第92話 今だから言える話
錬金術ギルドからまたカリーナちゃんと別れて家へ。
カリーナちゃんは私達より10分程度遅れて到着。
「遅くなりました。それでは早速ですけれど、カレンから受け取った封筒の中身を見てみましょう」
「だね」
開けてみると中には書類が3枚。
ベータテストプレイヤー募集の書類と細部事項、そして参加申請書だ。
募集の書類は『テストプレイヤーを募集します。詳細は細部事項の通りです』的な内容。
そして細部事項は幾つかの分類ごとに細かく書いてある。
大雑把にまとめると、
○ 口外禁止で、参加権の譲渡も禁止
○ テストプレイ中はプレイヤーキャラクターは死なない
○ 参加報酬はゲーム内通貨とアイテムのみで現金はなし
という感じだ。
ギルドでカレンさんから聞いた内容と変わらない。
「特におかしいところは見当たらないと思うけれど、カリーナはどう思う?」
「私も問題はないと思います。ただこの情報では新しいマップがどのような内容なのかわからないですけれど」
確かに書いてあるのは権利関係とか注意事項ばかりだ。
新しいマップがどんな場所なのかは一切書いていない。
それに確認したい事は他にもある。
「あとこういうテストプレイって以前もあった? 検索しても出てこなかったんだけれどカリーナは知っている?」
帰り道、歩きながら別ウィンドウを開いて検索してみたのだ。
例えば『パイアキアン・オンライン テストプレイ』という感じで。
しかし出てきたのはオープン当初のベータ版テストプレイだけ。
今回のように新マップ追加の為のテストプレイというのは確認出来なかった。
「私が
ですがその2回ではテストプレイヤーを募集したという話は聞いていません。噂でも……無さそうです」
という事は、考えられるのは今回は今までの追加と違うという可能性。
「規模が大きいとか、世界観が違うとか、そんな感じかな」
「そうかもしれません。ただどんな場所になっているのかはわかりません」
カリーナちゃんでもわからないなら私にわかる訳はない。
「此処に書いてある事から判断するしかないか。勿論まずはレベル40にならないと駄目なんだけれど」
「そうですね。ただそっちはあと3日以内に何とかなると思います。旧要塞は敵が少し強くなった分、経験値が多くもらえる様になったようですから」
「強くなったなら、その分倒しにくくなったって事はない?」
「今のミヤさんとラッキーちゃんの実力なら、多少敵が強くなっても問題はありません」
確かにそうかもしれない。
既に新しい敵と戦った経験からすると。
「それじゃお昼にしましょうか。そろそろいい時間ですから」
確かにまもなく12時だ。
「わかった。ありがとう」
テーブルの上を片付ける。
カリーナちゃんがアイテムボックスからギロスとサラダ、オレンジジュースを出した。
今回のギロスは何かいつもの雰囲気が違う気がした。
すぐにその理由が包装紙に包まれている事だと気づく。
と、いうことは……
「今回のギロスは買ったもの?」
「ええ。帰り道に美味しそうなお店があったので買ってみました」
少しカリーナちゃんが変わったかなと感じる。
自分だけで買い物をする事は今まで無かった気がするから。
コリション干潟からの帰りにした買い物でも品物は選ぶけれど、注文するのは私だったし。
でも悪いことではないし問題はない。
寂しいと思うのもきっと反則。
カリーナちゃんは私の所有物では無く、むしろ私がレベル上げその他でお世話になっている状態。
そこを間違えてはいけない。
気分を取り直してギロスを観察。
この辺ではスタンダードなタイプのギロピタだ。
ピタパンの中に肉、トマト、タマネギ、フライドポテトが入っていてヨーグルトソースを和えてある。
テーブル脇で主張しているラッキー君にはギロピタでは無くカリーナちゃん特製焼肉塊を皿に入れてやり、昼食開始。
ギロスを食べてみる。
美味しい、オーソドックス系の美味しいギロピタだ。
「美味しい。どの辺のお店?」
「市場街の西南外れにあるお店です。薄切り肉を大きな串に刺して焼いているのを見て、この調理法は家ではやらないなと思ってつい買ってしまいました」
「このお店は知らなかった。前はテイクアウトばかり食べていたのに」
そう言ってすぐに気づいた。
確かにテイクアウトばかり食べていたけれど、買っている店はだいたい同じだった事を。
だいたい市場の奥の方へなんて買い物に行かなかった。
その辺に行くようになったのはカリーナちゃんが来て、いろいろな食材を買うようになってから。
「前を通って見て思ったんです。そう言えば以前は料理法とかこういったお店の違いとか全く意識していなかったって。攻略以外は何も気にしていなかったなって。そう思うと何か色々と勿体ない気がして、つい買ってしまいました」
ふと疑問に思って聞いてみる。
「でもカリーナは料理出来るよね、それもこの世界風の。だから料理法については結構知っているんじゃない?」
「実はレシピの半分以上はミヤさんと暮らしてからネットで覚えたものなんです。攻略組の時は時間節約でテイクアウトを買い込んで摂取していました。そしてカレン達と攻略していた頃はカレンが全部作っていましたから。
実は独り暮らしの時はカレンがやっていた料理を真似て適当に作って食べていただけだったりします。だからちゃんとした料理はよく知らなかったんです。
だから最初にミヤさんと作ったムサカとザジキも、実はネット上のレシピを見ながら作っていたんです。
えっ、そうだったのか。
でも待てよ。
「でも買い出しの品物リストとか、わかりやすくて助かった記憶があるけれど」
「あれも説明も全てネットに書いてあるそのままです。久しぶりに他人と話すので何を話せばいいのか、そもそも間合いをどうするかがわからなかったんです。
だからとりあえず一緒に料理をすれば何とか進行出来るかと思って。漫画形式で書いてある料理レシピを説明を含めてほぼそのまま言っていただけだったりします。
ただ料理するのは結構楽しくて、その後はまってしまったのですけれど」
なんと。
でも確かに言われてみれば頷ける面がある。
普通は料理が出来ない日本人にいきなり面倒臭いギリシャ料理を作らせたりしないだろう。
でも、そういう事はだ。
「カリーナ、そこまでして私と一緒にいてくれようとしたんだ」
他人との間合いがそこまでわからない状態なのに。
「私自身、このままではいけないとは感じていたんです。それにカレンがそうしようとしたのなら、きっと意味があることだろうと思ったので」
なるほど。
「カレンさん、信用しているんだ」
「一時期NPC以外ではカレンとコルサくらいしか信用できなかったですから」
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