第2話
俺が通う高校には有名な人物が二人居る。
かたや完全無欠の生徒会長、かたや孤高のヤンキーと呼ばれる対極の評価を持つ二人だ。
共通しているのは両者とも容姿端麗だと言う事だろう。
完全無欠の生徒会長こと
スラっと伸びだ手足に端正な顔立ちの彼女はまさに「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」を体現している和風美人だ。
友人曰く長い艶のある黒髪をポニーテールにしているのがまた高ポイントらしい。
なにより彼女が完全無欠と呼ばれる最大の所以は彼女の功績による物だ。
彼女が生徒会長になってからというもの前時代的な化石と化していた校則を一掃し現代に合わせた柔軟な校則へとシフトチェンジを実現したのだ。
学校側、PTA側双方共に納得させる草案を通した彼女の手腕には舌を巻く。
それでいて気さくな人柄ときたら彼女の人気は言わずもがな。
もう一人は孤高のヤンキーこと
更に切れ長の目元が彼女の美貌を際立たせていた。だがその冷たい視線と一切笑わない口元が人を寄せ付けないオーラが纏っており、それが孤高と呼ばれる所以だろう。
彼女は入学式に血塗れの制服で現れその場を騒然とさせた人だ。『族のトップを血祭りに上げた』だの『一人で数十人を倒して返り血を浴びた』だのと眉唾な噂が飛び交っていた。
実際は交通事故現場に居合わせて要救護者を介抱したと言うのが真相だそうだ。
だがその真相が明かされると今度は『弱きを助ける優しきヤンキーだ』と勝手に噂がひと歩きして今の二つ名となってしまっていた。
さて、なぜ突然この話を持ち出したかと言うと、それは今俺の目の前にその有名な二人が並んでこちらを見ているからだ。
ここは学校の第二図書室。
そんなに読書家ではない俺だがここにはほぼ毎日昼の時間帯のみ通っている。
第二図書室は一日中開放されているのだが図書の貸し出しは放課後のみ。しかも第一図書室より規模が小さいものだから放課後以外は利用者が極端に少ない。つまり昼寝には持ってこいと言う訳だ。
だから今日もいつものように窓際の席につき伏せようとしていた。が、その瞬間に二つの影が現れた。
それが新實さんと刈谷さんだったのだ。
つい驚いて二人を凝視していると新實さんの手元に見覚えのあるパスケースが目に入った。
昨日から探しても探しても見つからなかった物が今目の前にある。
俺の視線がパスケースに向いたのが分かったのかその存在を強調するかのように自らの胸元まで持っていき揺らしている。
どこで落としたか、どうして彼女が持って居るのか、そして何よりなぜ
既に察している俺は背筋が寒くなっていたのだか、そんな様子を見せず表情を繕う。
そう、昨日雑木林から聞こえた声、そして名前はこの2人だったのだ。
まだ俺が話を聞いていたか確信が無いだろうから、しらばっくれてここは届けてくれたお礼だけを言ってすぐさま去ろう。
俺は何も知らないし何も聞いていないただの通りすがりの人。そんな対応が双方にとって都合が良いはずだ。
「おっ、それ俺のパスケースだ。えーと、刈谷さんが拾ってくれてどこのクラスが分からないからそれを生徒会長に届けてくれた、、って感じかな?
いやー無くして困ってたんだ、刈谷さんも新實さんも本当にありがとう!」
受け取ったらそのまま教室に戻ろうと立ち上がってパスケースに手を伸ばしたが避けられてしまった。
新實さんはニコニコと笑顔だったが何故か目は笑っていない。ついゴクンッと喉なった。
気を取り直してもう一度手を伸ばす。今度は一歩下がって回避する新實さん。
えーー、、、いやいや、ここは簡単に話を終わらそうよー。
「かっ、会長、、、意地悪しないでよー。あっそうだ、お礼が必要だよね!
何が良いかな?学食のチケットとかはどう?」
ほら、俺は何も知らないし何も聞いていなかったんだから無害だよー、もう疑わないでいいんだよーと全力アピール。
そこでじーっと俺を見ているだけだった刈谷さんが新實さんに向きなおってコクンッと頷いた。
すると新實さんは、はぁと一つ息を吐きここに来て漸く口を開いた。
「『2年1組
身長186センチ、体重75キロ。
両親が海外にいる為一軒家で一人暮らしをしている。
成績、教師の評価共に『良』。
何事も卒無く熟すタイプ。
趣味は昼寝。
昼のみ第二図書室へ訪れ、定位置の窓際の席で木曜を除く全ての曜日で昼寝をする。
尚、木曜日に来ない理由は食堂の特別メニューの確保の為である。
クラスでの立ち位置は中の中。浅く広い友人関係を築く。
唯一深い仲はクラスメイトの鈴木和くん。
女性関係は来る者拒まず、去る者追わず。
複数人と交際する事も多々。
相手から交際を迫られると断れないとのこと。
昨日は浮気疑惑で女性二人に詰め寄られた結果、両者に両頬を殴打されその付近の公園のベンチにて休憩。
ーーーその後
こんな感じかしら?」
昨日の今日でここまで調べられますーーー?!!
完全無欠生徒会長怖っ!笑顔すらも消えちゃったし、いつもの気さくな人柄復活してー!
、、、はぁ〜無かった事にすれば良いのに何で蒸し返しちゃうんだよ。
信用か!俺への信用が無いのか!!
「じーーーーーーー。」
刈谷さん、じーーって声出して冷たい目で見ないで。痛いよ、その視線。
ーーーそれにしても、これは誤魔化しはダメって事なのか。いやはや観念して話し合おう。
っとその前に
「一つ訂正があるよ。『相手から交際を迫られると断れない』は間違い。
俺は皆んなが皆んなちゃんと好きだし、愛してると確信してからお付き合いをしてます。」
「じーーーーーーー。」
刈谷さん、じーーって声出して更に冷たい目で見ないで。メンタルゴリゴリに削られるから!
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