第9話


ピピピッ、、、、



アラームの音で目が覚め眠い目を擦りながら身体を起こす。

ベットから出てぐぐっと伸びをし固まった身体をほぐす。


さあいつもの日常の始まりだ。


制服に着替え洗面所へ向う。

鏡に映る自分をまじまじ見て昨日まであった頬の赤みがすっかり無くなった事を確認する。


トーストとコーヒーで朝食をサッと済ませ身嗜みを整え家を出る。


両親が海外にいる為、広々一軒家での一人暮らしだがこの生活も慣れた物で全く不便を感じない。



最寄り駅まで歩いて行き改札口まで来てふと思い出すーーーー



パスケース返してもらって無いじゃん!!




昨日は前日に定期券と学生証が入ったパスケースが行方不明になっていたのを分かっていから、電車を使わずロードバイクで3駅分走ったのだけれど今日はすっかり抜けていた。


仕方なく現金で切符を買い電車に乗り込んだ。

早速いつもと違う日常になってしまった。


由紀さん達と連絡先を交換しているものの、昨日の今日でこちらから連絡を取るとまた在らぬ誤解を生みそうで正直気が進まない。


だけどパスケースは流石に返して貰わないと困るのでスマホを取り出しメッセージを入れようと画面を見ると丁度誰何かメッセージが届いた。


相手は今まさにメッセージを送ろうとした相手、由紀さんだった。



『おはよう。

パスケースを返し忘れてしまっていたみたいでごめんなさい。

早急に返したいのだけれど、お昼生徒会室に来てもらえないかしら?

こちらから呼び出す形になってしまって申し訳ないのだけれど、その方が互いに都合が良いかと思って。』



その提案は正直ありがたい。

クラスへと直接渡しに来られた日には周りから何を言われるか分かったもんじゃない。

なんせ相手は大人気の有名人で、そして俺は女関係がろくでなしの悪評男なんだから。



『おはよう。

ありがとう。昼休みが始まったら生徒会室へ行きます。』



そう返すとすぐに『OK』とーーー遠い目をしたスナギツネのスタンプが押された。


昨日のネタ継続中ーーーーーー!!

ってか由紀さんもそのスタンプ持ってんのかいっ!



朝から俺もスタンプのように遠い目をする事となった。




そして時は流れ昼休み。



「あれー?どうしたん?」



俺が手提げを持って席を立つと後ろの席のカズに声を掛けられた。

いつもは俺が後ろを向いてそのままパンを食べ始めるので不思議に思ったようだ。



「あぁ、すまん。用事出来たから行ってくる。時間に余裕が無いから昼は別のとこでサッと済ませてそのまま第二図書室直行するわ。じゃあな。」



そう言って立ち去ろうとするとカズに裾を引っ張られた。



「えーー、待ってるから一緒に食おうよー。

俺、寂しいじゃん!ねぇ、ハルーー。」



お前は俺の彼女か!


駄々を捏ね出したカズに心の中でツッコミをいれる。

まあ今回だけじゃなく毎回昼寝をしに行く時には決まってカズはこんな風に引き留めてくるから慣れたもんだ。それにしても俺と居て何が楽しいんだか。



「いや、昼寝タイム確保の為に時間を有効に使いたいからムリ。ってかカズは友達たくさん居るんだから他と食べればいいだろ?

ってことで行ってくーーー」



「やだやだやだーー。ハルがいいー。ハルと駄弁りたーい。」



口でブーブーと声を出しながら口を尖らせるカズ。 


いやお前がやっても可愛くないから!


それにしてもいつもならここまでしつこくないのに今回はいやに粘る。このままだと時間がなくなってしまうので妥協案を提示する。



「あー、じゃあ放課後なんか一緒に食いにいこうぜ。なんなら今回は奢るから。だから今は勘弁してくれ。な?」



手を顔の前で合わせて言えばカズの顔がパッと明るくなった。



「しょーがねーなー、それで許してやろう。忘れんなよー。」



拗ね顔が一変して満面の笑みを浮かべてるカズに苦笑いがでる。

それ狙いだったかとため息がでるが偶には良いかと独りごちる。



「あぁ分かったから。じゃあ行ってくるわ。」



手を挙げてそのままを教室を出て生徒会室へと向かった。



思わぬ引き留めに少し時間を取られてしまったが急げば十分昼寝時間を確保できるだろう。


パスケースを受け取ったらすぐ近くの空き教室でパンを食べて第二図書室へ向かい寝る。

うん、いける。


そんなシミュレートをしながら歩いていたら生徒会室へと到着した。


前回同様ノックをし入室の許可を得てから入る。

すると由紀さんが応接ソファから立ち上がってこちらを見ていた。

こちらに座ってとソファを勧められ数歩前に出た所で早苗さんがいないことに気付きすぐさま後ろを振り向いた。

昨日は背後でイタズラを仕掛けていたのでもしかして、と思ったのだ。だがそこには誰も居らずドア自体にも変化は無かった。

考え過ぎか。それにいつも一緒に居るとは限らないわなと再び前を向くと視界が銀色に染まった。



「ヒッ!!!」



情けない声を出し一歩後ろに下がった。

離れた事で視界が広がり白磁に浮かぶ琥珀色の瞳と目が合った。



「ふふふ、びっくりした?」



淡い微笑みを浮かべ抑揚の無い声で喋る人物、早苗さんは俺が下がった分だけ距離を詰めようと近づいてくる。

ドクドク早鐘を打つ心臓がまだ治らないが、イタズラ第二波を回避する為更に下がろとした。が、その前に早苗さんの背後から腕が伸び彼女の身体の前で交差した。



「もうダメよ、早苗。

遥希くん、驚かせてごめんなさいね。とりあえずソファに座って頂戴。」



そう言う由紀さんの腕の中で早苗さんは振り返り今度は真正面で抱き合っていた。



「二人とも遠慮が無くなったね。」



昨日警戒してたのが嘘のようにイチャつく二人を見て俺は苦笑いをしつつも内心微笑ましく思いながらソファへと移動した。



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