第7話
「
「
「確かに。他に被害者が出ないのであれば安心かしら?」
「俺は全然安心じゃないし、寧ろ不安しかないけどね!」
なんとなくだが壁が取っ払われた感覚だ。
だがだからって毎度毎度何かイタズラされるのは勘弁願いたいのでそれは阻止したいところ。
「はぁ、その話はとりあえず置いておこう。それより刈谷さんはなんで俺のこと名前呼びなんだ?」
そう先程から『遥希』と呼ばれていて違和感が凄い。
だから理由を聞いたのだが
「遥希は遥希だから。そして私は早苗。」
と答えになっていない答えについ
その俺の様子に彼女はクスクス笑っている。
どうやら完全無欠の生徒会長は笑い上戸らしい。
「そのままの意味よ。貴方は遥希くんでしょ?そして私は由紀よ。ふふっ。」
そう何か含みを持たせて言ってくるがどう言う意味かはニコニコするばかりで話してくれる気が全く無さそうだ。
はぁとまた一つ息を吐き、すっかり冷えてしまったお茶を啜る。
それにつられて二人とも湯呑みに手を伸ばした。
心なしか刈谷さんの目がニマニマとしている気がするが彼女に問い掛けてもまともに応えてくれなさそうだし、なんならまた悪巧みを考えていそうだ。
「ふぅ、完全に話が違う方向に行ってしまったわね。
改めて言わせて欲しいの。
好き勝手言ってしまって本当にごめんなさい。遥希くんは私達を否定せず受け止めてくれたと言うのに、私は遥希くんのことをちゃんと知ろうともせずに他から聞いた話しをそのまま鵜呑みにして中傷してしまったわ。
噂が信じるに値しないと私達は誰よりも分かっていたはずなのに、、、ごめんなさい。」
有名人の二人は事あるごとに色々囁かれ苦労しているのが見て取れる。
深く頭を下げている二人にやめてくれと手を振る。
「いや、いいんだ。全く中傷になんてなってないよ。俺の場合その情報は概ね合っているから。女癖が悪い、複数と付き合う、取っ替え引っ替えしてる、全部事実だからね。謝る必要は無いよ。」
そう事実なんだから。
だが新實さんは首を振り否定する。
「確かにそれは客観的に見ると事実なのかも知れない。でもその『概ね』といわれる部分が少しでも違えばそれはもう遥希くんの『真実』では無いでしょ?
だから勝手に決めつけた事、そして傷付けた事に対して謝りたいの。」
今俺が囁かれている事柄に対して傷付いては居ない。だが若干の齟齬が息苦しいと感じていた。
彼女達がそれを認識してくれただけでもう十分だった。
「うん、そのーーーありがとう。」
つい、目を逸らす。
どんな表情をすれば良いか混乱してしまったのだ。
「ねぇ、遥希くん。噂じゃなく、他人から聞いた話しじゃなく、本当の遥希という人物が知りたくなったわ。私達に教えてくれないかしら?」
自分が見た、当人から聞いた話を信じようとしてくれている。
昨日今日会話した程度の俺をこんな風に考えてくれるとは思っていなかった。嬉しく思うと同時にーーー怖くなった。
俺の話を聞いて今向けてくれている目が軽蔑の色へと変わったらと思うと。。
だからここで話しは終わりだと話題を変えた。
「それはまた機会があれば。
ほら、もういい時間だからそろそろ帰りたいな。スーパーのタイムセールに間に合わなくなっちゃうから。一人暮らしにとってタイムセールは死活問題なんだよ。」
そう言って窓を指差す。赤く染まっていた空が徐々に闇に呑まれ始めている。クラブ活動の生徒達もそろそろ帰り始める頃だろう。
話を流した事に新實さんは眉間に皺を寄せていたが、ふーっと息を吐き話題変換に乗ってくれる。
「えぇ、いいわよ。寧ろこんな時間まで引き留てしまって悪かったわね。今度改めてお詫びするわね。」
「いいって。終わりよければ全て良し。
君達の事は絶対に口外にしないから安心してね。
って事で俺は帰るわ、じゃあーーー」
足元にある鞄を今度こそ掴み立ち上がる。そして挨拶しようと正面へと視線を戻せば映るのは新實さんだけ。
あれ?っと首を傾げると突然ブレザーの裾が真横から引っ張られる。
その方向に向くと刈谷さんがいた。
待って!何でここにいるの!?
気配無かったですけど!?
刈谷さんの存在に動揺していると本人はそれを気にもせず裾を持つ手と反対の手でスマホを取り出し俺に差し出してきた。
そこには撮影モードの画面が浮かんでいる。
えーっとこれは??
写真撮ろうってこと?
うーん???
「刈谷さーーー」
「早苗。」
「いや、刈ーーー」
「早苗。」
「ーーーさっ早苗さん。えーと、何をしたら良いかな?」
有無を言わさず名前呼びを強制されたぞ。
名前呼びに満足したのか刈谷さん、いや早苗さんがこくんっと頷いた。
「スマホ。」
そう言われたが疑問符が離れない。
とりあえずスマホは出してみたがその後どうすれば良いかわからない。
助けを求め新實さんを見ると掌で口元を押さえながらまたクスクスと笑っている。
「ふふっ、早苗は通信アプリのアドレスを交換をしたいみたいよ。嫌じゃ無かったらしてあげて?」
あぁ!そう言う事か!
すぐに通信アプリの個別コードを早苗さんのスマホに読み取らせる。
するとすぐ俺のスマホに友達登録の通知が届き、同時にトーク画面にスタンプが送られて来た。ーーーチベットスナギツネのスタンプだ。
早苗さんをみるとニマニマこちらをみて居る。
良い性格してるなーー!!!
俺は口元を引き攣りながらも冷静さを保ち、まずはスタンプストアで目的のスタンプを購入。
すぐさま早苗さんとのトーク画面にスタンプを押す。
ブフォーー!!と早苗さんが噴き出していた。
ふっ、勝った。
押したスタンプは『かかってこいや』と吹き出しが出ている横揺れカマキリだ。
「あらあら、楽しそうね。私とは交換してくれないのかしら?」
そう新實さんもスマホを掲げたので早苗さん同様に個別コードを読み取って貰いお互い登録して終了した。
「じゃあ今度こそ、新實さーーー」
「由紀。」
「いや、別に早苗さんの真似しなーーー」
「由紀。」
「ーーー。」
「由紀。」
「ーーーゆ、由紀さんと早苗さん、さよなら。」
二人とも押しが強い。
由紀さんもいつの間にか俺を名前呼びしていたし、彼女達の距離感がイマイチ掴めない。
まぁ今後そんな関わる事はないだろうし良いか、と足早に学校を後にする。
すると由紀さんからメッセージが届いた。
『一つ言い忘れてたんだけど、貴方の湯呑み早苗に入れ替えられてたわよ。
さぁどちらと間接キスしたのかしらね。ふふふっ。
ーーーこれからよろしくね⭐︎』
ブブッーー!!!!?
あの時のニマニマはこれかー!
はぁ、、もう、勘弁して下さいよ。。。
訂正。
これから
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