第25話 新居1日目の終わり
2人と1匹でそのまま商業ギルドへ。
先程の担当さんに魔法鍵を返して、部屋を正式に借りたい旨を告げる。
「ありがとうございます。今日は25日なので今月分の家賃はサービスです。来月以降は月末までに翌月の家賃を商業ギルドへ支払いに来てください。口座引き落としにする事も出来ます」
「何なら
なら口座引き落としの方が楽でいい。
「口座はすぐ作れますか」
「はい、書類を出していただければすぐに作成致します」
そんな感じで家の契約書類と口座作成の書類をオートコンプリートで作成。
口座に手持ち金額のうち2万
通帳と制限無しで使用出来る魔法鍵、貸家の契約書と注意事項一覧表を受け取って契約終了。
なおラッキー君はずっと足元でいい子にしていた。
本当に賢くて可愛い。
「契約ありがとうございました」
担当さんに見送られて商業ギルドを出る。
「それで今日、ミヤちゃん達はどうするの? その気になれば今日からあの家にラッキーちゃんと住めるでしょ?
もしそうするなら錬金術ギルドの部屋は今日までという事にしておくけれどぉ?」
「いいんですか?」
私物は全部アイテムボックスで持ち歩いている。
だから部屋には何も残っていない。
なおかつ今朝出る前に片付けて清浄魔法をかけてある。
だからそのまま引き渡し出来る状態ではあるのだ。
でももう夕方。
今から借りませんというのは、宿屋なら通用しないだろう。
「勿論よぉ。商売で貸している部屋じゃないしね♡」
ならお言葉に甘えてしまおう。
こっちの家の方が広くてラッキー君にもいいだろうし。
「ありがとうございます。それでは御願いします」
「わかったわ。それじゃ住む場所が変わっても錬金術ギルドを宜しくね。特に旧要塞の魔魂草、定期的に出してくれると助かるわぁ。今日はもうすぐ暗くなるからやめた方がいいけれどぉ」
確かに空はもう夕暮れだ。
「暗くなった後の旧要塞はどんな感じですか?」
「ゴーストとかレイスなんて死霊系の魔物が多くなるわ。スケルトンと違って物理攻撃が全く利かないし、飛ぶから移動速度がそれなりに速いし、ちょっと相手したくない感じよぉ」
「わかりました。やめておきます」
「それが賢明ね」
そんな事を話しながら歩いて行く。
そして4つめの交差点。
「それじゃ錬金術ギルドはこっちだから失礼するわ。あ、そうだ、これを渡すのを忘れていたわ、はい」
丸めた紙のようだけれど何だろう。
受け取って広げてみる。
地図だ、多分このケルキラの街周辺の。
「見たとおり、この街の近くの何処にどんな薬草が生えているかの地図よぉ。主な魔物も書いてあるから、それを見て行く場所を決めてね」
これはありがたい。
私に土地勘なんてものは無いので、攻略サイト等を調べて薬草が採れる場所を探そうと思っていた。
でもこれがあれば明日からそのまま出かける事が出来る。
「ありがとうございます。助かります」
「うううん。ミヤちゃんが薬草を採ってきてくれるなら、
それじゃ、また明日♡」
「はい、今日もありがとうございました」
実際カレンさんには大変にお世話になった。
今だって家探しに付き合って貰ったし、あの部屋代も実質1日分まけて貰ったようなものだし。
まだうろ覚えの道を住所表示を頼りに何とか家まで辿り着く。
魔法鍵を門扉にあて、カチリと言う音がしたのを確認してから門扉を開いて中へ。
先程頑張ったおかげで庭はすっきりしている。
ラッキー君が何か期待に満ちた目で私の方を見た。
どうやら庭で遊びたいような雰囲気だ。
「いいよ、自由に調べておいで」
頷いてそう告げるとラッキー君、だーっと反対側の端の方まで走って行って、そして戻ってくる。
これで終わりかとおもったら今度は匂いをふんふん嗅ぎながら歩き始めた。
尻尾が上向きで左右にふりふりしているのできっとご機嫌なのだろう。
私は門扉を閉めた後、ゆっくり玄関まで歩いて扉を開け、中へ。
なおラッキー君が入ってくる時の為に玄関は開けっ放し。
敷地を囲む壁がしっかりしているし、門扉が閉まっていると中の様子は外から見えない。
だからまあ、扉開けっ放しでも大丈夫だろう。
