第24話 脳筋設定は万能です?

「ならこっち、ここの窓から出るとちょうどやりやすいと思うわよぉ」


 リビングの掃き出し窓の向こう側は小さなテラス。

 平らに均された石畳で2畳くらいの広さがある。

 ただしその先はやっぱり雑木林状態だ。


 掃き出し窓から外へ出て、アイテムボックスから靴を出して履く。


「それじゃ方法を説明するわよぉ。ミヤちゃんは初期設定の時に渡された片手剣、持っているかしらぁ」


「ええ」


 最近はカレンさんから貰った戦斧を使っているけれど、片手剣の方も売っていないのでアイテムボックスに入っている。


「それじゃ出して」


 言われるままにアイテムボックスから出し、右手で軽く握る。


「やり方を説明するわよ。右足を一歩前に出して、剣を左後ろやや下方向に向けて構えるの」


 カレンさんが見本を示してくれたので真似してみる。


「もう少し上半身を左に捻って、そう、そんな感じ。

 それじゃ合図したらその姿勢から、出来るだけ早く剣を右横方向に薙ぎ払ってみて。木や草に当てる必要は無いわ。ただひたすら速く素振りをするだけ。


 念の為、私とラッキーちゃんは部屋の中へ避難するからそのまま動かないで待っていてね。ラッキーちゃん、私と一緒にもう一度お家に入るわよぉ」


 えっ! 振るだけ?


「草に当てないでいいんですか?」


「そうよ。当ててもいいけれど、やるべき事はとにかく速く横へ振ること。それだけを心がけてねっ♡」


 カレンさんとラッキー君はリビングへ。


「それじゃいいわよぉ」


 どうにもよくわからない。

 けれど今までカレンさんが教えてくれた事はほぼ全部役に立っている。

 きっとこの指示にも意味があるのだろう。

 だから言われた通り、やってみよう。


 右手の延長戦にある剣先を意識して、そして。

 腰のひねりと腕力で剣を一気に右斜め後ろまで振る。

 ザザザッ、効果音っぽい音が流れた。

 同時に毎度お馴染み半透明の字幕が出現。

 

『剣技:エア・スラッシュ!』


 一瞬後、私の前方左10時の方向から右3時の方向の雑草や草が揺れ動いた。

 ある物は真下に、あるものは左右に揺れつつやはり下に。


 1秒くらい後、何が起こったのか理解する。

 前方の雑木や草が切断されたのだ。

 私の腰くらいの高さ、まさに振るった剣の延長戦上で。


「やっぱり発動したわね、剣技。ミヤちゃんのステータスなら出来ると思っていたわぁ」


 カレンさんはそう言わけれど、私には何がなんだか全くわからない。

 ここは解説が欲しいところだ。


「何なんですか。今『剣技:エア・スラッシュ』って字幕が出たんですけれど」


「空気の刃を飛ばす攻撃技よぉ。冒険者ギルドの教本には『速さと力が魔素を動かし風の刃を形作る』と書いてあったかしら。

 本来は剣士や槍術士の技なんだけれどね。ミヤちゃんは威圧も使えたし、ステータス的にも出来そうだなと思ったの。

 どう? 簡単だったでしょ」


 確かに使用する事が出来たけれど、これは喜んでいいのだろうか。

 私としては今ひとつ納得がいかない。


 カレンさんがイメージする私って、どれだけ脳筋なのだろう。

 しかし実際に剣技が出てしまったのだ。

 それに確かにこの技で草刈りが出来たし、今後他の事にも便利に使えそうな気がする。

 だから文句は言えない。


「それじゃそのまま次、今度はもっと低い位置で同じ事をして頂戴。それで庭はそこそこきれいになると思うわよぉ」


 とりあえず草刈りが必要なのは確かだ。

 だから今度は膝を曲げ、腰をかがめた状態で再度同じ事をやってみる。


『剣技:エア・スラッシュ(弱)』


 弱になったのは姿勢が悪くなった分、剣を振る速度が遅くなったからだろうか。

 それでも雑木や雑草相手なら問題無かった模様。

 概ね高さ10cm位でばっさりと切断され、転がっている状態になる。

 

「うんうん、そんな感じ。まだ雑木の枝とか邪魔な部分はあるけれどね。何度かこれをやればバラバラになると思うわよぉ。

 どうかしら、これで」


 確かにこれで草刈りの代わりにはなった。

 既に庭は今までと比べ見晴らしがいい状態になっている。

 雑木の幹や枝が転がっているのだけが少々邪魔だけれど。


 ここまで来たらついでだ。

 これらの枝も始末してしまおう。


「ついでにラッキーが遊べる程度には刈っておきますね」


 バッサバッサと剣を振るう。

 6回ほど技を出したところで庭はほぼ平坦と感じられるくらいになった。

 雑木の枝等も固まっているものはほぼなくなり、木片や切り刻まれた葉等が転がっている状態だ。


「これくらいでいいんじゃない。多少木や枝が残っていてもラッキーちゃんなら問題無いと思うし。

 それに今からなら商業ギルドでの契約、まだ間に合うわよぉ」


 確かに。

 折角草刈り? までしたのだ。

 さっさと契約しておきたい。


「それじゃ商業ギルドへ行きましょう」


「そうね。ところでラッキーちゃんはどうするかしら。ここで待っている? それともミヤちゃんと一緒に行く?」


 ラッキー君、さささっと動いて私の真横につく。


「一緒に行くって言っているみたいね。それじゃさっさと契約しに行きましょうか」


■■■■■■■■■■


※ エア・スラッシュ

  STRわんりょくATKこうげきりょくAGIすばやさが一定以上にあると出せるらしい剣技。

  攻略サイトの考察によると、発動条件及び威力は次の通り。


  【発動条件】

   STRわんりょくATKこうげきりょくAGIすばやさ+レベル>100

  (弱・強については不明)


  【攻撃の威力】 

  攻撃範囲は前方120度、20m以内。威力は剣装備状態でのATKこうげきりょくAGIすばやさ+50のダメージ。

  (弱はこの半分、強はこの2倍)

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