第106話 新要塞突入

 今回もカリーナちゃんとは途中まで別行動。

 新要塞内で落ち合う予定になっている。

 つまり要塞に入って落ち合う場所へ行くまでは、私とラッキー君の2人。


 難易度的に問題はないとはわかっている。

 カリーナちゃんに新要塞1階の落ち合う場所までの地図も描いてもらっている。


 それでもカリーナちゃんがいないと不安だ。

 我ながら随分カリーナちゃんに頼っているなとこんなところでわかってしまう。


 さて、新要塞は町の北側、港から割と近い場所にある。

 町から見ると巨大な石垣がずーっと続いているような感じだ。

 実際は石垣ではなくレンガを積んだものなのだけれど。

 少し遠くから見るとその石垣の上に、窓が少ないやっぱり石垣みたいな建造物が建っているのがわかる。


 その石垣の北東側に旧要塞でもあったようなトンネル型の出入口が開いている。

 そこが新要塞の出入口だ。

 その前は芝生の広場になっていてベンチもある。

 旧要塞と違い、そこそこ冒険者がいて休んでいたりしている。


 関わって面倒なことになるのは避けたい。

 だから私はまっすぐ中へ向かおうとした。

 しかしラッキー君、入口付近で立ち止まり、そして戻ろうとする。


 そうだ、臭いだ。

 まだ入口だが既にうっすらとなんとも言えない臭いがしている。

 消臭剤デオドラントを取り出し、私自身とラッキー君にスプレー。

 これで一時間くらいは臭いを気にしないで済む筈だ。


「ラッキー、これで大丈夫?」


 ラッキー君、不思議そうに周囲を見回し、そして私の横に来る。

 頭をなでなでして、そして中へ。

 ラッキー君も無事ついてきた。


 さて、建物内、壁も天井も床も黄色い煉瓦。

 正面に小さい窓があり、歩くのには不自由しない程度の明るさはある。

 ただそれでは不安だから灯火魔法を使うけれど。


 さて、カリーナちゃんと落ち合う場所までいかないと。

 まっすぐ進んで、行き止まりを左へ行って、まっすぐ行った突き当たり左側の部屋だ。


 此処、旧要塞の本館に比べるとかなり広いし部屋数も多い。

 廊下があって部屋が横にあるというのではなく、部屋が幾つもあって、その中心に通路となるアーチ型の穴が開いているという感じだ。

 だから死角が多くて気が抜けない。


 ラッキー君が立ち止まった。

 この反応は……いるな。

 戦斧だと取り回しにくい広さなので神槍を出す。


 ぐちゃ、ぐちゃ……

 そんな感じの音が開口部の向こう、隣の部屋から近づいてきた。

 ここから隣の部屋への出入口まで3m、隣の部屋はそこから壁の厚さぶん、概ね60cmくらい向こう側。


 槍をまっすぐ構えて敵が見えるまで待つ。

 右側から出てきた。

 どう見ても人間では無い。

 そう判断した次の瞬間、私は高速で槍を連続的に突き出す。


『槍技:彗星突コメット

 

 嫌な感じの流動体を向こう側にぶちまけた感じになった。

 反射的に清浄魔法を使って綺麗にする。


 まだ終了メッセージが出ない。

 ならば他にまだいるのか、耳を澄ませる。

 おっと、ラッキー君が隣の部屋へとことこ歩き出した。

 部屋の中央で立ち止まり、左を向いて、そしてぴょーんとジャンプする。


『ゾンビ、ゲンエイグアナを倒した。ミヤは経験値……』


 今のはただのゾンビだったようだ。

 嫌悪感であまり見ないで倒してしまった。

 そしてゲンエイグアナはいつも通りラッキー君が倒してくれた訳だ。


 あと消臭剤デオドラント、かなり強力に効いているようだ。

 ヴィード島でゾンビを倒した時、屋外で、なおかつ悪臭防護オードルプライブを使用しているのに結構臭った覚えがある。

 それが此処では一切しない。


 ただラッキー君、ゾンビはやっぱり相手にしたくないようだ。

 強さ的にはスケルトンとほぼ同じだから、今のラッキー君なら余裕で倒せる筈だけれど。


 次の部屋で正面側への通路は無くなっていた。

 代わりに左右の壁に通路の穴が開いている。

 どちらも何部屋も先まで続いているようだ。


 ここを左だな。

 歩こうとしたところでラッキー君が立ち止まる。

 もしやと思って耳を澄ませると、先程とは少し違うけれど音が近づいている。


 私は槍を構えて、そして敵が見えるのを待つ。

 ここからは先程と同じだ。


 ◇◇◇


 左折してから6部屋。

 ゾンビ3匹、レブナント1匹、ゲンエイグアナ4匹を倒したところで行き止まりになった。

 そして確かに左側には部屋らしい入口がある。

 窓があるらしく若干明るい。


「この部屋、何かいる?」


 ラッキー君に聞いてみる。

 彼は特に気にしない様子で普通に部屋に入っていった。

 どうやら問題ないという事らしい。

 私もついていく。


 小さいながら窓が2面にあって風が通っている。 

 それだけでもここまでの部屋に比べると大分過ごしやすそうだ。


 さて、カリーナちゃんはどれくらいで来るだろう。

 なんて思っていると近づいてくる足音が聞こえた。

 カリーナちゃんか、それとも別の冒険者か、はたまた敵か。

 そう思ったところでラッキー君がダッシュする。


「あ、ラッキーちゃん!」


 カリーナちゃんだった。

 安心して私も部屋から出る。


 あれ? カリーナちゃんの他にもう1人いた。

 白衣にしか見えない戦闘服。

 長身で保護眼鏡をかけて黒髪を後ろでひっつめた姿。

 大型犬とカラスを従魔として一緒に連れてきている。

 

 私がこの世界パイアキアン・オンラインで知っている数少ない1人。


「こんにちは」


「やあやあ一日ぶり」


 そう、メアリーさんだ。

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