第3話 正しい魔獣の倒しかた?

 このゲーム、最初はどんな職業を選んでも、罪のない魔物を倒して経験値とお金を稼ぐ必要があるらしい。


 勿論現実のお金を課金してアイテムを購入するという荒技もあるようだ。

 しかし私の場合、時間は山ほどある。

 それに初心者なのだからゲームの基本もじっくり学んだ方がいい。


 シルラの後をついて大通りを東へと歩いて行く。

 お店のショーウィンドーに私の姿が反射して映った。

 ちらりとしか見えなかったが、なかなか可愛い感じで悪くない。

 中学生エルフ、ひょっとして正解だったかも。


 途中で大きな交差点を右に曲がり、今度は南方向へ。

 やがて建物がなくなり前方が一気にひらけた。


 正面は幅300m位が岩や土で出来た平原。

 所々に草や小岩がある以外は不自然なまでにまっ平ら。

 左にこんもりした丘が有り林になっている。

 右が極細の岩場で更に右は細長い湾。


「ここはコルフ平原、デミスライムという魔物とノロイグアナという魔獣が出るよ」


 確かに平原だ。

 あまりに起伏が無さ過ぎて海上空港がウン十年放置されたらこんな感じになるのかな、というくらいの雰囲気。


 人は私以外に2人、いずれも前方の遠い場所にいる。

 他に人は見当たらない。

 討伐の邪魔にはならないだろう。


「それじゃまず、魔物を探してみよう。色が地面と同じだからわかりにくいけれど、見つけられるかな?」


 周囲の地面をじっくり見ていく。

 一見したところ何もいそうになく感じる。

 しかし左側5m、案外近い辺りに違和感を覚えた。

 ほんの一瞬だけだけれども。


 今見た限りでは他に気になる場所はない。

 違和感は気のせいだろうか、そう思いつつ何か感じた場所を更にじっくりと見てみる。


 よく見ると凹凸が動いている気がする。

 動きそのものは凄く遅いけれども、風とかそういう影響では無い感じ。

 これがきっとそうだろう。


「あれですか?」


 指差してシルラに確認する。


「正解! ノロイグアナだよ。良く見つけたね。自分がいる場所そっくりの体色に変化するからわかりにくいんだ。

 それじゃ武器を出して」


 私の武器は短剣だ。

 ここでの短剣はナイフでは無くショートソード。

 刃渡り40cm全長70cm位、細身で真っ直ぐな片手剣。


 細身の片手剣とは言え鉄で出来ていたら相当重い筈だ。

 本来の私なら片手で振り回すなんてどう考えても無理。

 しかし持ってみると割と大丈夫そうな感じだ。

 きっとゲームだからだろう。


「ノロイグアナは遅いけれど、表面の鱗は結構固いんだよ。だから普通の短剣なら切るより突く方が効果的かな。

 本来短剣は片手剣だけれどこの場合は両手でしっかり持ってね。攻撃場所は首や肩よりやや尻尾側、胸の辺りをめがける感じ。背中から体重を乗せて強く突く事を意識してね」


 切るより突く方が効果的とか、妙に実戦的だ。

 これもゲームでは常識なのだろう。

 攻略サイトでここのチュートリアルはそういう扱いだったし。

 私は短剣を斜め下へ突き出すように構える。


「今は逆手に持った方がいいよ。接近して上から下へ突く形だから」


 この持ち方では足下近くしか攻撃できない感じになるけれど、いいのだろうか。

 そう思いつつもシルラの言う通りに持ち直す。


「うん、そんな感じ。そうしたら2m位までゆっくり静かに近づくよ。ノロイグアナは鈍感だし動きが遅いからそれでも大丈夫」


 私の現在の履き物はヒールがほとんどないハーフブーツ。

 皮が柔らかくて歩きやすい。

 ゆっくり足音を立てないよう近づいて、2m手前で停止。


 ここまで来るとノロイグアナの姿がはっきりわかる。

 長さ1m近くと案外大きい。

 胴体の太さも私の腰くらいはある。


「それじゃ攻撃するよ。一気に近寄って、上から体重をかけて突き刺す。ただ頭の方には足をやらないでね。運が悪いと噛みつかれて足首から下が無くなったりするから」


 そんな危ない代物が初心者向きの魔獣でいいのだろうか。

 もっと簡単な相手がいてもおかしくないと感じるのだけれど。


 そう思いつつ、シルラの指示を頭の中で確認する。

 頭の方に足をやらない。

 体重をかけ思い切り突く。

 突く場所は背中、胸の辺りへ突き刺す事をイメージ。


 よし!

 私は近づいて軽く跳躍。

 体重をのせ、一気にノロイグアナを突く。


 ぐぐぐぐっ、確かな手応え。

 ノロイグアナがぐぐぐっと動いて抵抗。

 必死に握って剣を取られそうになるのを防ぐ。


 ノロイグアナの動きが止まった。

 これで倒せたのだろうか。

 そう思った時だ。


『ノロイグアナを倒した。経験値5を獲得。ノロイグアナの死体を入手可能です。収納しますか?』


「この表示が出たら倒したという事だよ。だから表示が出るまでは油断しないでね」


 なるほど、そういう事か。

 現実と違ってわかりやすくて親切だ。


「死体が素材や食料になるものは、今のように死体を収納するかどうか聞いてくるよ。

 売るとお金になるから、収納に余裕があれば収納した方がいいよ」


 勿論収納する、そう思った次の瞬間。


『ノロイグアナの死体は収納されました。収納残り38kg』


 簡単かつ楽でいい。

 流石ゲームだ。


 なお収納可能な重さは、初期設定では分身アバターの設定体重まで。

 レベルが上がるともっと増えるらしいけれど。


 だから攻略するには体重が重い方が有利だ。

 そして見かけ中学生のエルフなんて、他のプレイヤーと比べて間違いなく軽い。


 ただし私の場合は攻略メインじゃないからかまわない。

 それに今の外見、可愛いから気に入っている。

 いかに分身アバターとは言え体重を稼ぐために自分を寸胴体型なんて設定したら、きっと悲しい気分になりそうだし。


「素材や食料にならない魔物や魔獣の場合は、死体のかわりに魔石がとれるよ。魔石や死体は役場へ持って行くと買い取ってくれる」


 役場で買い取りをしてくれるのか。

 地方の害獣駆除と同じような感覚なのかな。


「それじゃ次の魔獣か魔物を探すよ。このノロイグアナなら4匹、デミスライムなら20匹は討伐しないと1日の食費や宿賃に足りないから」


 この世界は割と厳しいようだ。

 今やった事を最低4回はやらないと日々暮らせないみたいだから。

 でも現実よりはましかもしれない。

 時給1,000円のアルバイトよりは効率が良さそうだし。


 それでは次、探してみよう。

 私は再び周囲の地面をゆっくり見て探していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る