第130話 終着点
道はまっすぐ山を登っていき、そして左へ。
桜の木が全体的に赤っぽくなっていて、もう少しで花が咲きそうだ。
そんな木が数本並んでいる場所を通り抜けて、そしてその先は。
墓地だ。
どう見ても墓地、もしくは霊園。
迫ってくる予感から私は目を背ける。
この先の展開は考えないようにしよう。
できるだけ何も考えないようにして、ただ車窓から外を見る。
車は整然と並ぶ墓石の中、道路と駐車スペースとを兼ねたような場所で止まった。
「着いたわ、ここよ」
カレンさんに続いて私も扉を開けて外へ。
ダッシュで近づいてくる白い大きな塊を発見、これはもちろんラッキー君だ。
受け止めてなでなでして、そしてラッキーくんが来た方を見る。
カリーナちゃんとメアリーさんがいた。
カリーナちゃんがいてくれた事にすこしだけ安堵。
でも何故ここにいるのかは聞けない。
返ってくる答が怖いから。
「確かにそれなりに気を使ったのはわかる。強制的な手法でないのも評価するべきなんだろう。
でもこれが運営の方針なのか?」
メアリーさんの台詞にカレンさんは頷く。
「運営管理統括としては規約に従って行動するだけよ」
メアリーさんとのやりとりから運営側だとは予感はしていた。
しかし協力者レベルではなく運営管理統括とは。
「
「母体がそうである以上、最終的な行動は運営としてのそれに従わざるを得ないわ」
「ミヤさんをつけて世界を再体験させる。更には函館もどきの街を作り上げる。どちらもカレンの意志だろう。運営統括にしてはやりすぎだ。
かと言ってこの終末もカレンが望んだとは思いにくい。もっとセンチメンタルに引きずられる人格だと思っていた。コルサの時の事を考えれば」
コルサとはかつてカレンさんやカリーナちゃんがパーティを組んでいた人の事だろう。
そして『ミヤさんをつけて』か。
確かに私がカリーナちゃんに会うように仕向けたのはカレンさんだ。
メアリーさんの言葉通りならその目的はカリーナちゃんに世界を再体験させる為。
「その前に今の状況を運営として説明するわ。ミヤちゃんはまだ状況を確認できていない筈だから。想像、あるいは推理は出来ていると思うけれどね」
私の意識に緊張感が走る。
耳を塞ぎたいけれど、聞かなければならない。
結果として何も出来ないままの私の意識にカレンさんの説明が響く。
「カリーナちゃんという
ただそれでも
カリーナちゃんが死んでいる。
衝撃的な言葉の筈なのに私は驚かなかった。
心の何処かで納得していた。
きっと私はわかっていたのだ。
ハコダテに来て、メアリーさんからのメッセージを受け取って、そしてカレンさんに再会してという過程の中で。
それ以前にもいずれカリーナちゃんと別れる可能性には気づいていた。
ただ意識したくなかっただけだ。
ただし生存期間が長いのは治療が間に合った場合。
普通に生活していて倒れた場合は既に病状が進行していることが多い。
運良くすぐ
そしてすぐに
患者数は決して多くない病気だから。
この事を私は知っていた。
カリーナちゃんに出会った後、更に調べたから。
知識としては知っていたけれど気づかないふりをしていた。
つい今まで、ずっと。
「偽悪的な言い方だな」
メアリーさんが異議を唱える。
「規約に基づいて消去するだけなら下部プログラムの幾つかを動かせば済む話だ。武装天使型管理要員プログラムは
「ログインしていないのに自律判断で動いている。ならAIであれ
そうだ、カレンさんが言うとおりならカリーナちゃんはもう死んでいる。
それなら今のカリーナちゃん、どうやって動いているのだろう。
ある単語が思い浮かぶ。
でも私はそれを言葉にしたくない。
そういった存在が怖いからではない。
否定したくないからだ
カリーナちゃんが生きているという事を。
だから私の意識は逃避に走る。
見たくない事実を直視しないように。
そしてこの場には他にも謎がある。
謎というか、語られていない事実が。
「カレンさんは何者なんですか。そしてメアリーさんは何故ここにいるんですか」
カレンさんは自分で運営管理統括と言っていた。
メアリーさんはそれを否定しなかった。
でもわからない事はそれだけではない。
カレンさんは運営管理統括なのに何故パーティを組んだりギルドマスターをしたりしていたのか。
その理由、あるいは目的が知りたい。
メアリーさんがここにいる事についても疑問がある。
メアリーさんの技能についてはカレンさんから車内で聞いてはいる。
非公開領域と言っていたこの場所に来ることが出来たのもその技能故だろう。
しかし一般的ではない方法を使ってまで此処に来た理由がわからない。
カリーナちゃんと古い友人だったというだけではない気がする。
これら質問や疑問が現実逃避だとはわかっている。
でも私は知りたい。
ここにいることを納得するために。
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