第41話 SWAT風の制圧訓練?

 左側の入口から入る。

 内部は最初の門とほぼ同じ、ただ広いだけの何もない空間。

 ただし窓が少なくやや暗い感じだ。


「ここはいてもゴーストやスケルトン程度です。ここまでミヤさんに魔物退治をやって貰ったので、ここからしばらくは私がメインで倒します。

 こうやって普通に話すだけで狭いですから魔物が声に反応して寄ってきます。ですのでこうやって」


 今回はスケルトンとゴーストの混合だ。

 見える範囲ではゴースト1体、スケルトン3体。

 カリーナちゃんはゴーストに対して左肩左手を前にして構える。


「まずは一般的な拳技です」


 カリーナちゃんは右パンチ、いや右手を握らず開いて揃えた形で連続して突き出した。

 計5回、指先で突くような動作で拳技を発動。

 ゴースト起動前の魔法1発を相殺するとともに、ゴーストとスケルトンを全滅させる。


「これは連弾手刀レボ・フィストです。指先から魔素マナの力で空気の弾を飛ばす技となります」


 気になったので聞いてみた。


「パンチじゃないんだね」


こぶしではなく手刀です。手は握らない方が早く動かせます。だから拳技でも連射速度が必要なものは握った拳ではなく手刀や掌底など、開いた状態の手を使います。

 あと拳技系統は一般に剣技より技の有効範囲が狭いです。その欠点を補う為にも連射技をよく使います」


 刀の代わりに手を使う訳か。

 私でも出来るだろうか。


 しかし武器無しというのは何となく頼りないというか怖い。

 それにカリーナちゃんの場合は対魔効果があるシルバーナックルをつけている。

 だからスケルトンやゴーストを倒せるのだろう。

 私の素手にはそんな便利な効果は無い。


 やはり私は剣や斧を使った方がいいだろう。

 それで攻撃を今のように連射するなら、斬るよりもっと身体の動きが少なくより早く繰り返せる動作が必要。

 ならやはり突きだろうか。


 突きは槍技で閃空突なんてのを使えるけれど、これは連射向きではなく一撃必殺っぽい技だ。

 連射系の突き技が無いか聞いてみよう。


「刀や斧の突きでも今の拳技と似たような連射が出来る?」


「ええ。名前は忘れましたけれど、カレンが良く使っていました。ミヤさんなら少しだけ練習すれば使えるようになると思います」


 なら後で調べて練習しておこう。

 ゴーストやスケルトンがいた場所を通過し右側へ曲がると出入口が見える。

 その先はまた屋外だ。


 ただしこちらは広くはない。

 両側に石壁がある幅3m位の通路。

 下も同じ素材の石畳だ。 


「敵が侵入してきた時に迎撃しやすいようにかな。この構造は」


「そんな感じです。設定では魔法が使われるようになる前の遺跡という事ですけれど、壁に開いている穴から矢を射ったりしたのでしょうか」


 スケルトンが2体いたけれど、カリーナちゃんがささっと先程と同じ技で片付けた。

 

 通路の先に時計と鐘がついた塔がある建物が見える。

 今までと同じような出入口でその建物の中へ入っていくようだ。


「あの建物の地下1階がレイスが出る地下牢です。

 レイスはゴーストと違って魔法を幾つも撃ってきます。ですので避けながら一気に接近して倒すか、遠距離攻撃を相手の魔法より数多く撃って手数で圧倒するかのどちらかです。

 カレンの場合は魔法防御付の盾を掲げて突進するなんて技を使っていましたけれど」


 確かにカレンさんにはそんな力押しの戦術が似合いそうだ。

 でもそんな盾の持ち合わせはないし、私達は女子中学生、女子小学生、わんこの3人組。

 だからここは御提案通りに行こう。


「相手の魔法は剣技や拳技で相殺出来るんだよね。今やったように」


「ええ、発動する前なら。レイスが放つうち寒冷系魔法は対象前1mで、精神系魔法は対象に接触した時点で発動します。ですからそれ以前に技を当てて相殺する必要があります」


 接近する前に当てなければ相殺出来ない訳か。

 

「あとレイスが出てくる場所では大抵ゴーストも一緒に出てきます。概ねレイス1体にゴースト3体という感じでしょうか。

 今回は私が全部やりますので、後ろでどんな感じなのか見ていて下さい」


「わかった」


 建物の中へ。

 今までと違い中は一気に暗くなる。


灯火ライト


 カリーナちゃんが魔法を起動。

 ここも広いだけのただの室内空間だ。

 先にぽっかり空いた出入口が見える。

 その先は暗くて見えない。


 ゴーストの接近音がした。

 ささっとカリーナちゃんが拳技で倒す。

 いちいち構えなくても5発くらいは放てるようだ。


 出入口の先はまっすぐ続く暗い廊下、そして左側に上下へ続く階段。

 カリーナちゃんはその階段を下りる。

 踊り場まで15段、そこから更に15段で一番下らしい場所に出た。

 左に大きな扉があるだけで、他には何も無い。


「左の扉を開けると地下牢です。すぐ向こう側に魔物がいると危険なので、アンデット・死霊系魔物忌避剤エラービを使います。

 扉の隙間に2滴程度垂らして下さい。これで10秒くらい待てば魔物も此処から5m以上離れる筈です」


 忌避剤エラービにはそんな使い方もある訳か。

 なるほどなと思いながらカリーナちゃんが言う通り、扉の隙間に2滴ほど薬剤をつける。


「これでいい?」


「はい。それでもうひとつ御願いしていいですか。私が御願いしたらこの扉を開けて欲しいんです。そうして貰えれば私が攻撃をし易いですから」


 なるほど、扉を開ける役と突入役を別にする訳か。

 どこぞの特殊部隊の制圧訓練みたいだ。


「わかった。扉を開けるだけでいい?」


「ええ。一気に全開にして下さい。開けたら私の様子を見て、中へ入る場合は私の動きが見える位置に動いて下さい」

  

 突入訓練では扉を開ける役、開けた後は敵攻撃を避けるために横の壁に貼り付くんだよな、確か。

 しかし今回は忌避剤エラービで敵が近くにいないのは確定。

 それにいきなり銃撃という事は……


 しかし攻撃魔法が襲ってくるという事はありうる。

 それをやり過ごしてから入るのだろうか。

 それともいきなり入って拳技で相殺しまくるのだろうか。


 いずれにせよ今回は見学。

 レイス相手のノウハウを観察させて貰うとしよう。


 カリーナちゃんは扉の蝶番側と反対方向の壁に位置どる。


「それでは御願いします」


 私は扉のノブに手をかけ、思い切り開いた。

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