第28話 目的地、無事到着?
休憩から再度走り始めて50分程。
『モライティカの街まであと5km』
そう書かれた看板が道の右側に立っていた。
私は看板の前で停止して、ラッキー君に話しかける。
「カレンさんのメモにあったのはこの看板だよね、きっと」
ラッキー君は『?』という顔をする。
当たり前か。
ラッキー君はカレンさんからのメモを読んでいないし読めないから。
『看板を見つけたら近くに薬草が生えていないか調べてみて。行き方は毎回変わるけれど、薬草を見つけられれば何とかなる筈だから』
メモのこの部分を頼りに道路脇をゆっくり歩いて周囲を見てみる。
看板のすぐ脇でお馴染みのメッセージが出た。
『治害草を発見しました。採取しますか?』
治害草は海辺に生える事が多い薬草だ。
こんな森の中に生えているなんてどう考えてもおかしい。
つまりこの治害草、目的地への目印なのだろう。
よく見てみると治害草の方へ向かう細い獣道風の踏み跡がある。
注意しながら踏み跡を辿る。
治害草の生えている場所に到着。
よく見ると此処、地面の土が砂地だ。
きっと治害草が生えるように土を入れ替えたのだろう。
治害草の目の前まで行って周囲を見回す。
『魔療草を発見しました。採取しますか?』
よく見ると案の定、そちらへ行く踏み跡がある。
この方式で進めばいいんだな。
そう判断して、ラッキー君と一緒に魔療草の方へ続く踏み跡へ……
◇◇◇
薬草から次の薬草へ。
これを10回繰り返した。
なお途中1回だけスライムが出てきたけれど、私が気付く前にラッキー君が襲いかかって倒してしまった。
この辺はいつもの討伐・採取の時と同じだ。
さて、10回目の場所は少しだけ様相が違った。
薬草近くに1平方mくらいの石畳の場所がある。
そしてその石畳にはどう見ても魔法陣っぽい図形が刻まれていた。
「これは魔法陣の上に乗れという事なのかな?」
いつも通りラッキー君は『?』という顔で私を見上げる。
そうだよな、ラッキー君がわかる訳はないよな。
魔法陣の上に乗る前に、周囲に薬草が無いか探してみよう。
周囲をぐるっと歩いて調べてみる。
辿ってきた薬草以外の反応はない。
どうやら魔法陣にのるしかないようだ。
「ラッキー君、それじゃ一緒に魔法陣の上に乗るよ。ついてきて」
今度はわかったという顔をした。
たぶん『ついてきて』部分しか理解していないと思う。
でもそれで問題は無い。
ラッキー君と一緒に魔法陣の上に乗る。
ふっと周囲の景色が歪んで消えた。
足下の感触がなくなる。
ラッキー君が大丈夫か見ようとした時、浮遊感が消えた。
周囲に景色が戻る。
ラッキー君は私の足下にいた。
『?』という表情で小首を傾げている。
特に問題は無いようだ。
周囲を見回す。
いかにもというログハウスが目の前にあった。
他に見えるのは森の木々だけだ。
とりあえず表札みたいな物はないだろうか。
見たら小さな看板っぽいものが玄関扉のすぐ前に立っていた。
『カリーナの
扉では無く看板をノックするようだ。
何かこれも魔法的な仕組みがあるのだろうか。
そう思いつつ、とりあえず書いてある通りに看板をノックして呼びかけてみる。
「失礼します。ケルキラの街から来たミヤと申します。錬金術ギルド
「どうぞお入り下さい」
驚いた!
看板からいきなり男性の声がしたのだ。
この声はカリーナさんの声なのだろうか。
私はカリーナという名前だから女の子だと思っていたのだけれど。
でもよく考えたらカレンさん、女の子とは一言も言っていない。
あの子と言ってはいたけれど、カレンさんなら中年男性だってそう呼びかねないし。
人見知りするなんてのも女子の特権では無いし、格闘家なんて言ったらむしろ男性の職業だろう。
女の子1人で面識の無い男性の家に入っていいのだろうか。
でも此処はゲームの世界だ。
特に問題はないだろう。
それにラッキー君もいることだし。
そう判断して、玄関扉の前へ。
一応ノックしたけれど反応は無い。
でも向こうが『どうぞお入り下さい』と言っていたのだからいいだろう。
そう判断して扉を開け、中へ。
入ってすぐの場所は思ったより狭い。
イメージとしては小さい歯医者の待合室。
入って右側に受付カウンター、左側に順番待ち用っぽい3人掛けの長椅子があって、正面に扉があるという形。
なお受付カウンターの奥にも扉が見える。
ここは何かの受付だろうか。
それとも薬草の販売の為こういう造りなのだろうか。
そう言えば小さい調剤薬局のようだなとも感じる。
薬草を卸していると聞いているから、それに適した作りにしているのかもしれない。
カウンターにはこんな札が置いてあった。
『現在、
やっぱり個人でやっている小さい調剤薬局っぽいなと思う。
ならここで待たせて貰おう。
人見知りをすると言っていたし、控えめに動いた方がいい。
私はカウンター前にあった椅子に座る。
「ラッキー、ちょうどいいから一休みしようか」
ラッキー君、頷いて私の真ん前でお座りした。
ただし真ん前と言うにも近すぎるくらいに近い場所に。
更にラッキー君、私の膝に頭を乗っけて微妙に期待するような表情でこっちに圧をかける。
何を主張しているのかは明白だ。
いっぱい歩いたし休憩なのだから何か食べ物を寄こせ。
そう言っているのだろう。
しかしいっぱい歩いたのは確かだ。
だからまあ、今日はOKにしてやろう。
私は食器とスブラキを出す。
はあはあはあ。
思い切り顔を近づけてくるラッキー君。
「ラッキー、お座り!」
ラッキー君はびしっとお座りする。
うん、こういうところ、ちゃんとわかっている。
よしよし。
串を外した肉を食器に入れて、ラッキー君の前へ。
「はい、どうぞ」
例によって一瞬で食べ終わる。
勿体ない気がするけれど、ラッキー君が喜ぶし可愛いから仕方ない。
頭をなでなでしてやると『もっとくれるの?』という顔をしてこっちを見た。
「だーめ。まだ御飯の時間じゃ無いでしょ」
ブシュ!
抗議の鼻息を出してラッキー君、伏せる姿勢をとった。
なお抗議はしているが頭を私の靴に乗っかっている。
この辺の甘え具合が可愛いんだよな。
そう思いつつ大きい頭をなでなでしてやる。
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