第72話 本日の夕食

 店の広さは現実そとによくあるコンビニ程度。売っているのは食料品ひととおりという感じだ。


「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」


 カリーナちゃんがびくっとする。

 対人恐怖症というのは面倒な人と会わない為の言い訳、そう前に聞いた。

 でも人見知りはするようだ。

 ここは私が間に立って相手したほうがいいだろう。


「夕食用の買い出しです。ちょっとひととおり見てみていいですか」


「わかりました。こんな小さな村の店なので変わったものはありませんが、どうぞご覧下さい」


 多分NPCの店員さんとそう話した後、店の中を見て回る。

 店の通り側は野菜等、中程はパンや加工食品、奥側が肉や魚、そして調味料という配置のようだ。


 野菜はケルキラでも見慣れたものばかりだけれど、初夏という事で種類は多い。

 トマト、ジャガイモ、豆類、ピーマン、葉物いろいろ……

 あとは夏みかんが5種類くらい、あとメロンというか甘い瓜が3種類あって、他は冷凍イチゴだのシロップ漬け各種だの。

 値段はケルキラより安い。


 パンはよくある食事パン+αという感じ。

 特に見るべき感じはないので必要分だけでいいだろう。

 乾燥パスタも各種そろっているけれどそれ以上ではない。


 まあ小さい集落のお店だしこんなものだろう。

 そう思いつつ肉魚コーナーへ行ったところで……


 何だこれは、それが第一印象だ。

 勿論アヒルや鶏、豚、牛といった定番の肉もある。

 しかしそれ以上に何というか、怪しいお肉がいっぱいだ。


 角兎、魔鹿あたりは討伐で扱っているしいいとしよう。

 野兎、猪あたりもまあわかる。

 しかしコウモリが3種類とか雀やカラス、更には野ネズミとなると……


 それに比べると魚介類はどれもまともな食材に見える。

 ただケルキラの市場と比べるとやっぱり異質だ。

 よくわからない小蟹が大量にバケツに入っていたり、貝も二枚貝巻貝あわせて10種類以上あったり、靴の中敷きみたいだけれど多分魚だと思われるものがいたり……


 泥魚も冷凍だけれど扱っている。

 かなりお高めのお値段だけれど。


「これは面白いです。ただどうやって調理すればいいか、わからないです。検索してみます」


「前に来たときは見なかったの?」


 何となく聞いてみる。


「ええ。干潟の攻略だけでお店は回りませんでしたから。

 なるほど、結構ここの独自食材、知っている人は知っているみたいです。レシピもそこそこ程度ですが載っています。少し買って試してみますね」


 親指1本より大きく2本より小さい小蟹、蟹よりやや小さい巻き貝、靴の中敷きみたいな魚、そして野菜各種と購入。


「結構買ったね」


「ええ。特に野菜は安かったので。夏みかんもこれだけ安ければ家で絞ってジュースにしておけばいいですから」


「あとやっぱりネズミやコウモリは遠慮したんだ」


「調理方法は一応ネットにありました。でもまだ挑戦する勇気が無くて」


「まあそうだよね」


 そんな事を話しながら店を出る。


「後はメリティイースの森へ帰って夕食準備かな」


「そうですね」


 集落の街門を出たら、あとはカリーナちゃんの小屋へ向けて走るだけだ。


「今こうやってみるとずいぶん損をしていた感じがします。見えていなかったんですねパイアキアン・オンラインこのせかいだってこんなに色々あって、結構な人がそういった部分まで楽しんでいるのに」


「まあいいじゃない。これから見て回れば」


「そうですけれどね。あと話は大分変わりますけれど、ミヤさんはそろそろもう1冊の本を読んでみるか、この前読んだ本をもう一度読んでみるといいかと思います。レベルが今日の戦闘で上がりましたから、また別の技を覚えられるかもしれません」


