第10話 脳筋設定ついに判明
申込書等を渡して、そしてすぐ初心者講習を開始。
場所は大部屋タイプの調合室の空いていた方だ。
「それでは初心者講習をはじめましょう。メモをとる必要はありません。このプリントにまとめてある通りですから」
デミオさんは私にA4より少し小さめの紙を渡した。
薬草の説明や全体を描いた絵、錬金釜の使い方等がぎっしり書かれている。
覚えるべき事は多そうだ。
「その紙は講習中、わからない事があったら見る事が出来る場所に置いておいて下さい。
それでは絶対覚えておいた方がいい薬草5種類です」
デミオさんはそう言って、アイテムボックスに入れていたらしい草を机上へ並べはじめた……
◇◇◇
午前、午後とひととおり授業を受けた。
これで基本的な事は理解したつもりだ。
しかし講習中、少し気になる事があった。
『これが覚えられないという事は、薬草の勉強はここまでですね。
それでは次、錬金術用具の使い方について勉強しましょう』
途中でデミオさんにそう言われてしまったのだ。
薬草を覚えるというのは、薬草の色や葉の形、生えている場所等の特徴を私自身の頭で記憶するという事ではない。
私の
具体的にはデミオさんに薬草を出して貰って、説明を聞きながら薬草の特徴を確認すると、
『○○○○草を覚えました。以降この草を判別する事が可能です。またこの草が3m以内に生えていて、かつ視野に入っている場合、採取をする事が出来ます』
というメッセージが出る。
これがこのゲームでの『覚えた』状態だ。
私の場合、薬草8種類目でメッセージが出なくなった。
それでデミオさんのあの台詞となった訳だ。
しかしそう言われたという事は、他の人はもっと覚えられるのだろうか。
なら私が覚えられなかったのはどうしてだろうか。
そこが気になる。
ただデミオさんに聞いても教えてくれなそうな感じがした。
意地悪ではなく NPC だからシステム的なことがわからないという意味で。
ネットで調べるしかないだろうか。
しかし錬金術師はマイナー職。
ネットを検索しても答が出てくるかわからない。
やはり知っていそうな人に聞くしかないだろう。
NPCではなく、かつ錬金術師について良く知っていそうな人に。
そんな知り合い、私には1人しかいない。
講習を受けていた調合室を片付けた後、階段を下りて下の受付カウンターへ。
「お疲れ様。どうだったかしら、最初の講習は?」
「ちょっと気になる事があったのですけれど、聞いてみていいでしょうか?」
「勿論よぉ~。此処へ座って。何でも聞いてア・ゲ・ル♡」
カレンさんに勧められるままにカウンターの、カレンさんの前に座る。
「実は講習で薬草を覚える行程があったのですけれど、8個目で覚えたというメッセージが出なくなったんです。それをデミオさんに言ったら『薬草の勉強はここまでですね』と言われてしまったのですけれど、これって何故なんですか?」
「あ、それね。それってステータス値の問題よぉ。『同一種類の物を一度に覚えられる最大数』なんて数値が隠しパラメーターとしてあるのよ。どうやらINT値とDEX値、それにLUK値が関係しているらしいのだけれどねっ♡」
カレンさん、やっぱり知っていた。
しかし言っている言葉の意味がよくわからない。
「実はその辺りの数値についてよく知らないんです。実はゲームらしいゲームはこれが初めてなので」
「ひょっとして家が厳しくて、今までゲームとか触ってこなかったという感じかしらぁ?」
少し違うけれど、まあ似たようなものだろう。
だから私は軽く頷く。
「なら仕方ないわ。それににパイアキアン、ステータスの項目が多すぎてわかりにくいと言われているしねえ。
ちょっと待っていてね♡ メモを出すからぁ」
アイテムボックスからB5位の紙を出してささっと何か書いて、そして私の前へ出す。
「ステータスで色々数値が書かれているけれど、わかりにくいのはこの辺の略称で書いてあるあたりかしら。HP、MP、STR、ATK、VIT、DEF、INT、RES、DEX、AGI、LUKといったあたり」
うんうん、その通りなので私は頷く。
「ひとつずつ説明するわよ。まずHP、これは……」
◇◇◇
説明を終えた後、パスポートを出して自分の数値を見てみる。
カレンさんの説明を聞いてからこの数値を見てみると、悲しい事実が浮き彫りになった。
私の場合、
が明らかに標準より高い。
中でも
一方で
そして
この数値が意味するところは……
「つまり私はエルフのくせに脳筋という数値なんですね」
カレンさんがえっ? という表情をする。
「種族がエルフの場合はそうなりにくい筈よ。種族としての補正がかかるから腕力系は高い数値が取りにくいし、逆に知力系は低い数値なりにくくなっている筈だからぁ」
それでこの数値……
私はパスポートを開いてカレンさんに突き出す。
「見ていいのかしらぁ? これってプライバシーよ」
「見て、感想を教えてくれると嬉しいです」
カレンさんは私のパスポートを見て、そして不意に。
「うっ!」
いつもと明らかに声色が違う怪しいうめき声を発した後、カレンさんは台布巾を自分の顔に押し当てた。
10秒くらいそうやって何かふがふがしていた後、顔をあげる。
「確かにこれ、エルフ女子としてはありえない数値だわ。リセマラを繰り返しても出来るステータスじゃないわよぉ」
リセマラって何だろう、わからない。
ただそこまで反応するようなステータスなのだろうか。
あとカレンさんの化粧、布巾を押し当てていたから口と鼻のまわりが崩れてしまっている。
指摘していいのかわからないけれど。
「ただこのステータス、悪い事だけじゃないわよぉ。直接的な攻撃力が高いから討伐でお金を稼ぎやすいし、レベルだって上げやすいしねっ♡。
そうやって強くなれば普通の人が行くことが出来ない場所へ希少素材を採りに行くなんて事だって出来るわぁ。
確かに知力系ステータスは高くはないかもしれない。でもこのステータスでも時間をかければ薬草の数を覚える事は出来る。
そう考えるとむしろ可能性しかないわ。という事でちょっとここで待っていてねっ♡」
※ リセマラ
ゲームの初期設定が満足いく状態になるまで、リセットして最初からやり直す事。リセットマラソンの略。
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