冒険者(仮)になる
寝ぼけ眼の朝
「――んん……」
うめき声と欠伸を一つ。徐々に意識が晴れていく中で瞼を開けると、何処からか入る日の光が眼に刺さった。
「……見知らぬ天井」
あれ……ここどこだっけか……えっと、確か俺たちはケイルに着いて……
ああ、そうだ。宿に泊まったんだ。
泊まる場所を探したが、流石に観光地。目に付く宿はすべて満室だった。そんな中部屋が一つが空いていた宿を見つけて、仕方なくそこに泊まった。
そんでもって部屋にあった風呂入って……あれ、そっからどうしたんだっけか。
「……ん?」
あれ? 懐のぬくもり?
「……んん」
自分の感じている感触に違和感を覚えた瞬間、もぞもぞと掛け布団と懐の間で何かが唸り、蠢く。そしてそれは俺の体を這うようにして俺の頭の方に移動してきて……
「……んぅ」
掛け布団の下からひょこりと現れた翡翠の髪が俺の視界に入る。
「……おはようございます、レイジさ……ふわあぁ……」
目をこすり、欠伸をしながらやや舌足らずに挨拶をしたのは、もちろん俺と一緒の部屋に泊まったエティだ。
「ああ、おはようエ――」
――――ティ!?
呑気に顔を出したエティを見て、一瞬で目が醒めた。
え、なに、なんでエティが布団の中にいる!?
飛び起きて、思いっきり掛け布団を捲る。
結果から言うと――後悔した。
自分の体を見下ろすと、そこにはパンツ一枚のみで。
横でうつ伏せになったままのエティは…………一糸まとわぬ姿だった。
「いやなんでっ!?」
状況を把握するや否や即座にベッドから飛び降りて、掛け布団をエティの上に被せる。
「んうぅ……なんですかぁ……?」
まだ寝ぼけているのか、気怠げな声を出すエティ。
「いや、なんというか。聞きたいのはこっちというか……」
昨日風呂に入ってから寝るまでの記憶が無いことを伝えると、エティは布団から顔を出して俺に柔らかな微笑みを向けてきた。
「レイジさん、お風呂から出てきたらそのままベッドで寝ちゃいましたもんね。覚えてないのも無理はないと思います」
「……そ、そうか」
昨日宿に着いて部屋に入ったときに、安心感からか酷い眠気に襲われたのは覚えてる。まあ、死にかけるような経験して、自分で思っていたよりも疲れてたんだろう、多分。
だから、エティの言ったようにほぼ意識がない状態で風呂から出て眠ってしまったというのは、納得できなくはない。
ついでに今の俺の格好についても納得できた。
意識がなくても尊厳は守ることができたな、俺。グッジョブ俺。
ただ――
「いや、でもなんでエティも俺と同じベッドに?」
これについては別だ。
確か、一部屋にしか泊まれないとわかった際に、エティは言っていたはずだ。
『私は眠らなくても活動できますから、大丈夫です!』
いや、思いっきり寝てたじゃん……どういうこと?
「……ね」
「ね?」
「寝顔を見てたら……つい……」
……え、俺の?
「な、なんで……そんなこと?」
「それ……は……」
未だに眠そうな目のまま小さく答え始めたエティはしかし、答えている途中に少しずつ頬を染めていき……
「――――」
ちらりと俺の方に目線をよこして、目を大きく開けてそのまま固まった。
「……あの、レイジさん、服……着てください」
「え?」
「その……張ってます……よ?」
その視線の先は、俺の顔と床の間辺りを見ている。それを見て、すぐに何を言わんとしているかを気づいた。いや、気づけてしまった。
……いや、しょうがないじゃん。これ、不可抗力だから。
それにエティ、いつの間にか手で顔隠してるけど、指の間からガン見しないでくれ……死にたくなっちゃうから。
とてつもない羞恥心と顔の熱さを感じながらも辺りを見る。昨日の血まみれの制服がどこかにあるはずだ。本当はもう着たくはないが、今の状況で選り好みはしない方がいいだろう。
「あれ、昨日の服は?」
だが、予想に反して制服は見当たらなかった。
いや、確か適当に椅子に置いておいた気がするんだが……
「あ、それなら」
俺の呟きを聞いて、エティは宙にウィンドウを出して操作をする。
「えっと、これですよね?」
言いながら布団から出てきたエティは、いつの間にやら制服を腕で抱えていた。
血まみれでボロボロだったはずの制服は、何故かわからないが、傷もなく新品のように綺麗になっているように見える。
「おお、ありが――」
差し出すように前に出されたそれを俺が受け取ろうと手を伸ばした時に、突如思考が走る。
――今のエティは全裸であって、前面は俺の制服が辛うじてブロックしているような状態になっている。
これ、受け取ると……エティの前面が俺の視界に飛び込んでくることになるのでは?
「レイジさん?」
固まる俺を見てこてん、と首を傾げるエティに、それとなく、伝えてみることにしよう。
「エティ……その、服、がね……?」
「……?」
「あー、着て……ほしいというか……」
「え……っと? なに……を……ぇ…………ぁ…………ッ!?」
困惑したようにしていたエティはしかし、目を自分の体に向けた瞬間、顔と体を真っ赤にして言葉を失ったようだった。
あぁ、自分の状態に気づいていなかったんだな……
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