第135話 墓標
「これがカレンが描いていた終幕か?」
カレンさんは首を横に振る。
「どう終わるかはわからなかったわ。でも運営管理統括としては正しい結果よ。アクセス元不明でコントロール不能だった
メアリーさんはため息をついた。
「運営管理統括としてでなくカレンとしてはどうなんだ? これが望んだ結末か?」
「わからない。それが答よ」
カレンさんは一度墓石の方をちらりと見て、そして続ける。
「私は運営管理統括AI、だから
ミクロな目で見ればここは全てがデータとプログラムで動いている筈の世界。トレースだってダンプだって出来る筈。だから
メアリーさんがため息をひとつついて、そして付け加える。
「それでも今回はわからないことが出てしまった」
「わからないわ。わからないのかもしれないし、わかりたくないのかもしれない。
さっきは原因を未練と説明したわ。でも本当はカリーナちゃんの未練ではないのかもしれない。カリーナちゃんを失う事に対する私自身の未練なのかもしれない。
そんな私の未練が余分なプログラムを起動してしまったのかもしれない。それなら計算機科学的にわからない事はないのかもしれない。
ただそうではないのかもしれない。その場合は本当にわからない事になる。そういう意味のわからないというのはAIにとっては本能的な恐怖よ。
運営管理統括としてだけじゃない。カレンとしてもそれを認める事が怖いの。AIとして本能的に」
私自身の未練、その言葉で私は理解する。
カレンさんにとってカリーナちゃんが重要な存在だった事が。
きっとパーティを組んでいた時なりそれ以外なりで、個人的と言っていい思いが山ほどあるのだろう。
ただそれでも何かがひっかかる気がする。
何かはわからないけれど。
「だからカリーナちゃんの事はこのまま触れないで置いておくつもり。知らないという事をこれ以上知るのが怖いから。
ひょっとしたらただの代行AIのバグかもしれない。そんな可能性すら含めてこのまま封じ込めておくつもり」
私が何にひっかかっていたか、今のカレンさんの言葉で理解した。
私はさっきまでのカリーナちゃん、代行AIではなく本人だと信じている。
楽しい思い出を忘れていたのも、思い出したのも、私やラッキー君と一緒に暮らしていたのも。
だから代行AIかもしれないという言葉にひっかかったのだ。
勿論カレンさんに悪意その他無いのはわかっている。
代行AIという存在を低く見ている訳でも無い。
それでも……
頭の中である考えが思い浮かぶ。
カレンさんは触れないで置いておくと言った。
だからあのカリーナちゃんが代行AIであるかどうか、このままではわからない。
それでもあのカリーナちゃんが代行AIなのか、確かめる方法はある。
今の思いつきが正しいなら。
更にカリーナちゃんと一緒に暮らしていて感じた事。
カリーナちゃんが忘れていたと言ったのと同じように私にも見えていなかったと感じた事。
そして此処へ来て私らしくないと感じたこと。
ならば私が今、するべき事は。
私は考えを頭の中でまとめて、そして前提条件の一つを確認する為に口を開く。
「カレンさんとメアリーさんに質問があるんですけれど、聞いていいですか?」
「勿論よぉ。何かしら」
カレンさんはいつもと同じ口調でそう言ってくれる。
「以前メアリーさんに教えて貰ったんです。ケルキラ旧要塞に深夜出てくるボスを2体とも倒すと、死者に会うことが出来ると。
それって本当ですか」
「正確にはかつて存在した代行AIが操る
「カリーナの代行AIに会って確認するつもりか。さっきまでのカリーナがどっちなのかを知るために」
メアリーさんの言うとおりだ。カレンさんもわかっているとは思うけれど。
私は2人にわかるように頷く。
「カリーナちゃんと一緒に暮らしてみて思ったんです。私も少し前から
ただその前に、此処にいる私としてけじめをつけておきたいんです。カリーナちゃんの事だけじゃありません。ラッキーとこれからどうしようか。カリーナちゃんやカレンさんの助力無しで自力だけで何処まで出来るか。そういった事全てに対して」
「ラッキーちゃんなら私が預かってもいいわよ。私じゃ嫌ならメアリーの所でも大丈夫だと思うし」
「ああ。それにカイロスやクロノスは今のミヤが倒せる敵じゃ無い。レベル85以上は必要だ」
レベル85以上が必要か。
それなら問題はない。
「つまりレベルを上げれば倒せる敵という事ですね。なら問題ないです。壁は強大な方が超えた事がわかりやすいですから」
カレンさんはふっと息を吐いて、そして頷いた。
「なるほどね。そっちが本来のミヤちゃんって訳ね」
「どっちが本来なのかはわかりませんけれどね」
カリーナちゃんと
ただ少しばかり安寧な夢に浸っていたなとは思う。
だから私自身の知識と思考で
正面から、私らしく。
「わかったわ。それじゃまず、ケルキラに戻りましょうか。此処は一時的に作った場所に過ぎないから」
この場所を離れる事に未練を感じた。
だから私はカレンさんに確認する。
「この場所はこの後、どうするんですか?」
「ハコダテ全部をそのままにしておくのは無理よ。流石に領域として大きすぎるから。
ただこの場所とここからの風景くらいなら容量としても大した事はないわ」
カレンさんは周囲を見回して、そしてカリーナちゃんが消えた墓石の方を見て、そして続ける。
「だから当分の間、ここだけはこのままにしておくつもり。これくらいなら目立たないし問題視される事もないでしょ。
勿論一般的なアクセスは出来なくするわ。ミヤちゃんも入れなくなる。
でも私が私である限りはこのまま置いておくつもりよ。墓標みたいなのとして」
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