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「ジゼル、喜びなさい。お前の結婚相手が決まった」

「……え?」

 数日後、ジゼルは父のアドリアンからそう聞かされエメラルドの目を見開いた。

「まあ、やっとなのね」

 母のリアは喜んでいる。

「相手はシャレット男爵家のロジェ君だ。まずは来月のシャレット家主催の夜会で顔合わせとしよう。ジゼルもこれから色々と準備しなさい」

 ジゼルの頭の中は真っ白になり、アドリアンの声は聞こえなかった。






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(私が……結婚……!?)

 自室にて、ジゼルは涙を流していた。

(嫌……知らない相手と結婚なんて嫌!)

 この時代、親の決めた結婚に逆らってはいけないのは常識だった。だからジゼルは絶望していた。

 ジゼルの脳裏にはアンリの姿が浮かぶ。

(アンリさん……助けて……! 私、貴方じゃなきゃ嫌よ!)






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 数日後、ジゼルはまたいつもの木の下にいた。

「ジゼル、どうしたんだ?」

 後ろから声が聞こえた。

 振り向くと、そこにはアンリがいた。

 ジゼルはエメラルドの目から涙を流してアンリに抱きついた。

「お、おい、どうしたんだよ? 何かあったんだな?」

 アンリはジゼルに何かあったことを察した。

「お父様が……私の結婚相手が決まったと……」

「っ!」

 アンリはアンバーの目を見開いた。覚悟はしていたが、この時が来てしまったのだ。

「逆らえないことは分かっています。だけど……やっぱり私、アンリさん以外の相手と結婚なんて嫌です!」

「ジゼル……」

 アンリは切なげにジゼルを抱き返した。

 行き場のない想いを抱えた2人は果たしてどうなるのだろうか。






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「初めまして、ロジェです。よろしく、ジゼル嬢」

 顔合わせの夜会の日がやって来た。

 幸いにも、ロジェは優しく紳士的だった。

 夜会で皆ダンスをする中、ジゼルとロジェはバルコニーにいた。

「ジゼル嬢のそのブローチ、変わっているね」

「ネンガルド王国からの輸入品なんです」

「輸入品か。そうだ、ジゼル嬢。輸入品で思い出したんだけど、輸入船には結構な数の密航者が乗っている事もあるみたいだよ。貿易拠点の港街とかから海を渡る際は、通行券パスポートの提示は求められないからね」

 ハハッとロジェは笑う。

 ジゼルはその話にハッとする。

(アンリさんと一緒にこの国から逃げてしまえば……)






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 夜会の翌日、ジゼルはアンリとの逢瀬の場になっている大きな木の下で、アンリを待っていた。

 覚悟を決めた面持ちだ。

 やって来たアンリはジゼルの表情に少し驚く。

「どうしたんだ? ジゼル」

「アンリさん、一緒に逃げましょう」

 真剣な表情のジゼルだ。

「っ! 今何て!?」

 アンリは目を見開いた。

「一緒に逃げるんです。私の結婚までまだ時間はあります。それに、私聞いたんです。貿易拠点の港街から海を渡って外国へ行く場合、通行券パスポートの提示を求められないと。ナルフェック内で逃げるなら、貴方が誘拐罪で訴えられる可能性があります。でも、海を渡って外国に逃げたら私達は自由です」

「……本気……なのか?」

 戸惑うアンリ。

 ジゼルは大きく頷く。

「もし俺と逃げたら、今までの恵まれた生活は出来ねえぞ」

「覚悟の上です。それに、どんな困難な状況でも、アンリさんが隣にいてくれるだけで私は幸せですから」

 ジゼルは微笑む。その笑みは、今までで1番強く美しかった。

「……分かった。俺も、ジゼルが他の奴と結婚しちまうのは嫌だからな」

 アンリは少し考えた末、頷いた。

「ただ、海を渡って逃げるとしても、どこ

に逃げるんだ?逃亡先が敵対国なら俺達は確実に殺されるぞ」

「そうですね……。候補としては、ネンガルド王国かアシルス帝国でしょうか。ナルフェック王国とは友好的です」

「ネンガルドに逃げた場合、金属資源が豊富でその手の仕事に就けば金が手に入る。ただ、その気になれば追っ手が来る可能性がある。アシルスはかなり寒冷な気候だが、何より領土が広い。アシルス極東まで行っちまえば簡単には見つからねえと思う。軍事力も強大だから、軍関連の仕事に就けば金には困らねえだろう」

「でしたら、私達が行くべきは……」






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 数年後。

 アシルス帝国極東部に、とても仲の良い夫婦がいた。

 褐色の髪にアンバーの目を持つ夫と、ブロンドのふわふわとした長い髪にエメラルドのような緑の目を持つ妻。

 2人の間には3人の子供が産まれ、とても幸せに暮らしたとのことだ。

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