第108話 そこまでバレていた
メアリーさんが言った通り魔物は出てこない。
ラッキー君とサラちゃんは時々私たちがついてきているか振り返って確認しながら、基本とことこと前を歩いている。
通路はこの先でやや左に曲がっている。
そこでラッキー君達が立ち止まった。
こっちを見て、そしてとことこと戻ってくる。
敵だろうか、とっさに武器を構えようとして、そして気付く。
ここだと敵ではなく冒険者の可能性もあるなと。
見られると特定されそうな神槍や戦斧ではなく、コリション干潟に行く前に購入したグレイブを短く持つ。
敵であってもこの辺で出会う相手はゾンビかグール程度。
このグレイブでも槍技を使えば問題なく倒せる筈だ。
でも対魔属性はないので、一応
この辺の薬剤、自分用にある程度ストックしてある。
ただ戦斧や神槍は対魔属性付きなので最近使っていなかった。
薬剤は買えば高いがこれは自分で作ったもの、なのであまり惜しくない。
前から歩いてくる姿が見える。
敵ではなく冒険者だった。
女性ばかり3人のパーティだ。
「やあやあこんにちは。帰りですか?」
メアリーさんが声をかける。
「4階まで行ったところでオルティアが魔力切れになったから撤退中。メアリーさんは?
革鎧に
「新技の練習中。ケルキラ島ではボス以外だとレブナントが一番打たれ強いからさ。コリション干潟高速討伐に向け、一通り技を出せるようにしておこうと思って」
「そう言えばあの本、取ったんですよね。どんな感じか、表紙だけ見せて貰ってもいいですか」
「それはWebページで、といいたい所だけれどさ、ほらこれ。槍と剣と格闘術」
さっと手を広げた上に3冊、表紙の色以外はそっくりな本が出現する。
うち2冊は私が知っているものと全く同じだ。
「えっ! 3種類も取ったんですか!」
「あとこの奥義皆伝シリーズ、攻撃魔法と支援魔法があるのを確認済み。なおこれが講習の成績表」
ちらっと見る。
うん、私と同様、中学数学、高校数学、高校物理で取っている。
満点が取りやすい教科というのはやはり同じらしい。
思い切り納得だ。
「魔法もあるの!」
これは黒いローブに杖を装備した、いかにも魔法使いという感じのやや小柄な女性だ。
「ああ。残念ながら
「うー、現物見たかった」
「それにしても3教科も満点を取ったんですか」
「ふっふっふっ、昔取ったなんとやらさ。お勉強系は得意なんでね」
カリーナちゃんがちらっと私の方を見る。
何となく言いたい事はわかるけれど、あえて気にしない。
「それであとの2人は?」
軽戦士の女の子の質問にぎくっとする。
どう返答すればいいのだろう?
そう思った時だ。
「槍と格闘技の先生みたいなもの。僕は本来剣士だからさ。槍や格闘術については正直そこまで得意じゃ無い。奥義までマスターするのなら、実際に技を使える人に教えて貰いたい事もある訳だ」
「なるほど。それじゃ技が出来たらまた載せて下さい」
「ああ、見てくれてありがとう。あとこの本、技をひととおりマスターしてオブクラ高速討伐成功したら視聴者プレゼント出す予定だから。
「えっ! プレゼントに出すんですか!」
「2~3回読めばそれ以上持っていても意味はないからね。それにプレゼント企画をやればPV伸びるしさ」
「何時くらいにプレゼント応募をやるんですか!」
「
応募期間は
「うーん、でも宣伝するとプレゼントの競争率が高くなりそう」
「しまった、それがあったか!」
メアリーさん、わざとらしく上を見上げて失敗、なんてポーズをとる。
わざとらしくというか、わざとなのだろうけれど。
「わかりました。それでは技の練習、頑張って下さい」
「ああ、アリアもオルティアもエアも元気でな」
3人と別れて、そしてまた歩き出す。
待ちくたびれたという顔をしていたラッキー君やこういう事には慣れていますという感じのサラちゃんも歩き始めた。
「知り合い、多いんですね」
なんとなく言ってみる。
「まあね」
メアリーさんはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「なにせ仕事が仕事だからさ。名前を売ってなんぼって事。悪いね、時間取らせちゃって」
「いいえ。でもまさかあの本、3冊取っていると思いませんでした」
これは本音だ。
「でもミヤさんもその気になれば取れるんだろ。
案外格闘技の本はもう取っているんじゃないかい。カリーナがいるならさ」
あ、バレている。
でもまあ問題はなさそうだ。
一応カリーナちゃんに聞いてみるけれど。
「カリーナ、言っていい」
「ええ。メアリーさんなら大丈夫でしょう」
なら言ってしまおう。
「実はその通りです。格闘技の本は午前中にとりました。まだ時間が無くて読んでいませんけれど」
カリーナちゃんがアイテムボックスから本を取り出してみせる。
「やっぱり。実はそうだろうと思ったんだ。というか今日の午前中、ケルキラの冒険者ギルドでちょっとした騒ぎがあったらしくてさ。
噂によると
そこまでバレていたか。
「ええ、私です」
「それで大丈夫だったか? 2~3人は後を追いかけたって話だけれどさ。あとはギルド職員で制止したようだけれど」
「何とかまきました」
カレンさんの事は言わなくていいだろう。
あそこに裏口があって逃げるのに使える、なんてのは私の口から言っていいかわからないから。
「ならいいけれどさ」
「追いかけられたなんて事があったんですか」
カリーナちゃんに知られてしまった。
でもまあそれくらいは仕方ないだろう。
「全力ダッシュで無理矢理まいたから、それほど大変じゃ無かったかな」
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