第98話 腕が疲れた戦い

 本館1階も地下1階も敵が復活していた。

 とは言っても所詮デュラハンやスケルトンカサドール、ゲンエイグアナといった敵だ。

 技を出してさっさと片付ける。


 なお私の武器は神槍のまま。

 今回のボス戦は連続技を多用するらしいので、技を出しやすく攻撃力が高い方を選んだ。

 私個人としては戦斧の方が好きだけれど仕方ない。


 階段を降りて地下2階へ。

 既にゴースト系の音がしている。

 私はアンデット・死霊系魔物忌避剤エラービをさっと撒いて神槍を構えた。


 白いもやのような敵の他、起動前の魔法が様々な暗い光を放ち始めているのが見える。

 なら全力で消しに行こう。


『奥義:面制圧刺・連続起動!』


 高速でひたすら槍をつつき続けるという、単純だが手数としては圧倒的な技だ。

 起動前の魔法は勿論スピリットもあっとうい間に数を減らしていく。

 作業っぽくて楽しさはないけれど効果は抜群。


 カリーナちゃんの先ほどの話では、ここの敵はリッチー1体、スピリット3体、レイス2体。

 ゲンエイグアナはいないようだ。

 攻撃に反応していないから。


 面制圧攻撃の連続でスピリットはあっという間に消える。

 起動前の魔法も一気に数が減った。

 しかしリッチー、そしてレイスに対してこの面制圧刺が効いているかどうか微妙にわからない。

 動かないけれど魔法は起動させようと放っているし。


 このまま面制圧攻撃を続けても倒せないことはないだろう。

 しかし腕が思い切り疲れてしまいそうだ。

 槍で突く範囲をレイスとリッチーを含むギリギリまで絞る。

 

『槍技:流星突メテオ!』


 面制圧より範囲を狭めると流星突メテオになるようだ。

 ただこれでも効果は今ひとつという気がする。

 敵の足止めと攻撃魔法の相殺は出来てはいるけれど。


 流星突メテオはそこそこ広範囲に届く技だ。

 しかし範囲が広いという事はその分攻撃密度が低いという事。

 なら攻撃範囲を狭めればいい。


 連続攻撃を当てている限り敵は動かないし魔法も起動しない。

 だから攻撃を続けつつ、私が移動すればいい。

 敵は前後方向にはそれほど広がっていない。

 だから右か左へ動いて横方向へ行けば左右方向の攻撃幅をだいぶ減らせる。

 右側のレイスが一番手前にいるから、動くなら右だ。


「次の技のために右へ移動するから。もし移動時に連続攻撃が途切れた場合、魔法のキャンセルお願い」


「わかりました」


 突く速度に影響がないよう、そろりそろりと移動。

 脳筋腕力でも技を出しながら動くなんてのはかなり疲れる。

 腕の筋肉がつりそうだ。


 これは後で治療薬ポーションのお世話になった方がいいだろう。

 飲むのと腕にかけるのとどっちが効くだろう。

 なんて事を思いつつも移動。


 一直線とまではいえないけれど、手前からレイス、リッチー、レイスと狭めの幅で並ぶ形に見える場所まで来た。

 いい加減右腕が疲れてもきた。

 ここで決めるとしよう。


 息を吐いて、吸って。

 そして私は更に腕に力を込めて連撃を繰り出しつつ前へ飛び出る。


『槍技:流星進撃!』


 一番手前のレイスが消える。

 すかさずやや右側に見えるリッチーに向け進路を微調整。


『槍技:流星進撃!』


 リッチー、結構耐える。

 私の攻撃で動けないままだけれど、魔法を出す事は出来る模様で、起動前の魔法の鈍い光が現れては消える。

 勿論私の連続技が消しているのだけれど。


 私はさらに前進。

 ついに私の槍がリッチーに直接届くところまで来た。

 これでどうだ。

 更に後ろのレイスも気にしつつ、私は連続技を続ける。


『槍技:流星突メテオ!』


 グゥオー!

