第40話 薬草採取、2箇所目

 左右の廊下とも奥行きは30mくらい。

 その両方あわせて合計5体のゴーストを倒した。


「ミヤさん、もうゴーストは大丈夫ですね」


 カリーナちゃんの言葉に私は頷く。


「1体ずつなら多分」


 5回の戦闘のうち、1回だけゴーストが魔法を撃ってきた。

 しかしその魔法は何とかエア・スラッシュで相殺。

 二度目のエア・スラッシュで無事そのゴーストも倒せた。

 だからまあ、1体ずつなら大丈夫と言ってもいいのだろう。


「なら次はレイスです。ただレイスは強いので今回は私が戦います。ですから後ろで様子を見ていて下さい」


 レイス!?

 確か以前にカレンさんが言っていたなと思い出す。

『弱いレイスでも普通に攻撃魔法を使ってくるから近寄らない方が無難よぉ』


 さっきのゴーストの魔法は単発だったし、剣技の連射で消せる程度だった。

 レイスの場合は違うのだろうか。

 ただカリーナちゃんが戦うのなら心配はいらないだろう。

 ここ旧要塞も既に一度制覇済みと聞いているし。


「わかった。御願い」


「それではレイスが出る地下牢を目指します」


 この建物に入ったのと反対側の出入口から外へ。

 前にある幅の広い階段を上るとそこそこ広い場所へ出た。

 平らに整地された小学校の運動場くらいの広場だ。


 その先正面中央に小山のような盛り上がった高い建物。

 その建物と繋がった城の土台のようなものが左に伸びていて、左斜め45度くらいの場所に今まで通ったのと同じトンネルっぽい出入口。

 右側はテラスのようになっていて、その先に海とケルキラ市街地が見えた。


「目的地は左の入口の先ですけれど、ここにも薬草が結構生えています。ですので採取してからいきましょう。

 出るのはスケルトン程度ですので問題ありません。ただ此処の場合、呼び寄せると面倒な数が出てくる事があります。ですから出会ったら倒す、という方針で行った方がいいです」


 なるほど、スケルトン程度か。

 実はこの広場に出た時からラッキー君が何度も私の方を振り返って見るそぶりをしている。

 何が言いたいのかは想像つく。

 だから私はカリーナちゃんに聞いてみた。


「ならこの広場内はラッキー君が自由に走って大丈夫?」


「大丈夫です。スケルトン程度ならラッキーちゃんに危険は無いでしょうから」


 よし、それならば。


「ラッキー、いいよ。見える範囲までね」


 ラッキー君は私の指示を聞いて、『いいの?』とこっちを見る。

 私が頷いたのを確認して、そして一気にだーっと走り出した。


 そう、ラッキー君は走り回りたくてうずうずしていたのだ。

 何せ犬の中でも必要運動量が無茶苦茶多めのボーダーコリー系雑種(多分)。

 街や建物内では大人しくしているけれど、本来は走るのが大好き。

 ちょうどいい広場があったので、『入りたいんだけど』と私にアイコンタクトでアピールしていた訳だ。


「ラッキーちゃん、楽しそうですね」


 カリーナちゃんの言う通り、表情がとにかく嬉しそう。


「それじゃ私は左側メインで薬草を探すね」


「わかりました。私は右側を中心に見ていきます」


 まずはあの草っぽいところに近づいてみよう。


『魔魂草を発見しました。採取しますか?』


 お約束の表示が出た。

 採取開始だ。


 ◇◇◇


 魔魂草の他に治覚草も生えていたので採取。

 両方あわせて10kg採取して、そしてカリーナちゃんと合流した。


「ここも結構薬草があるんだね」


「あまり冒険者が来ないですから。褒賞金稼ぎで戦うのなら新要塞の方が街から近いですし魔物も多いです。あっちはゾンビやグールが中心なので、私はあまり行きたくないですけれど」


 ゾンビやグールか。


「臭いがきついし、何か汚い汁とか飛びそうだよね」


「ええ。ただスケルトンより肉体が残っている分、物理攻撃が通りやすいんです。だから普通の武器でもそこそこ戦えます。そしてスケルトンとゾンビの褒賞金額は同じです」


 なるほど。


「近くて攻撃が通って褒賞金が同じ、だったら新要塞の方がいい訳なんだ」


「でも新要塞は大きな建物がメインで戦闘もほぼ建物内です。だから薬草が採取出来ないんです。

 あと私の場合、やっぱりあの臭いと見た目がどうにも好きになれません」


 確かにあれ、私も好きじゃない。

 あとラッキー君もゾンビは嫌いな感じだ。

 ヴィード島でもゾンビが出ると逃げていた様な気がするし。


「なら私もこっちの方がいいですね」


「対魔属性ありの武器を持っていたり薬剤を自分で作れたりする場合はこっちの方がいいと思います。ただ普通の冒険者は、どうしてもメジャーな新要塞の方へ行くみたいです。あっちの方が情報も多いですし、何と言っても街の中心から近いですから」


 なるほど。

 この旧要塞に人が少ない理由が良くわかった。

 さて、それでは薬草も採れた事だし、行くとしようか。


「ラッキー、そろそろ行くよ」


 ラッキー君、だーっと向こうから走ってやってくる。

 これがまた可愛いのだ。

 勢い余って私の周囲を2周して、そしてお座り。

 ちゃんと帰ってきたからご褒美下さいねと言う顔をする。


 仕方ないな。

 可愛いし、確かにさっきまでいい子だったし。

 ただし今、カリーナちゃんが何かしたそうな顔をしている。

 だからここは……


「カリーナ、ラッキーにご褒美を御願いしていい?」


 カリーナちゃんもラッキー君のおやつをアイテムボックスに入れている。

 だからここは御願いしよう。


「いいですか?」


「細切れ5個くらいまでね」


「わかりました」


 ラッキー君、どうやら私達の会話を理解したようだ。

 カリーナちゃんの方へと向き直り、びしっと『お利口なお座り』ポーズになる。

 現金な奴だ、まったく。

 そこもまあ可愛いのだけれど。

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