第8話 放課後の彼女達

ガチャッ。


生徒会室の施錠をし鍵を職員室へ返却しにいく。日は完全に沈み大半の生徒は帰宅している時間だ。

下足箱で靴を履き替え、徒歩通学の生徒くらいしか利用しない裏門へと足を進める。

門戸の電灯に照らされた背の高い影を見つけ私は駆け足で近づき、その腕に抱きついた。

相手はもちろん私の恋人である早苗だ。


いつもは別々に帰宅していたが本日は色々・・あり遅くなってしまった為、夜道を心配した早苗が一緒に帰宅しようと言ってくれた。


愛しい彼女を見遣る。

緩めのニット帽を被り上下ダボっとしたシルエットのジャージ姿で普段はしない格好だ。


透き通るように輝く銀髪、そしてバランスの良い綺麗なラインのプロポーションを隠して仕舞えば誰も彼女だとは気づかないだろう。

ーーー私を除いては。


すっかりその姿に見惚れていると、それに気付いた彼女が目元を細め柔和に微笑んだ。

他の誰にも見せないそんな笑顔が堪らない。

私も自然と口角が上がり、より一層彼女の腕に身を寄せ密着した。

あぁ、なんて幸せな時間だろうか。

それを噛み締めながら歩いていると早苗には珍しくふふっと思い出し笑いを溢した。

何を思い出してるかは検討がつく。

きっと彼のことだろう。

早苗が、そして私が自分達以外を初めて・・・名前で呼び合いたいと望んだあの人。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最初は背が高いのが印象的で顔がパッしない名前も知らない同級生だった。

それが昨日の事で一気に目に障る存在となる。

私達の関係を知られたであろうその存在、『宮里遥希』のリサーチを開始した。

彼のクラスメイトや同じ学校出身の人達にそれとなく人物像を聞き回った。

すると皆口を揃えて

『友人としては普通な奴。だが女関係は爛れている。』

と言う回答だった。

彼の親友と呼ばれる人物さえそれを否定せずにいたので間違い無いのだろうと思った。


だから私は早苗を守る為にも、彼の返答によっては生徒会長としての権限を余す事なく行使し潰そうと決めていた。

返答次第と言ってもどうせ他人は誰も彼も私達の害になる事しかしないのだから排除するのは確定事項だろう。


女は私達に嫉妬し足を引っ張ろうとし男は情欲を隠そうとせず虎視眈々と隙を伺う。


だから彼もその他大勢と同じ。



ーーーーーーーそう、思って居た。



だが彼は違った。

私達の関係を否定せず、あまつさえ知人ですら無いただの他人のである私達を守るため自身が泥を被ろうとしてくれた。そして私達を全肯定してくれたのだ。



『思う事も何も本人達が幸せなら良くないか?新實さんは刈谷さんが好きで刈谷さんも新實さんが好き。うん、問題無い。寧ろお互いの『唯一』を見つけられた2人が羨ましいくらいだ。

世間の理解がまだ及ばないだろうけどお互いが心から相手を好きになれた事を寧ろ誇りに思って欲しい。そしてなにより自分達だけはお互いの関係を、気持ちを否定しないであげて欲しいよ。

気持ち悪い?ーーーいいや、2人にぴったりの言葉は『愛しい』だろ?』



それを聞いた瞬間私は、私達は救われた。


口から出任せ?

同情して付け入ろうとしている?


いいや違う。

早苗の目は彼が本当だと言っている。

私だって真っ直ぐな目が如何に本気かぐらい解る。


長い間早苗の両親も私の両親も私達の関係を『気持ち悪い』『穢らわしい』『生物として摂理に反している』と否定し、拒絶し続けてきた。

そんな中私達はお互いの心を信じて耐えてきた。愛し合える存在を支えにしてきた。

しかし大多数の不理解者善人が容赦なく悪意正義の刃を何度も何度も振るってきた。だから私達はすっかり疲弊し切っていた。


そんな中あんな事を言われれば涙腺が一気に決壊するのも居たしか無いだろう。


私達の心を救った『ヒーロー』。

そんな彼も唯の『人』だった。


オロオロする姿。

不貞腐れる姿。

テンパる姿。


身近に感じる彼の姿は、より私達の興味をひいた。


ーーーだから繋がりが途絶えないよう故意にラインを繋いだ。  



「楽しかった。」



ボソッと呟く早苗に私は笑顔が溢れる。



「もう。あまり虐め過ぎちゃうと嫌われるわよ?」


「大丈夫。遥希は嫌わない。」



早苗は視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚全ての感覚から感情を読み取れる。

そんな彼女が確信を持って言うのであればそうなのだろう。



「由紀だって気に入っているでしょ?」



確信を持って聞いてきた。

早苗には嘘をつけない。



「そうね、確かに興味はあるわ。」


「むっ、なんか妬ける。」


「ふふっ、それはどっちに対してかしら?」



素直な反応の早苗が可愛くてつい意地悪な事を言ってみる。

当然彼女はむーっと拗ねた顔をしたのですぐさま唇に触れるようなキスをする。


すると早苗は何か思い出したかのようなこちらを見た。



「んっ。そういえば由紀も意地悪してた。」



「ふふっ、そうね。でもそうしないと彼は逃げちゃうからね。」



私はそう言い彼との繋がりを、彼に見せたように胸の前でヒラヒラと振ってみた。

すると早苗は呆れた表情をする。



「ーーー由紀こそ嫌われるよ。」



私はふふっと口角を吊り上げた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る