第82話 必要な安全対策

 ちょうどハーブティの香りが広がった頃。

 ラッキー君が門の方へダッシュする。


「ただいま帰りました。あ、ラッキーちゃん危ないですよ」


 カリーナちゃんが帰ってきたようだ。


「おかえりなさい。とりあえずお茶を入れたからどうぞ」


「ありがとうございます」


 ラッキー君もカリーナちゃんと一緒に外から戻ってきた。


「あとお昼どうする? 食べてきた?」


「いいえ。ただ時間が中途半端なので、少し多めのおやつくらいにしようと思います。

 ちょっと早いですけれどおやつの時間にしませんか。カスタードアップルパイのホールがあるので」


「いいね」


「なら出します。外でも食べられるよう、食器等も入れてありますのでこのままで」


 カリーナちゃんがアイテムボックスから綺麗に焼けたアップルパイを出す。

 円盤形でやや分厚く、上面が格子模様みたいになっているいかにもという形ものだ。

 茶色のつやつやな表面からしてもう美味しそうな気配しかしない。

  

「これ、カリーナが焼いたの?」


「ええ。パイシートやカスタードクリームは暇な時に作ってたものをストックしています。ですから作るのは簡単です」


 いや簡単という事はないだろう。

 それに暇な時にパイシートやカスタードクリームをストックって……

 こちらは卵一つ満足に割れなかったのに。

 そう思うと何か悲しくなる。


「あれ? ミヤさんどうかしましたか?」


 おっと、気づかれてはまずい。


「ううん、何でも無い。それじゃ食べようか」


 トントン、前足で床を叩いてラッキーが自分の分を請求している。


「それじゃわけますね」


 カリーナちゃんが3等分して、一つはラッキー君へ。


 ◇◇◇


「講習1回でINTちりょくは5上がりました。これで31なので、今後これで困る事はないと思います」


 講習1回でこの時間か。

 思ったよりかかっているなと感じるけれど、確か本来は講習って1回3時間。

 そう思うと妥当な時間だ。


 あとINTちりょくが5上がったという事は、満点では無かったという事か。

 ケアレスミスなんてのは見直しをしても見つからない事がある。

 だからまあ仕方ない。


「なら明日以降も講習受けてみる? 2回受ければ能力上限の40は確実だし、満点狙いも出来るし」


「いえ、やっぱり満点狙いというのは難しいです。今回はそこまで難しい問題では無かったと思うのですけれど、それでも自信がないのが数問ありましたから」


 数学以外の科目を受けたのだろう、きっと。

 それならたまにど忘れしてわからないなんて事もあるから。


「あとしばらく冒険者ギルドの近くは行かない方がいいと思います。私もミヤさんもです」


 明日カリーナちゃんが講習に行かないのなら、代わりに満点賞を狙ってこよう。

 そんな事を思っていた私は出鼻をくじかれた。


「何で?」


「15分でオブクラリスを倒した事がもう掲示板で広まっています。どうやったか知りたい考察系、戦力として引き入れたい攻略系等がミヤさんや私を探しているようです」


 探す?


「探す程の事は無いと思うけれど」


パイアキアン・オンラインこのせかい的にはそのくらいの大事なんです。倒した方法、倒した後の副賞、その辺の情報をほしがっている人は大勢います。そしてそれが出来た人についても。

 だからもしミヤさんが有名になりたいなら今がチャンスです」


 勘弁して欲しい。

 私はここで今のようにまったりと暮らせればそれで充分だ。

 それに有名になった後、万が一私の素性がバレて金の亡者どもが押しかけてきたら。

 そう思うとぞっとする。


「わかった。しばらく冒険者ギルド方面には行かない事にする」


 そう言って、そしてふと思いつく。


「あとそれなら私達が実際にやった方法や神々の武器について、ネットに流してしまうのはどう? そうすれば私達を探すより実際にやって確かめようと皆、思うんじゃない?」


「確かにそうかもしれません。ただ同じ事をするには、

 ① 満点賞を取って『槍術奥義皆伝』を手に入れ

 ② 跳上という槍の特殊技を覚える

必要があります。それが出来る冒険者はほとんどいないと思うんですけれど」


「でもまあ、情報を載せておけば私達を探すよりそっちを試そうとか本を探そうという人が増えるんじゃない? あと何を手に入れたかも情報を流せば、そっちを聞こうとする人も減るだろうし」


「手に入れたのが主神シリーズとなれば、それはそれで欲しがる冒険者が大勢でそうです。

 でも確かに私達を探すのが大がかりになる前に情報を流した方がいいかもしれません。なら掲示板にささっと書き込んでおきます」


 それはありがたい。

 でも少し不安があるので確認しておく。


「書き込んだのがカリーナだってバレない?」


「それは大丈夫です。ゲーム公式とは別の匿名掲示板ですから。むろん信憑性はある程度疑われるとは思いますけれど」


 なるほど、そういう掲示板ならカリーナちゃんや私について、石碑の記載以上に特定するなんて事は出来ない訳か。

 それに信憑性がある程度怪しい方がいいのかもしれない。

 必ず貴重な武器が手に入るとわかったら、それはそれで本気のヤバい人に狙われるおそれもあるし。


「それじゃ当分冒険者ギルドには近寄らない。あと私、カリーナ、ラッキー君の3人で街中人が多いところに行くのも控える。こんな感じでいい?」


「それでいいと思います。誰か1人だけなら特定しにくいと思いますから」


 よし、それではこの件はこれで解決としよう。

 当座のところは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る