家の中が少し暗く感じる。
外が暗くなりはじめたから仕方ないだろう。
それにこの世界は魔法が使える。
「
わざと声に出して魔法を起動。
家の中が明るくなった。
今日からここが私とラッキー君の家だ。
まだ家財道具は無い。
でもこれから私好みに増やしていけばいい。
さて、暗くなったらお腹が空いた。
今日は面倒だからアイテムボックスに入っているテイクアウトのギロスにしよう。
飲み物は水でいいや。
キッチンでやや深い食器とコップに水を入れてくる。
食器の水はラッキー君用だ。
あとは鍋の蓋にもなる平たい食器を出して、そちらにギロスを2個置く。
準備はこれでいいかな。
ではラッキー君を呼ぶとしよう。
「ラッキー、ご飯だよ」
ダダダダダ……
ダッシュでやってきた。
私の目の前でお座りしたので、水とギロスが入った食器をラッキー君の前の床に置く。
「はい、いいよ」
がうがうがうがう。
すごい勢いで食べ始めた。
それでは私も食べるとしよう。
アイテムボックスから出して、そのまま齧りつく。
ギロスはこの街では最も一般的なテイクアウト料理。
お店も多く、それぞれ店によって微妙に味が違う。
このギロスはカレンさんおすすめの店で買ったものだ。
具はギロスでは一般的な、羊肉、タマネギ、フライドポテト、トマト。
店によっては肉が鶏肉だったり豚肉だったり、更には肉がミンチだったりする事があるらしい。
でもカレンさん曰く。
『ギロスは羊肉、それも塊を焼いて削ぎ切りにしたものが基本よぉ。あと具は他にタマネギ、フライドポテト、トマトだけ。それ以上は余分だわ』
またなぜそのお店がお勧めなのかについても、カレンさんは言っていた。
『ちゃんと羊肉の塊を回して焼いている事、そしてタマネギがシャキシャキな事。あとはソースが他のお店より美味しいからよ。このソースの命はベースとなるヨーグルト! 酸っぱさが足りなかったり水っぽかったりするのは駄目駄目だからぁ』
ちなみにソースはヨーグルトにニンニクだの刻んだキュウリだのレモンだのが入ったもの。
ヨーグルトにニンニクとは何だそりゃと思うのだけれど、これが案外美味しい。
そしてピタパンが適度に肉汁やソースを吸ってくれるのもまた美味しい理由。
フライドポテトが入っているのもボリューミーで良い。
そんな訳でカレンさんに教わって以降、このギロスが私の昼食の定番となっている。
しかし唯一の欠点が少々ボリュームたっぷりすぎること。
毎回1個で私はお腹いっぱい。
でもラッキー君の方はどうだろう。
見てみると既に2個平らげ、水を飲んでいた。
私の視線に気づくとびしっと座りなおして期待に満ちた目でこっちを見る。
どうやらもう少し欲しいと言っているようだ。
ならやろうかなと思って、そして思いとどまる。
このギロスを2個ってかなりの量だ。
いくらラッキー君が大型犬に近い大きさでも食べ過ぎだろう。
「だーめ。2個も食べれば充分な量でしょ」
どうやら通じたようだ。
ぶしゅっとした顔をして、そしてまたお水を飲み始めた。
それでは玄関の扉を閉めてこよう。
私は立ち上がる。
◇◇◇
今日はちょっと疲れたかな。
そう思ったので今日はお風呂はパス。
ラッキー君がお水を飲み終わったのを見てから、寝室へと移動。
食後すぐに寝ると太りそうだけれど、今日くらいはいいだろう。
それに日中歩き回ったし。
まずは寝間着と言うか室内着に着替える。
清浄魔法を使えば風呂に入らなくても大丈夫だし、洗濯だって無しでOKだ。
まだ布団を買っていないので、ベッドは台とマットだけ。
明日にでも布団やシーツを買ってこよう、そう思いつつ上に寝袋を置いて寝る準備完了。
「それじゃラッキー、もう寝るよ」
ラッキーにそう言って、寝袋へ。
おっとラッキー、当然のようにベッドマットの上にやってきた。
私の寝袋に引っ付くようにして横になる。
うん、邪魔だけれど可愛い。
背中の白い毛をゆっくり撫でてやる。
こういう生活、いいよね。
そう思いつつ私の意識はあっさりフェイドアウトした。
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