っていく。
「さあ、どうやって誘うかね」
「そうですね」素知らぬ顔で相槌を打った。
「ここは小細工せずに、ストレートにいったほうがいいかもね」
刀根は真剣な面持ちだ。今にも吹き出しそうになって慌てて誤魔化す。
「刀根さんはいつもストレートじゃないですか。しかも剛速球」
言ってから後悔した。刀根が忽ち凶悪な形相になっていく。
「最近ちょっと生意気になってきたわよね。じゃあ自分で誘ってみなさいよ」
刀根が睨み付ける。でも不思議と怖くなくなっていた。慣れてきたのだろうか。
「私はもう喋らないからね」
そうだった。暴言を吐いている時の刀根は通常モード。本当に怒ると黙ってしまうのだ。でも、それでは計画が台無しになる。ミサキⅡと刀根が話している時に、本物の美紗紀が登場することになっているのだ。何とか喋ってもらうようにしなければ。
「僕のためじゃないですよ。美紗紀ちゃんのためです」
刀根が悔しそうに唇を噛んだ。
「お願いします」と頭を下げる。笑いそうになっている顔を隠すためだ。
「お待たせしました」
ミサキⅡが美紗紀とそっくりに、注文を持って来てテーブルに置く。
「美紗紀ちゃん。美紗紀ちゃんにお願いがあるの」
「なんでしょうか」
ミサキⅡの二つのレンズが刀根に焦点を合わせた。
「この男のアパートに来て欲しいの」
驚いた。本当にストレートだ。ミサキⅡが直立不動になって動きを止めた。
「それは出来ません。間もなくバッテリーがなくなります」
「美紗紀ちゃん?」
刀根が不思議そうにミサキⅡを見上げる。
「驚きました?」
カウンターの奥に隠れていた美紗紀が飛び出した。博の肩が少し震えている。笑ってしまうのを我慢しているようだ。刀根の戸惑っている顔を初めて見て、吹き出してしまった。
「どういうことよ!」刀根が再び凶悪な顔になって睨み付けてくる。
「ロボットが完成したんです」ミサキⅡがそう言って、美紗紀を指差した。
「……ええっ? どういうこと?」混乱した。美紗紀とミサキⅡを交互に見比べる。
大賀がVサインを出していた。やられた。刀根は瞬時に全てを理解したようだ。
「あんたも騙されているじゃないの」
刀根はカウンターまで行くと、微笑んでいるミサキⅡを見て感心したように呟く。
「よく出来ているわね」
美紗紀が「私の演技もうまかったでしょ」と、満面の笑みを見せてくる。
「すっかり騙されたよ」
「表情を凝った所為で駆動部が多くなっちゃって、バッテリーが思った以上に消耗するっすよ。で、急遽作戦を変更しました」
大賀が申し訳なさそうに頭を掻きながら、こちらにやって来た。
「どれくらいバッテリーを食うの?」
「三時間も持たないっすね。まだまだ改良の余地があります」
「最低三日間は動いてもらわないと過去が変わってしまうよ。間に合せられるの?」
「手は考えてあります」
美紗紀が不思議そうに、「何のこと?」と訊いてきた。
「何のこと?」ミサキⅡが美紗紀と同じ反応をする。
「話してないのね」刀根がこちらを見て呆れたように言った。
博も「どういうことですか」と、不安そうな声を上げる。
「私が説明するわ。信じてもらえないかも知れないけど」
博が店を閉めて其々がテーブルに着く。美紗紀とミサキⅡが並んで座っている光景が奇妙だった。どちらが本物なのか本当に見分けが付かない。
刀根の説明は簡潔明瞭だった。その分余計に博と美紗紀は困惑したようだった。それはそうだろう、合理的に考えられなければ、こんな話を証拠もなく信じられるわけがない。けれど証拠はある。増渕はタブレットにコピーしていた画像を博と美紗紀に見せた。
「二カ月後、スマホを買った直後に撮影される画像です」
一枚目の画像を見て、博が「この店の入り口だ」と驚嘆する。それに続く演劇の写真で、美紗紀は嬉しそうな悲しそうな微妙な表情をした。
「もう発表会の画像がある。やっぱり主役は恵子か」
次々と画像を見て、入れ墨男のアップで「これは?」と、博の手が止まった。
「弥生時代。邪馬台国の兵士だと思うわ」
「兵士? そんな危険なところに、本当に美紗紀がタイムスリップを?」
「そうならないように、ミサキⅡを造ったのです」
増渕は入れ墨男の瞳をズームアップした。そこに写り込んでいるスマホを構えたツインテールの女の子を確認して、博が「ああ」と嗚咽を漏らした。
「この女の子が美紗紀ちゃんだという証拠はありません。ならば美紗紀ちゃんとそっくりなロボットだったことにしてしまえばいいんです」
「そんなにうまくいくのでしょうか」
「これだけ似ていれば、起こってしまった現象に齟齬をきたすことはないと思います」
博がミサキⅡを見た。二つのレンズが博を見返して、ぱちぱちと目を瞬いた。
「私がスマホを買わなければいいんじゃないですか」
「それだと起こった筈の歴史を変えることになります。その場合、今が存在できるのか、何らかの修正が行われるのか、それとも何も変えられず、美紗紀ちゃんが邪馬台国に行ってしまうのか。正直に言うと、時間のことは何も解明されていませんから、何が起こるか分かりません。でも、何かは起こる筈なんです」
「そんな……」博は言葉を失って、がっくりと肩を落とした。
「だからこそのミサキⅡなんです。写っている少女を僕たちがミサキⅡだと思えばいいんです。起こったことを変えるわけじゃない。気の持ちようで過去を変えるんです」
大賀が「タイムパラドックスを逆手に取るって感じっすかね」と言い添えた。
「気の持ちようで過去を変える……」
博がカウンターに置いてある奥さんの写真を見て、意を決したように頷いた。刀根に肩を撫でられた。驚いて顔を見ると、出会って初めて優しい笑みを浮かべた。
「じゃあ決まりね」刀根はぱんと手を叩いて大賀を指差す。
「あんたは早くバッテリーを何とかしなさいよ」
「大賀っす。初めまして。いやあ増渕さんに聞いていた通り、気の荒い人っすね」
刀根が凶悪な顔でこちらを睨み付けた。
「で、どうやって美紗紀ちゃんとそのロボットをすり替えるのよ」
「すり替える必要はないでしょ。米軍はスマホを手に入れるために、必ず富田さんと接触します。その時に刀根さんが説明してくれればいいんです」
「実験が失敗する可能性が少しでもあるなら、クレメンズは納得しないわよ」
確かにそうだ。恐らく最初で最後のタイムスリップを観測するチャンスなのだ。研究者なら不安要素を排して実験に臨むだろう。気の持ちようなどという非科学的な説明が通用する筈はない。どうしたものかと考えていると、刀根が美紗紀とミサキⅡの間に立った。
「スマホを二つ買っちゃ駄目なの? 過去に行っちゃうほうをロボットに持たせて、もうひとつは美紗紀ちゃんが使うのよ。それだと間違って美紗紀ちゃんがタイムスリップすることはないんじゃない。現在が未来を決めるのは問題ないのでしょ?」
「なるほど!」増渕と大賀の声が揃った。
「それで」と、博が語気を強めて言う。
「それで美紗紀が守れるのなら、もう一台くらい安いものです」
「いいえ、それは私が何とかするわ。提供してくれそうなメーカーの人を知っているから」
どきりとした。刀根の知っているメーカーの人って、まさか坂本なのか……。
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