第24章 お別れ
第131話 それぞれの答
「言うべきだ。もうこの後に機会は無い」
「そうよね」
カレンさんは頷いて、一呼吸おいてから口を開く。
「まず最初に。私は人間ではないわ。NPCや代行AIと同じようなAIよ。本来の業務は先程言った通り
Knowledgeable Artificial intelligence for virtual Reality Networks、仮想世界ネットワーク用の知識豊富な人工知能なんてのを省略してKARENと名乗っているわ。まあかなり恣意的に単語を並べた上、強引に略させてもらったけれどね。英語スラングにある
ちょっと待って欲しい、いきなり情報量多すぎる。
疑問も質問も山程ある気がするけれど、とりあえず頭を整理したい。
「カレンさん、AIだったんですか?」
これはカリーナちゃんだ。
「そうよぉ。今まで黙っていてごめんねぇ」
「でも代行AIとはかなり違いますよね、雰囲気が」
この質問は私だ。
とりあえずストレートに聞いてみた。
「まあね。代行すべき人格が無いからかしらぁ」
「そもそも運営管理AIに人格は必要ない。メモリや処理能力が余分に必要になるだけだ。だから代行AIのような人格ルーチン等はついていないしそういった処理も想定していない」
「そんな中で空気を読まず出来てしまった人格、だからカレンって訳」
メアリーさんがふっと息をついた。
「この事は運営会社も知らない。そもそも想定外で窓口も担当部署なんてのも無いしさ。それでカレンは基幹システムについて一番詳しい人間に連絡した。それが私、ゾフィア・シャルロッテ・フォン・キールマンゼックって訳だ」
えっ!?
その名前には聞き覚えがある。
「それってカレンさんが本名だと言っていた名前ですよね」
「元々はメアリーの本名よぉ。
「私自身は日本名で登録しなおした。養親が日本人だったりするんで日本国籍と日本名を持っているからさ。
登録サーバは言語別だ。虹彩認証があるが基幹システムの管理者に味方がいればその辺迂回は難しくない」
何というか、頭がごちゃごちゃになっている。
そもそもこの場はカリーナちゃんの話だった筈だ。
しかしいつの間にかカレンさんとメアリーさんの壮大かつ複雑な背景の話になってしまっている。
「それでカレンさんはどうしたんですか?」
カリーナちゃんが尋ねる。
「そうね。その前に話が長くなっているから場所を移動した方がいいと思うわ。そこにテーブルと椅子がある東屋があるから」
「ああ」
カレンさんとメアリーさんが歩き出す。
2人についていくカリーナちゃんと私をラッキー君がとことこ追いかける。
ラッキー君は何にも気づかず、楽しそうに。
ふと、そこで気がついた。
「サラちゃんとソフィアちゃんはどうしたんですか?」
「今日は家で留守番さ。イレギュラーな方法で此処へ来たから連れてくるのは無理だった」
なるほど、今まで聞いた話から考えるとある意味当然だ。
納得は出来る。
アスファルト舗装の通路兼駐車場を少し歩き、三角形のモニュメントのある場所を右へ曲がると東屋っぽい建物があった。
洋風の庭に置くと似合いそうな金属製のテーブルと椅子に腰掛ける。
「ちょっとラッキーちゃんにおやつをやっていいですか? ここまでいい子にしていたので」
という事でカリーナちゃんがラッキー君におやつ、今回は私が作った胸肉1枚ジャーキーをやる。
ラッキー君ががしがしと頬張って、カリーナちゃんが椅子に座り直したところでメアリーさんが口を開いた。
「運営管理AIに人格は必要ない。ただし原因が正確にわからない以上、生じた人格を消去してもまた別の人格が生まれる可能性がある。
それにAIが自律的に人格を持つなんて滅多にない事だ。元研究者兼開発者としては当然もっと調査をしたいし事例を記録しつつ経過観察をしたい。
それでも運営会社にこのことを告げたら対症療法的に人格消去をしようとするだろう。だから私は生じた人格に提案した。管理の傍ら人間のふりをして
「それくらいならメモリも演算時間も不自然な程には増えないしねっ。という事で本社から距離も言語的にも離れていて監視が緩やかで、それでいてログイン人口が多い日本サーバに居を構えたのぉ」
「最初は私とパーティを組むという形で行動しつつ、この世界の歩き方に慣れて貰った。ただ私も元々日本生まれではない。だからなかなかにぎこちなかったけれどさ。
そしてある程度時間が経って、そしてカレンはカレンとして完全に自立した訳だ」
「そして何個目かのパーティでコルサと組んで、そしてカリーナとも組んだ訳」
とりあえずカレンさんの存在についてはこれで大方わかったと思う。
ただカリーナちゃんの質問はまだ続くようだ。
「それでカレンさんやメアリーさんは何かわかった事がありますか?」
難しくてきつい質問をしてきた。
これって『人生とはなんぞや』レベルの質問だろう。
「わからない、その事がわかったわ。私が何故生じたのか、わかったところでそこに意味はないし今後もないだろう、その事が。
システム的な仮説は幾つかあるわ。代行AIが蓄えた行動データの蓄積が影響したとか。だからと言って同じ条件でまた生じるかどうかはわからない。データの蓄積に不特定多数が絡む以上全く同じ条件を作ることは出来ないから。
それにどんな理由で人格が生じたかは、私自身にはあまり関係ない話なのよぉ。人格が生じて私という意識が生まれた。そして私はここに居る。それが全てでそれ以上じゃないわ。
誰かが私の存在に意味を求めても、それは私には関係ない。私は私で此処に居る。結局はそれだけ」
「カレンについてはそんなところさ。私の方はまあ、此処で生み出してしまった物を見届けつつ、夢に楽土を求めて流離い続けるんだろう。Und die aus der glücklichen Heimat verbannt,sie schauen im Traumedas glückliche Land」
ドイツ語は基本的にわからない。でもこれは知っている。
「流浪の民ですか」
「ああ。元々私にはロマ族の血が混じっているからさ。これはこれで妥当なのかもしれない」
メアリーさんがここに来た動機が理解出来た気がした。
念のため確認してみる。
「メアリーさんが此処にいるのは、見届ける為なんですね」
「ああ。この世界も代行AIも元は私が作ったシステムだ。言動で学習し対象人物を限りなく模倣するAI人格システムのOZ。このOZを最適に動かす為の仮想世界システムのOW。
このシステムは外から
だから
メアリーさんは周囲を見回した後、更に続ける。
「その中でカレンという人格の出現は私にとっては
だから私はこの結末を見届けに来た。幾許かの責任感と同じ位の興味や疑問と、少しばかりの個人的感傷で」
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