第30話 そしてもう1人
「いえ、ごく健康体で、家からアクセスしていますけれど」
「没入型の筐体を使っていますよね。動作の分解能の違いでわかります。そんな筐体を使っているのって、重症で没入治療槽に浸かっている患者くらいしか……
あ、でも本当みたいですね。すみません、妙な事を言って」
カリーナさん、何故か納得してしまったようだ。
分解能とか言っているのはきっと私が使っているDGJ-2411B12の関係だろう。
でもその後、本当みたいだと判断した理由がわからない。
「確かにDGJ-2411B12という没入型の接続装置を使っていますけれど」
「そうですね。病院で治療用に使っている装置とは分解能のクロックが違うようです。どうもすみませんでした」
「いえ、それはいいですけれど」
何で病院の患者か聞いたのだろう。
単に興味で聞いたのとは少し違う感じがした。
ただそこを聞いていいのかはわからない。
だから話の接ぎ穂として聞くのは、もう少し当たり障りのない事についてだ。
「そういった分解能の違いってわかるものなんですか?」
「測定用の魔法があるんです。この世界で対人イベントをする時など、筐体のせいで反応速度が違いすぎたら勝負になりませんよね。
だから簡単な魔法で測定できるようになっているんです。ただ相手にある程度会話をして貰ったり、動いて貰ったりしないと正確な値がでないから、さっきは間違えてしまったんですけれど。
あと私相手に敬語は使わなくていいです。見た目はこの通り私の方が年下ですし、きっと中身も私の方が下だと思いますから」
なるほど、そういう魔法があるのか。
でもそれならばだ。
「筐体の違いでそんなに変わるんですか?」
「敬語は使わなくていいです。あと全然違います」
そうなのか。
私が理解していないと気付いたのか、カリーナちゃんは説明を追加する。
「確かに分解能が10倍でも動ける速度そのものは変わらないです。でも判断して行動する機会の数が全然違います。
一番わかりやすいのが入国審査でやるダーツです。ミヤさんはきっと狙いたい所を狙えただろうと思います。
でも普通はそんな事出来ないんです。このゲームが想定している分解能は60分の1程度。
ゲーマー用の高性能HUDならその2倍細かく狙えます。そしてミヤさんの分解能は1,200分の1。ですから、更に10倍細かく狙える訳です」
言われてみれば心当たりが山ほどある。
ステータスが脳筋になったり、ノロイグアナを見つけやすかったり。
きっとその辺全てはこの分解能のおかげだろう。
「確かにそうですね。気付いていませんでした」
「だから敬語は使わなくていいです。私の場合は単なる習慣ですから。
さて、それでは本題です。カレンからの手紙だと、錬金術を少し教えてやってくれとありますけれど、どうしますか?
この家は見たとおり1部屋しかありません。ですからミヤさんが此処へ通うか、私がそっちに行くしかないです」
確かにこの小屋はワンルーム的な感じだ。
ここへもう1人住むとなると、プライバシー的な問題が出てくるだろう。
人見知りと言っていたから、それは避けたいだろうと思う。
そしてうちには1部屋、空いている寝室がある。
当然カレンさんはその事を知っている。
何せ一緒に家を見に行ったのだから。
うん、明らかにカレンさんの意図というか思惑を感じる。
何故そうしたのか、今の段階で推測するには情報が足りないけれど。
ただカレンさんは信用していい気がする。
根拠は無い、ただの勘だけれど。
ならその思惑にのってやるのも悪くは無い。
どうせこの世界はゲームだし、やらなければならない事もない。
ラッキー君と2人だけの生活は快適だけれど、少し変化があってもいいだろう。
だから私はこう口に出す。
「ケルキラの私の家で良ければ、1部屋寝室が余っているけれど、そこに来て貰うというのは駄目?」
カリーナちゃんは私の目を覗き込むようにして見る。
「いいですけれど、そこまで私を信用して大丈夫ですか?」
今回はちょうどいい言い訳がある。
「カリーナと私はこれが初対面。だからすぐに信じるなんていってもただの盲信かもしれない。
でもこの手紙を書いたカレンさんは信用していいと思っているし、カレンさんがこうなる事を予期していないとは思えない。
だから大丈夫だろうと判断出来る。そういう返事じゃ駄目?」
カリーナちゃんは頷いた。
「カレンを信用できる人なら、信用していいかなと思います」
なかなか上手い返答だなと感じる。
私の予想ではカリーナちゃん、見た目とほぼ同じくらいの年齢だろうと思っている。
具体的に言うと小学校6年生程度。
ただし知識や思考力が下手な大人より上の大人びた子供。
言葉使いとか態度からそう感じる。
ただ普通の子供では無いだろう。
そもそも普通の子供なら学校がある筈だ。
24時間ゲーム内にいるなんて無理。
となると『病院の患者さん』というのはおそらく彼女自身。
ただ今は聞いたりしない方がいい。
もう少し関係を詰めてからの方が安全だと感じる。
何か地雷がありそうな雰囲気もするし。
「それでは出かける用意をしますけれど、ベッドや錬金釜は持って行った方がいいですか?」
とりあえずは現実でどうこうという話はしないようにしよう。
そう思いつつ、私はカリーナちゃんに返答する。
「御願い。部屋はあるけれど家具類は自分用の最低限しかないから。錬金釜もまだ買っていないし」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます