第29話 カリーナちゃんの不明な質問
ラッキー君をひととおりなでなでもふもふしまくった後。
いいかげん腕が疲れてきたので椅子に座り直して一息ついた時だった。
トントントン。
ノックのような音がした。
玄関扉ではなくカウンターの奥の扉からだ。
「そこにいるの、誰? セラじゃないの?」
先程看板から聞こえた声と違う、女性の声だ。
それも大人の女の人ではなく女の子という感じの声。
きっと私に対して言っているのだろう。
他にはラッキー君しかいないし。
だから返答することにする
「ケルキラの街から来たミヤと申します。錬金術ギルドのカレンさんから依頼されて、手紙を届けに来ました」
この声、先程応対してくれたのとは明らかに別の人だ。
なら2人かそれ以上で此処にいるのだろうか。
そして意思の疎通がうまくいっていないのだろうか。
そんな事を考えつつ、返答する。
「そっちって、あなた1人だけ?」
「あとは私と一緒に来た魔犬のラッキーだけです」
「わかりました。今参ります」
カウンターの向こう側の扉がゆっくり開き、女の子が顔をのぞかせた。
外見中学生の私より更に年下に見える感じの女の子だ。
どう見ても獣の耳っぽいのが焦げ茶色のショートヘアの上からのぞいている。
白い半袖Tシャツに紺色の腿くらいまでのショートパンツ姿がどことなく小学校の体操服っぽい。
「カレンからの手紙を、カウンターの上に置いて下さい」
何故だろう。
そう思いつつ言われたとおりにする。
「置いたらまた椅子に戻って下さい」
警戒されているのだろうか。
そう思って、そして思い出す。
カレンさんはここの主、カリーナさんを人見知りだと言っていたなと。
ならこの子がカリーナさんだ、きっと。
私が手紙を置いて椅子の所まで戻ったのを確認し、やっと彼女は扉の影から全身を見せる。
せいぜい小学校高学年くらいにしか見えない女の子だ。
カリーナさんと言うよりカリーナちゃんかな。
彼女は手紙を手に取るとさっと扉の影に戻って、でも扉を閉めずその位置のままで手紙を開封。
さっと読んだ後、頷いて手紙をアイテムボックスに収納する。
カチッ、こちら側の扉から音がした。
「鍵をあけました。そちらのドアが開きますから入ってきてください」
どうやら鍵がかかっていたようだ。
なら行こうか。
私は立ち上がって、そして扉を開ける。
靴を脱ぐ場所があって、スリッパも置いてある。
その先は広いワンルームっぽい感じの室内。
中央にラグが敷いてあって、その上に楕円形の白い座卓が置かれている。
奥に勉強机とベッドも見えた。
リビングというより子供部屋に近い雰囲気だな。
そんな事を思う。
さて、此処は私の家では無いし、靴を脱ぐ場所がある。
ラッキーと一緒に入っていいのだろうか。
わからない事は聞いてみよう。
「すみません。犬は外で待たせておいた方がいいですか」
「一人で外へ置いておくのは可哀想だし、一緒に入って下さい。あとミヤさんはそのスリッパを使って下さい」
「わかりました」
一応ラッキー君と私自身に清浄魔法をかけてから、言われた通りスリッパを履いて中へ。
カリーナちゃんと思われる女の子は部屋中央の座卓でお茶セットを準備している。
ポット、カップ&ソーサー、お皿に入ったスコーン3個という組み合わせ。
食器はどれもウエッジウッドのワイルドストロベリーにそっくりな柄で可愛い。
いや、案外あの食器、本物かも。
結構な数のブランドがゲーム内でも公式商品を提供していると聞いているし。
「改めて初めまして。カリーナといいます。ここで
ところでそのわんちゃん、何て名前なんですか? あとスコーンを食べても大丈夫ですか?」
私は何度も名乗ったからわかっている、という事なのだろう。
「ラッキーって名前です。魔犬だから人間が食べられるものなら大丈夫だと思います」
「ならラッキーちゃんもスコーンをどうぞ。私は初対面だから、ミヤさんから御願いします」
やはり私の名前、先程の挨拶でおぼえてくれたようだ。
そしてラッキーに対するカリーナちゃんの対応、なかなか正しい。
飼い犬なんかだと勝手にさわったりしてた結果、犬に怖がられたり、そのせいで犬の歯が当たって怪我したりしてなんて事があったりする。
此処はゲームだからそこまで考えなくてもいいのかもしれないけれど。
「ありがとうございます。なら、私達が食べ終わってからやります。すぐ食べてしまいますから」
えっ、早くちょうだいよ!
ラッキー君は目線と表情で訴える。
でもどうせ一瞬で食べ終わってしまうのだ。
そして食べ終わったらすぐ『もっとちょうだい』と訴えるだろう。
だったら人が食べた後の方がいい。
「それではミヤさんもどうぞ」
「いただきます」
この後どういう話になるんだろう。
それにカリーナちゃん、言葉使いや雰囲気が外見年齢相応という感じがする。
ただ子供扱いはしない方がいい。
まだ正体はわからないし。
それに本当に小学校高学年ならいい加減寝る時間だ。
外の時間では深夜2時を回っている。
そう言えばカレンさん、こう言っていた。
『あの子の場合はいつ行っても問題ないわ。あ、もちろんNPCじゃなくてプレイヤーよ。その辺はちょっと特殊事情があってね。ただそれについてはあの子に直接聞かないでね』
ならきっと今は極力気にしないのが正解だろう。
そう思いつつスコーンをいただく。
うん、サクサクして悪くない。
ナッツが少し入っているのもいい感じ。
「美味しいですね。これ、自作ですか?」
「セラ、あ、お世話になっている錬金術ギルドの人に買ってきてもらったものです。週に1回、
ところでカレンさんは元気ですか?」
「ええ。ただ自分では来る事が出来ないからという事で、代わりに私が手紙を持ってきたんですけれど」
「ミヤさんはカレンさんとどういう知り合いなんですか?」
「錬金術師らしい事をしようと思って、ケルキラの錬金術ギルドへ行った時、知り合ったんです。初心者講習やスケルトンを倒してお金を儲ける方法を教わったりしてお世話になっています。
ところで看板のところで応答してくれた方はどなたなんですか。見たところいないように感じるのですけれど」
この家は風呂やトイレ、さっきのカウンター部分を除くとワンフロアという感じだ。
だのに此処にはカリーナちゃんしか見当たらない。
「あ、あれは自動応答魔法です。いつもは魔法で応答した後、どんな人が来たのかをを魔法で確認するんです。でも今日はちょうど調合中だったし、そろそろセラ、モライティカの街の錬金術ギルドの人が来る頃だからきっとそうだろうと思って……」
それでああいう反応になった訳かと思う。
さて、この辺の会話は単なる時間つぶしなのだろうか。
それとも何かの意図があるのだろうか。
カレンさんは何を考えて此処へ私を寄こしたのか。
そんな事を思いつつ、紅茶を一口いただく。
あ、美味しい。
しっかりいい紅茶の味がする。
私は詳しくないからこれが何なのか、種類はわからないけれど。
「この紅茶も美味しいです」
「これもセラに買ってきて貰ったものです。
ところでミヤさん、答えたくなければ答えなくていいですけれど、ひょっとして何処かの病院の患者さんですか?」
えっ? 予想外の質問だ。
何で病院の患者かなんて聞くのだろう。
何故そう思ったのだろう。
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