第8話 衝撃のカレンさん
売店ではない方の入口にも色々と貼り紙が貼ってある。
『錬金術ギルド、正会員・賛助会員募集中! 賛助会員は錬金術師でなくともOK! 今なら入会特典アクキー贈呈! 絵柄はジャービルちゃん(錬金術師ギルド非公式キャラ)』
『卸売り・新規出店希望の御相談受けます』
『覚悟完了。当方に錬金の準備有り』
『君も錬金術師にならないか? 講習会随時開催中!』
『錬金術、私の好きな言葉です』
これらの文字がやたらカラフルかつポップな書体で踊っているのだ。
本当にこれ、正規のギルドなのだろうか。
それともこの世界のノリってこれが普通なのだろうか。
いや、役場はお役所していたし、宿屋も普通だった。
とすると、これはきっと多分……
今ならまだ間に合う。
此処へ入らず、一般人の振りをして立ち去ろう。
そう思って入口寸前でUターンしようとしたまさにその時。
「いらっしゃ~い♡」
野太く低い声ともに扉が開いた。
金の長髪、濃い髭の剃りあと、浅黒く焼けた肌。
ピンクのワンピースにフリルふりふりのエプロンから伸びるマッスルな腕と同じくマッスルな脚。
そう、いわゆるオカマという奴だ。
それもゲイとか性同一障害とかLGBTQQIAAPPO2Sというような意識高い世界とは違う世界に棲息する方の。
身体は男性・心は女性をコンセプトにわかりやすいメイクダウンを施した、漫画や特殊な店でしか見る事が出来ないあり方。
その実践というか悪い意味での完成形。
人間は信じられないものを見るとフリーズしてしまう。
それを私は実体験してしまった。
逃げようと思っても身体が動かない。
蛇に睨まれたカエル状態だ。
「あれ、私の綺麗さに戸惑ったのかしらぁ? 大丈夫よん、ここは安心な
私は悟った。
どうやら撤退の判断が遅かったようだと。
「それにしてもプレイヤーのお客さんなんて久しぶりだわん♡ もう
それってどう考えても錬金術ギルドでの台詞じゃないだろう。
そう思って、そしてふと気付く。
「あれ? プレイヤーさんなんですか? 貴方も」
「そうよん。ついでだから自己紹介しちゃうわ。私は錬金術ギルド・ケルキラ支部、
長い名前の何処をどう略せばカレンになるのだろう。
よくわからないけれど突っ込むと負けという気がする。
だからそこには触れない方針で。
「それにしても錬金術師を選んだなんてお目が高いわ。ついでだから錬金術ギルドの会員になってくれるととっても嬉しいのよぉ。
会費は年1,000
会費は年1,000
それくらいなら即金で払える。
それで調合室が使い放題なら安いものだ。
ところで部屋が安く借りられるとはどういう事だろう。
宿屋のかわりになるという事だろうか。
「部屋は此処でも借りられるんですか? あとその部屋って調合室ではなく、宿のように住む事が出来る部屋なんですか?」
「ええ、地域が非常事態になると錬金術師を集めておくすりを作りまくったりするからね。宿がなくても泊まれるように居室を整備しているのっ♡
ここのお部屋はガラガラだから1日150
おお! 宿よりよっぽど安い!
思わず『入会します』と言いそうになってしまう。
落ち着け私、相手は見るからに怪しいオカマさんだ。
相手が信じられるか、もう少し確かめてからにしよう。
「ところでカレンさんはどうして錬金術ギルドの支部長をやっているんですか?」
「前は最前線攻略勢だったけれどねえ。何か皆余裕無くてギスギスしちゃって、楽しくなかったのよ。
だから一度前線を離れてじっくり考え直してみようと思ってねえ。知り合いの伝手で冒険者ギルド支部の
それで今度は寂れたギルドを盛り上げる事で楽しもうと思ってねえ。それで私の技能が生かせる中でもっとも恵まれないギルドである、此処錬金術ギルドを活性化させる事にこれからのゲーム人生をかけようと誓ったのだわ」
元前線攻略勢で、冒険者ギルドの
よくわからないけれど、きっとこのゲーム内では結構強い人なのだろう。
「そしてこの錬金術ギルド・ケルキラ支部も、大分良くなったと思うのよ。
たとえば錬金失敗した
他にも分割払い制度や大口取引割引き制度なんて作ったの。その結果、私が
感謝してもらえるしお金も増える。前線で攻略していた時よりよっぽど楽しいわぁ」
なるほど。
姿形と言葉使いは怪しいけれど、言っている事そのものはまともだ。
信用していいのかもしれない。
そもそも公的ギルドで悪徳プレイなんてしていたら運営者から処分されるだろうし。
ただそうなると、ちょっと確認したい事がある。
しかし人によっては微妙な問題なので正面から聞いていいかどうかはわからない。
だから少し聞き方を考えて、こんな感じで聞いてみる。
「それにしてもその外見、どうやって作ったんですか? 標準の組み合わせでは作れないと思うのですけれど」
「うふっ♡ 苦労したのよ♪ まずは人間男性で思いっきりマッチョな顔と身体を選んだ後、レベルを上げながら錬金術スキルと裁縫スキルを上げたのぉ。
そうして錬金術スキルで髪の脱色剤と染毛剤を開発して、裁縫スキルでこの身体に似合うぷりてぃぷりてぃな服をちくちく自作してねっ。
やっと私の理想とするオカマらしいオカマを作り上げたの。男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強! 折角この世界に来たのだからね、妥協したくなかったのよぉ」
このうち『オカマは最強!』部分は妙なアクションポーズを取った上、口調も説明口調ではなく決め台詞的な感じだった。
勿論私はつっこまない。
まあ、一部部分にどうやっても理解出来ない部分がある事は確かだ。
見た目も正直言って目に優しくないというか、実在してしまった狂気というか、まあそういう感じ。
しかし言葉や話の筋は理解出来る。
だからまあ、きっと信用していいのだろう。
自分の好みだけで相手のあり方を全否定する程、私は傲岸でも唯我独尊でも無いつもりだし。
「それに錬金術師の祖、ヘルメス・トリスメギストスは三重の知恵のヘルメスという意味なのよ。だから男であり女であるオカマ、つまり三重の性である私が錬金術師というのはきっと神の摂理だと思うのよぉ。
まあこれは錬金術ギルド支部長をやってから考えた後付の理屈ではあるんだけどねっ♡」
この理屈、神が聞いたなら苦笑するのではないだろうか。
確かこの世界、神は実在するという設定だった筈。
天罰が当たらなければ良いのだけれど。
でもとりあえずまあ、きっと問題は無いだろう。
なら自己紹介して、そして入会する事としよう。
あ、でもその前にもうひとつ疑問を解消しておきたい。
「そう言えばどうして私がプレイヤーだとわかったんですか?
見た目でNPCとプレイヤーはわからないと聞いたのですけれど」
「かんたんよぉ♪ 私のこの美貌、普通の人なら間違いなく見た瞬間、何らかのリアクションがある筈なのよ。
だからリアクションが少しでもあればプレイヤー、なければNPCってワケ。O・WA・KA・RI~♫」
なるほど。
美貌かどうかは別として、確かに人間ならば何らかの反応をしてしまうだろう。
私は深く深く納得したのだった。
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