第31話 ケルキラへの帰り道

 その後カリーナちゃんは一通り必要なものをアイテムボックスに収納。

 私のとよく似たフード付きコートを羽織って、ショートカットの運動靴っぽい靴に履き替えて出発。


 なおカリーナちゃんのコートはかなり大きめ。

 着ていると顔がよく見えないし下もくるぶし近くまで隠れている。

 折角可愛いのに勿体ないと思うけれど、人見知りだからあえてそうしているのかもしれない。

 だからコメントはしないでおく。


 まずはモライティカの街の錬金術ギルドに行って、カリーナちゃんがしばらくケルキラへ出かける事を連絡。

 その後2人と1匹でケルキラまで走って帰る。


「ミヤさんやラッキーちゃんが良ければですけれど、ゴーレム馬車を使うより、走って行く方が楽です。馬車は狭い場所に大勢の人が入っているので、あまり乗りたくないですから」


 そうカリーナちゃんが言ったし、私もラッキーもそれくらいの距離は全然平気だと行きでわかっていたから。


 ただストレートには帰らなかった。


「ついでですから、森の奥でしか採れない貴重な薬草を少し採取して行きませんか」


 帰る途中、走りながらカリーナちゃんが提案したからだ。


「やってみたいけれど、私は初心者だからあまり強い魔物や魔獣は無理だよ」


「ミヤさんとラッキーちゃんのレベルは今、幾つですか?」


 ええと……

 走りながらパスポートを出して確認。

 なお従魔ペット扱いのラッキー君のステータスも私のパスポートに記載されている。


「私は23、ラッキーは21だけれど」


「20以上あればスケリア島中部の森に昼間出る魔物や魔獣は問題無い筈です。武器は何を使っていますか」


「最初に渡された短剣と、カレンさんに貰った狂戦士バーサーカー戦斧バトルアックス


「だったら全然問題無いです。夜間とか迷宮ダンジョン内でもないかぎり、この辺なら問題ありません。

 それにこれでも私、レベル60越えの格闘家なんです。スケリア島のほとんどの場所や迷宮ダンジョンはクリアしています」


 そう言えばカレンさんが言っていたなと思い出す。


「カレンさんと一緒のパーティにいたんだっけ」


「ええ。元々は大きい攻略専門パーティにいたんですけれど、だんだんとそこの方針があわなくなって。だからカレンと私、あと剣士のコルサの3人でパーティを組んでいたんです」


 剣士と格闘家、そしてカレンさんか。


「物理的な戦闘専門ばかりだね」


「だから錬金術を勉強したんです。魔法が得意でなくても錬金術で代わりになるアイテムを作れますから。

 まさかカレンも同じ事を考えるとは思いませんでしたけれど」


 ふと思う。

 何故カリーナちゃんとカレンさんはパーティを解散したのだろうと。

 ただその事について、今は聞かない方がいいような気がした。

 今までの話から何かありそうな感じがしたから。


「なら御願い。まだ私、錬金術の初心者講習程度の事しか知らないから」


「わかりました。それでは今日はコルナタの森を少し歩きましょうか。あそこは中級程度の薬草がそこそこ生えていますから。

 あと3km、12分くらい走ったら右に入ります」


「わかった。ありがとう」


 この位の速さなら走りながらでも余裕で会話は出来る。

 もちろんラッキー君も全然問題はない。

 というか、私以上に元気に走っている。


 時々道ばたにスライムが出てくる。


「道に出てきている弱い魔物は御願いしていいですか。走りながら出せるちょうどいい技がないんです」


「わかった」


 そんな訳で私が1匹、ラッキー君が2匹倒した後。

『コルナタの森 ケルキラまであと14km』と書かれた看板のところでカリーナちゃんは立ち止まった。


「この看板からコルナタの森に入ります。出る魔物は魔鹿やゴブリンですけれど、たまに魔熊なんてのも出るので注意して下さい。

 ミヤさんの実力があれば、魔熊もそう怖い魔獣ではない筈ですけれど」


「わかった」


 そう返事こそしたけれど、実のところその辺りがどれくらいの強さなのかはわかっていない。

 でもまあ、カリーナちゃんを信用していいだろう。

 そんな意味での『わかった』だ。


 森そのものはいつも行っているコソンキョーリの森とそう変わらないと感じる。

 植物相も多分同じ。

 まあ走って移動出来る範囲だから当たり前か。


 獣道っぽい踏み跡を注意しながら歩いて行く。

 見えない部分を知るのに一番頼りになるのは音。

 このゲームはレーダーみたいな魔法は無いらしい。

 少なくとも私は習得していない。


 だから少しでも変わった音が聞こえないか、注意しながら歩いて行く。

 なおラッキー君は私と違う感覚があるようだ。

 特にスライム辺りは私が気付くより先に発見して、勝手に倒したりする。


 ゆっくりゆっくり歩いて行って、そして。


「ストップ!」


 カリーナちゃんの言葉で私とラッキー君は立ち止まった。


「この木、これも薬草の一種です。鎮魔樹と言ってゾンビやグール系の魔物に対する攻撃薬を作ったり、アンデッド化を抑える薬を作ったりする事が出来ます。


 採取部位は葉っぱで、若い葉より成長して固くなった濃い緑の葉を選んで採ります。この程度の樹木ですとだいたい1本で2kgくらいは採っても大丈夫です。


 葉っぱの形と枝の付き方、幹の模様、あとは葉を採ったときのこの香りが見分けるポイントです」


 料理に使うローレルのような香りだ。

 葉っぱの形もそっくり。

 樹皮は灰色っぽくて、所々横方向に筋がある感じか。


『鎮魔樹を覚えました。以降この薬草を判別する事が可能です。またこの薬草が5m以内に生えていて、かつ視野に入っている場合、採取をする事が出来ます』


 よし、覚えたぞ。


「覚えたけれど、採取していい?」


「御願いします。私は荷物を持っているのであまり入りません」


「わかった」


 カリーナちゃんは私の家で使うベッドやテーブル、ラグや錬金釜なんてものをアイテムボックスに入れている。

 私以上に小柄だし、レベルが上でもそこまでアイテムボックス容量に余裕はない筈だ。


 だから鎮魔樹は私が採取させて貰う。

 3.1kg採取、これは幾らになるだろう。

 いや、新しい薬品や道具を作るのに使うかもしれないのか。

 そんな事を考えつつ、次の獲物を探して再び踏み跡を歩き出す。

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