第107話 大型犬用ジャーキーの製造方法

「面白い攻略方法をやっているみたいだからさ。ちょっとどういう戦い方をするのかを実際に見てみたくてね。旧要塞を攻略し終わったらこっちに来るんじゃないかと思って張っていたという訳だ」


 前に会った後、カリーナちゃんが言っていたなと思いだす。


『コリション干潟クエストの次の難易度と言えば、旧要塞ここか新要塞の核心部です。ですのでこのどちらかで出会える可能性は高いだろう。

 そう考えてメアリーさんは此処へ来たのではないかと思います』


 今回も同じように考えて待ち伏せしていたという事か。


「攻略の邪魔はしない。見るだけが目的だからさ。もちろん見た事をそのまま配信なんてのもしない。


 基本的に見ているだけに徹するつもりさ。もちろん自分が危ないと感じた時は自衛の為に攻撃なり何なりするけれど。あとはこうやってお喋りするくらい。


 ただし戦闘の映像は基本的に撮るつもりだ。もう聞いているかもしれないけれどソフィアには撮影能力があるからさ。こういった魔物が出るエリアに入る時は基本的に全部録画している。


 たださっき言った通り録画をそのまま配信なんて事はしない。というかPCプレイヤーキャラや中の人を特定できるような情報は一切出さない。本人から了承がある場合は別だけれど。


 とまあこんな感じだ。それでもお邪魔ならソフィアだけを残して僕は消えるけれどさ。どうだろう、同行していいかい?」


 カリーナちゃんと2人、いやラッキー君も含めて2人と1匹の方が気楽なのは確かだ。

 あとカリーナちゃんとのデート気分が壊れるなんてのもある。

 勿論実際はデートではないのだし、この辺は私の一方的かつあまり意味の無い感覚的なものなのだけれど。


 ただメアリーさんがいて実害が起こるという可能性は低い気がする。

 実際、昨日朝に話した後、私達を特定するような情報は出していない。

 オブクラリスの高速討伐をしたのは私達だろうと確信していると思うのだけれど。


 それにカリーナちゃんも信用しているようだ。

 ならここで同行を断るなんてのは大人げないのだろう。

 私のキャラは外見が中学生風だけれども。


「私はいいと思いますけれど、カリーナは?」


「ええ、メアリーさんなら問題はないと思います」


「ありがとう。ならお近づきという事でラッキーに挨拶していいかい? わんこ用自作ジャーキーがあるけれどさ」


 本当ですか! ラッキー君が目を輝かせた。

 だっとダッシュして、メアリーさんの前でお座りしていい子ですと主張。


 なおメアリーさんの従魔のサラちゃんもラッキー君の横で同じようにお座りしている。

 私にもちょうだい! というところだろう。

 どうやらサラちゃんもイヤシ犬のようだ。


 一方でカラスのソフィアちゃんは知らん顔してザックに留まったまま。

 単に性格がイヤシ系でないのか、古代遺物のゴーレムだから食べ物が必要ないのか。


 その辺はわからないけれど、とりあえずラッキー君は貰う気満々だ。

 こうなったらもう仕方無い。


「ありがとうございます」


「オッケー。じゃあまずはラッキー、待て。そのままそのまま、はい」


 ラッキー君が貰ったジャーキー、私の手のひらくらいある巨大サイズだった。

 流石にすぐには飲み込めず噛み噛みしている。

 その間にメアリーさんはサラちゃんにも同じサイズのジャーキーをやった。


「そのジャーキー、大きくないですか?」


 気になったので聞いてみる。


「特製の胸肉1枚そのままジャーキーだ。大型犬だと普通サイズなら一瞬で食べてしまうだろ。だからじっくり食べられる大きさのを自作したんだ。

 具体的には鳥の胸肉を切らずにそのまま魔法で乾燥させている。魔法なら薄切りにしなくても中まで乾燥出来るからさ。


 水分量は概ね25%程度。このくらいがほどよく固く弾力性があって噛み応えがいい。何回か試作してこの感じに落ち着いた」


「確かにそれなら食べ応えがありますね」

 

 いい事を聞いた。

 今度鶏の胸肉を買って試してみよう。

 魔法で乾燥させるだけなら私でも失敗しないだろう。

 食事に関するラッキー君からの信頼を取り戻すのだ。


「今度作ってみます」


「ああ。何ならレシピはうちのWebに載っているから」


「あとで見てみます」


 よし、絶対に試そう。

 私はそう決意した。


「それでは先へ進みましょうか。レベル上げの為、最短ルートでボス直行でいいですか?」


「お願いします」


「わかりました。ルートは私が指示しますからその通り行って下さい」


 助かる。

 ここは暗いし部屋や分岐が多いしちょい暗くて見通しが良くないしで、正直進みにくい。

 ルートだけでも教えて貰えれば非常に助かる。

 まあ最初からその予定ではあったのだけれど。


「それではまず、来た道を戻ります。最初に左に曲がった分岐を通り過ぎて、更にずっとまっすぐ進みます」


 つまり入ってから最初に曲がった場所を、反対方向へと進むという事だろう。

 例によってラッキー君が私達より少し前を歩いて確認してくれる。


 敵は出てこない。

 先程通ってきたばかりだからだろう。

 だから割とあっさりと分岐へと到着。


「ここから次の階段まではほとんど魔物は出ないだろ。冒険者銀座みたいなものだな。新要塞の主要部の何処へ行くにも通る道だからさ」


「そうですね。冒険者とすれ違うなんて事もよくある場所です」


 なるほど、何処に他の冒険者がいるかわからない訳か。

 なら私やカリーナちゃんは名前を呼ばない方がいいのだろう。

 他の人に聞かれたくなければ。


 ラッキー君もとことこと前を普通に歩いている。

 メアリーさんが言うように敵が出てきそうな気配は無い。

 ここなら少し位雑談をしてもいいだろう。

 実はメアリーさんにちょっと聞いてみたいことがあったのだ。


「そう言えばメアリーさん。旧要塞の本館5階や海の塔第4階層の怪しい部屋、外から窓をのぞいたって投稿を見たんですけれど、やっぱりあの部屋って何かあると思いますか?」


「ああ、『旧要塞本館5階と海の塔第4階層の謎』に投稿した奴か」


 メアリーさんは一呼吸おいて、そして続ける。


「あそこに書いたのは本当だ。僕がソフィアを使って中を調べても何も映らない。

 誰かがソフィアと同じ機能のカトゥボドゥアを使って、部屋の奥まで見える時間に窓から中を見ても同じ結果になる筈だ」


 微妙にひっかかる言い方をする。

 という事はだ。


「メアリーさんは答を知っているんですね」


「まだ完全には・・・・確かめていないけれどさ」


 メアリーさんがそう言った直後、私宛にメッセンジャーの伝言が入った。

 発出者はメアリー・セレスト、つまり目の前のメアリーさんだ。


「家に帰ったら今のメッセージ通りネットで操作してみてくれ。それが現在僕が知っている範囲の答だ。

 ただ無茶はするな。それが条件だ」


「わかりました」


 無茶はするな、か。

 やはりあの部屋には何かあって、メアリーさんはそれを知っているようだ。

 自分で確かめたのでは無く、あくまで伝聞という雰囲気だけれど。

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