 リッチーが吠える。

 しかしこれは攻勢に出る為の咆吼では無く断末魔の叫び。

 黒い半透明な姿が消えていく。


 残ったレイスも流星突メテオの集中攻撃を受けてあっさり消えた。

 さて、これで残りがいるかどうか。


『リッチー、レイス2体、スピリット3体を倒した! ミヤ・アカワは経験値……』


 終わりのようだ。


『ケルキラ旧要塞本館ボス:リッチーを倒した! ボーナス経験値1230を獲得……』


『ミヤ・アカワはレベルが上がった! HPが……』


『ケルキラ旧要塞本館ボス:リッチーを倒した1893組目のパーティとなりました。所要時間8分51秒。

 ケルキラ旧要塞の石碑モニュメントに功績が記載されます……』


 連続で出てくるメッセージにあるのは経験値と魔石関係、あとは私のレベルアップについて。

 5階の謎については無かった。

 これは覚悟していたし仕方ない。

 それよりレベル38に上がった事を喜ぼう。


「レベルが上がった。これで38、あと2つ」


「順調だと思います。これで海の塔のスケルトンジェネラルまで倒せばレベル39に近い状態まで経験値を稼げそうです」


 そうなるとあとレベル1つか。

 でもその前に一休みしたい。

 右腕が限界、ぷるぷるしている状態だ。


「ちょっと腕が疲れたから、外で少し休んでいい?」


「勿論です」


 1階まで階段を上り、病院跡や海の塔側の出口から外へ。


 ◇◇◇


 カリーナちゃんによると腕だけを回復させたい場合、回復薬ポーションは内服より外用、患部に直接塗布がいいそうだ。


「患部に手ぬぐいを巻いて染み込ませるという方法が一般的です。腕の他に足もそうやって回復させると情報にあります」


 言われた通り右腕全体に手ぬぐいを巻いて、上から初級回復薬ポーションをかける。

 確かにすっと楽になった。

  

「次は海の塔のスケルトンジェネラルですね」


「うん、だけど……」


 気になった事があるので言ってみる。


「海の塔のスケルトンジェネラルを倒すと、あとはボス戦なしで経験値を稼がなければならないよね。結構きつそう」


 確かに今朝37になって、今38に上がったから順調ではある。

 でもボス戦が無ければ経験値を一気に稼ぐなんてのは難しい。

 作業のように雑魚を倒してこつこつ稼ぐしかないだろう。

 仕方ないとはいえ、あまり面白くない作業になりそうだ。


「ええ。ただもし効率良く経験値を上げるなら、新要塞へ行って最短でボス攻略をしてくるなんて方法があります。

 ミヤさんの家から新要塞まで10分くらいですし、ボス攻略まで最短ルートなら2時間かかりません」


 そう言えば新要塞なんて場所もあった。

 しかしあそこは確か……


「新要塞ってゾンビ系が多くて臭いんだよね、確か」


 単に臭いから行きたくないというだけではない。

 ラッキー君がそういった臭いを嫌うというのも理由。

 私の場合索敵はラッキー君に頼り切りだから、置いていくという選択肢は無い。

 結果、新要塞は避けたままだったのだ。


「ええ。ですので消臭剤デオドラントを調合しようと思います。

 上級の錬金術になりますけれど、素材は此処旧要塞で取る事が可能です。ただし夜にしか採取できない素材が必要です。なので今までは素材採取をしませんでした。

 ですが今のミヤさんやラッキーちゃんのレベルなら問題ないでしょう」


 そういえばカリーナちゃんから借りた本にそんな記述があったような気がする。

 脳筋的に経験値稼ぎをしていたので忘れていたけれど。

 ただ懸念事項もある。


「でも夜ってエムプーサやラミアが出るんだよね」


 確かその辺の魔物はレベル60近くないと倒せない。

 そう攻略サイトには書いてあった。

 格闘戦も魔法も可能で、なおかつ頑丈で動きが速いとあったから。


「深夜になれば出てきます。ですが日没後2~3時間では出てきません。その時間帯ですと出てくるのはレイスまでです。ですから日没後2時間以内にさくっと薬草を採取して帰れば問題はありません」


「ならこの後、さくっと海の塔も攻略してこようか」


「そうですね」

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