 そう言えば手に入れた本のうち槍術の本はまだ読んでいない。

 本を読むと時間を消費するし、もう片方の本で得た技もまだ全部習得していない状態。

 だからつい読まないまま積ん読、実際はアイテムボックスの中に入れっぱなしだった。


「そうだね。なら今日、ご飯を食べた後にまだ読んでいない槍術の方を読んでみる」


「なら夕ご飯は少し早めにしますね」


「ありがとう」


 そんな事を話しながら走ればカリーナちゃんの小屋はすぐだ。


 ◇◇◇


 夕食は今回も和風で主食はご飯だ。


「今日の料理はごはんの方があいそうなので。それに昨日ミヤさんがパンよりご飯を食べていましたから」


「ありがとう」


 メインは靴の中敷き風の魚のバター焼き。

 サイドメニューが小蟹の素揚げ、唐揚げ、巻き貝を茹でたらしい物、サラダ、そして茶色いふわふわがういた汁。

 そして塩辛とごはん。


「今日買ったものじゃないけれど、この塩辛美味しいよね」


「でもこれで最後なんです。あとはケルキラに行ったらまた作ってみます」


 さて、それではいただくとしようか。


「いただきます」


 そう言ってからまずは一番つまみやすい小蟹の素揚げを口に入れてみる。

 カリッ、サクサク、思ったより味も抵抗もない。

 しかし何かあるような気がするのでもう1個。


 これは危険だ。

 6個ほどつまんだ結果、私の脳みそがそう判断した。 


「この素揚げ、面白いね。最初は単なる塩味かと思うけれど止まらなくなる」


「食事のおかずというよりおつまみ的な料理かもしれません」


「でも美味しいよ。確かにおつまみかもしれないけれど。ところでこの貝はどうやって食べるの?」


 茹でたらしい貝、箸やフォークで食べるのは無理だ。

 爪楊枝サイズの金串みたいなものが置いてあるので、これで食べるのだろうと想像はつくけれど。


「こうやって金串で刺して、巻いている方向に沿って引っ張り出すだけです」


 カリーナちゃんがそう言って実践してくれる。

 カタツムリみたいな形をした白色の身が出てきた。

 なるほど、そう思って試してみる。

 思ったより簡単にくりっと出てきたので、口の中へ。


 おっと、これはなかなか他にない味で美味しい。

 味が濃くてちょっと苦みもいい感じで、かみ応えもなかなかいい感じ。

 表現的に今ひとつかもしれないけれど、いかげその上位互換という感じだ。


「美味しいねこれ。見た目はいまいちだけれど」


 美味しいと聞くと反応する奴がいる。

 専用の肉&ゆで野菜の夕食を一瞬で食べ終えて、足下でお座りしてえへらえへらしている奴。

 勿論ラッキー君だ。


「犬は貝を食べちゃだめなんですよ、本当は。まあ魔犬だから大丈夫ですけれど」


 カリーナちゃん甘い! 今やるとずっと食べ終わるまでつきまとわれるぞ。

 そう思いつつ私は汁へ、何だろうこのふわふわは。

 口に入れると濃縮した海っぽい味が広がる。

 これはこれで貝とはまた違う方向で凄く美味しい。


「この塊は何? 凄く美味しいけれど」


「それも蟹なんです。殻ごと魔法ですりつぶして茹でるとそんな感じになります。味付けは汁に醤油を少し加えただけです」


 うーん、現実そとでは知らない料理だ。

 同じような料理はあるのだろうか。

 そう思いつつごはんをはさんで、次はメインの靴の中敷きもどきバター焼きへ……


 ※ 本日のメニューの参考

  ○ イソニナ(小さい巻き貝) 今回は塩味で茹でただけ

  ○ がん汁(大分県)もしくはガニ汁(青森県)どちらも 蟹をすりつぶして醤油風味に仕立てた汁物

  ○ 舌平目のムニエル お約束のフランス料理 ただしミヤさんは知らないので靴底扱い。まあ舌平目って日本の地方名ではクツゾコとかゾウリなんて呼ばれていたりするし、英語でもSole。だからミヤさんの感想はあながち間違いではないかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る