第47話 此処にいるわけ
「ついでに言うと特定指定難病なので病院代や治療費も国から出ています。学校等についても他の特定指定難病と同じように年限や通学の特別措置があります。
だから困る事はない筈なんです」
カリーナちゃんはよく言えば落ち着いた、悪く言えばあまり感情を感じない口調で続ける。
「国が運営しているVRとAIを使った学校なんてものもあります。ネット経由で全国から通うことが可能です。
特定指定難病扱いなら義務教育の教育年限指定も解除されます。ですから1学年分を現実の16日で履修する事も可能です。
高認試験も通信制大学も受験年齢の縛りが解除されます。大学卒業までなら学力次第ですが学費もかかりません。ですからその気になれば現実の半年で小学4年から大学卒業までが可能です」
そこまでは知らなかった。
「国も結構制度を整備しているんだね」
「ええ。結構頑張っていると思います。
ただ先生や私以外の生徒がAIの学校って、何処か微妙に味気ないんです。AIだと知っているからかもしれないですけれど」
説明っぽい口調に少しだけ感情が感じられた気がする。
でも同じ学年のAIじゃない生徒はいないのだろうか。
そう考えて、すぐに私は思い違いに気付く。
特定指定難病の患者、そもそも絶対数が少ない。
その上現実世界の15日で仮想世界の1年は過ぎてしまう。
つまりよほどの偶然が重ならなければ、同じ学年の人間はいないのだろう。
勿論もっと現実に近い速度にする事は技術的には可能だ。
しかしVR系Webの標準が24倍速。
だから、そこをあわせないとVR空間だけで生きているような存在には使いにくくなる。
カリーナちゃんの説明は続いている。
「他に国が運営している仮想の街なんてのもあります。ポイントでこの街や学校で使える買物が出来たりもします。服を買ったり本を買ったり映画を見たりなんて事だって出来ます。
ただこの街も住民のほとんどがAIです。AIでないのはこの街を訪れる中のごく一部。予めこういった街を使う患者専用の掲示板等で約束をしない限り、AIにしか会えないのが普通です。
ほとんどAIだけのがらんどうの街。その事がわかると行っても楽しくなくなります。自然その街から足が遠のく訳です。
ただ、私達が行くことが可能な仮想世界でも、AIではない人間が大勢いる場所があります。
何処なのか、ミヤさんにはわかりますよね」
ここまで丁寧に説明されると流石に私でもわかる。
「此処、VRMMOゲームの中」
「正解です。ですので自然、国が運営しているAIばかりの学校や街ではなく、此処に来るようになるんです。
此処には同じような患者ではなく一般の人もいる。AIではない普通の人ともこうやって話が出来る。自分の身分や状況を一切隠した形で友人を作ったりなんて事さえ出来る。
この病気になって一番足りないのはAIではない、自分でもないリアルな他人なんです。たまには他の人と話したい。病気以外の事で普通の会話を楽しみたい。
此処はそういう欲を満たしてくれるんです。
まずここまでが、私や私のような患者がVRMMOゲームに入り浸りになる理由です」
なるほど。
なんとなくわかる気がする。
いや、何となくではなく共感できる。
私が此処にいるのも似たような理由だから。
勿論カリーナちゃんほど深刻な理由じゃない。
でも自分の周囲に絶望して、それでも一人でいられなくて。
だから私は此処へ逃げてきたのだ。
誰とも関わらない、それでも誰かと関われる此処へ。
「ただ私を含めそういった患者のほとんどは、現実というものに対して憧れと屈折した気持ちを持っています。
もう私達が二度と出ることが出来ないという事実から。
現実というものがどんなものかもうわからない、確かめることすら出来ないという事実から。
だから私や
数あるVRMMOゲームの中で一番現実の感覚に近いと言われているから。
一番プレイする人口が多いという理由もありますけれど」
ふと気になったので聞いてみる。
「それがわかるという事は、何か患者同士の横の連絡みたいなものがある訳なの?」
「SNSや掲示板を使っています。国の運営する仮想世界の学校や街じゃない、現実と共通のごく普通のテキストベースのものです。
この辺については一般の人が趣味の話題を探したり書き込んだりするのと同じです」
その辺りは現実と同じという訳か。
いや、それも現実なのか。
現実の定義が微妙に面倒だけれど。
「さて、そういったネットの中では普通の人と同じ事が出来る私達ですが、それでも
あと、どうせ長く生きられないだろうという諦め、人によっては怒りがある場合もあります。
他にはずっとゲームの中にいることで不審がられたりもします。こんな所で遊んでいないで学校に行くべきだと知らない人からいきなり説教されたりなんて事もあります。
結果、現実からVRMMOゲームに来ている一般の人に対しても屈折した感情をもっていたりするんです。
ただミヤさんはそういった事、一切私に言わなかったし聞かなかったですよね」
確かに疑問には思っていた。
でも聞かなかったのは他に理由がある。
「私自身が24時間入りっぱなしだったしね。だからきっとカリーナにもそれなりの理由があるんだろう。そう思ったから」
「そういうところがミヤさんに安心出来るところなんです。往々にして人は自分の事は棚に上げがちですから」
何と言うかカリーナちゃん、こういった部分が年齢不相応というか、諦念にも似た落ち着きを感じてしまうよな。
そう思って、そしてふとある事に気付く。
カリーナちゃん、実年齢以上に年を重ねているのかもしれないという事に。
この
現実の1年この中に居続ければ24年はいる計算だ。
だからカリーナちゃんの心は、私より遙かに長い時間を過ごしていても不思議ではない。
いや、きっとそうだろう。
聞いていいかわからないから確かめられないけれど。
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