俺の愛は浮気とされる〜〜全て本気なのに誰にも理解されない。ーーーと思ったら、、、〜〜

ポカポカ妖気

第1話


我が家の家訓は『己の唯一を一途に愛す』



愛を語る時点で家訓としては些か疑問を持ってしまうものの、父や祖父を見ているとしかとそれが守られているのが解る。


いや家訓と言うよりはこれは『血』なのだろう。 


父も祖父も己の唯一無二である伴侶を溶けてしまうのでは無いかと思うほど溺愛している。


俺はそれを羨ましいと思いながらも自分では無理なのだろうと理解している。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



薄暗い部屋。

漏れ出る熱を帯びた息遣い。

そして、見上げる蕩けた眼差し。


俺は乾いた音を響かせながら重なる相手に微笑みを返す。

疑う事なく完成された甘い空間。



ーーーだが、この後の展開は知っている。知り尽くしている。



この熱い眼差しが、、、悲しみ、怒り、侮蔑に変わる事を、、、。



俺、宮里 遥希みやざと はるきはきっと何かが欠けているのだろう。



悲しませる事しか出来ないポンコツだ。



なんせ自分はーーーー唯一を作ることは出来ないのだからーーー






ーーーおっと、つい自分語りに酔ってしまった。



今しがたガッツリ平手とグーパンで熱を宿した両頬を2本の缶コーヒーで冷やしながらぼーっとベンチに座っている。



まぁ幾らカッコつけて自分語りをしようが現状はただの二股浮気男である。



遡る事数十分前。

某ホテルから彼女と出てきた所へと話は戻る。

エントランスを抜けた所で大変見覚えのある女性が腕を組み仁王立ちしていた。

仮にAさんと呼ぼう。



彼女Aさん

『遥希どういう事!?浮気なの!??

ってかあんた!人の彼氏寝取ろうとするなんてサイテー!!遥希は私の彼氏なんだからね!

遥希もほいほいバカ女に着いて行くなんて、、、許さないんだから!!』




すごい剣幕で襟首を掴まれ詰めよられると隣の彼女をキッと睨む。

すかさず隣の彼女は俺とAさんを引き剥がす。

彼女は仮にYさんとしよう。



彼女Yさん

『ちょっと待って!!貴女こそ私のはーくんの彼女ヅラしないでくんない??

彼女は私。貴女は勘違いなんじゃないの?

はーくんってば優しいからなんの気も無い子にも甘い対応しちゃうんだよね。罪づくり過ぎ。

ここははっきり言ってあげて?』



そう言う彼女Yさんは俺の腕を抱えて余裕の笑みを浮かべた。


俺を挟み睨み合う両者。


おう、修羅場。

ここをどうにかしなければ。

俺は冷静に彼女達が如何に好きかを語ることにした。



「まぁまぁ二人とも。俺は二人とも平等に大好きだよ。

二人ともそれぞれ違った魅力を持っていてどちらかを選ぶ事なんて到底出来ないんだ。

だからこれからも仲良くしてくれたら嬉しいな☆」



そう述べた瞬間両頬に衝撃が走った。

フラフラと後ろに下がる俺。視界には星が舞っている。



「「最低。永遠にさよなら」」



と彼女達は息ぴったりに別れの言葉を残し俺の前から去っていった。



ははっ、、そうなるだろうと分かっていたけど、ね。

まぁ仕方が無い。



俺は家訓『己の唯一を一途に愛す』を実行出来ない男だ。

一人だけを愛するなんて無理な話。

価値観が違うのだから仕方がない。


だって人は一つとして同じ物は無い魅力がそれぞれあるのに、なぜただ一人を選ぶ事ができるんだ。


それぞれの魅力を知ってしまったらその全ての人に恋してしまうのは当たり前ではないのかと思ってしまう。

それを言うと周りは『ただの浮気の言い訳』『本当に人を好きになった事がないからそんな事を』と聞く耳を持ってくれない。


きっと俺は欠陥品なのだと思う。

だから誰も傷つけないようにここ最近は後腐れ無さそうな子達とつるんで居たのだが、、、見誤ってしまったようだ。

本当に悪いことをしてしまった。

暫くは自重しよう。



っと、さっきのことを回想していたら頬の熱も下がってきたなと思考を切り替える。

二つの缶コーヒーをジャケットのポケットに詰め込んでいると不意に後方から話し声が聞こえてきた。



「はぁぁ、好き。由紀の全てが私の全て。」



チュバッ、チュッ、チュッ、と舐めまかしい水音が聞こえ次に別の声が続く。



「私もだよ。早苗さなが好き。あなたの願いなら何でも叶えてみせる。」




後ろは雑木林。そして声は女×女。何より気になるのは聞き覚えが有る声と名前。

おーっとこれは静かに退散する案件が来たようだ。


俺は知らない、聞いてない。

静かにベンチから腰を上げその場から立ち去ろうとした。

だがパキンッと右足から音が鳴る。くそ、小枝を踏んでしまった。



「「ッ!!」」



その瞬間息を呑む音が聞こえたが俺は振り返らず素知らぬ顔でその場を後にする。

声は出してないし後ろ姿だけじゃ誰かも分かるまい。


だがこの時俺は一つミスをしていた。

ジャケットのポケットに缶コーヒーを無理やり押し込んだせいでパスケースが落ちてしまっていたのだ。



それが手元に返ってきたのは翌日の放課後だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「へぇ〜『宮里 遥希』ね。明日学校で返してあげないといけないね、パスケース。

返したときの態度によっては色々・・対応しなくちゃね。」



「由紀、まずは確認、のち場合によって話し合い。」



「分かってるよ。けどーーーどうせあいつも同じよ。」



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